歯周病は、成犬の病気の中で最も多いものの一つです。顔の腫れ・口臭といった症状とともに、腎臓病・心臓病などの原因となることもあります。
犬の歯周病の直接的な原因は、「口内細菌が作るプラーク(歯垢)」と「細菌の代謝産物」です。そして、犬種・年齢・免疫力・食物・咀嚼行動なども関係しています。犬の歯周病について、薬や抜歯などの治療とともに、予防面からも日常の食事・歯磨きといった対策も重要です。
このページでは、犬の歯周病の知っておきべき原因、予防を含めた治療方法・食事対策についてご案内します。記事を通して、ご愛犬の歯周病対策のサポートができれば幸いです。
<目次>
犬の歯周病の症状・検査方法
成犬の60~80%は歯周病が見られる、という統計があります。これは、犬のあらゆる病気の中で、最も発症率が高いといえるデータです。
歯周病が重症化すると、犬は食事をとることがままならないばかりか、痛みによるストレスや他の病気の原因ともなります。そのため、早期治療はもちろん、予防的な対策をとることが望まれます。
歯周病の症状
歯周病の進行に伴い、犬に次のような症状が見られるようになります。
- 歯垢・歯石の蓄積に伴う口臭
- 顔が腫れる
- 歯を気にする、食事の際に痛がる
- くしゃみ・鼻水が出る
歯周病の検査方法
歯周病の検査方法として、「犬に特有の症状が見られるか」といった身体検査とともに「歯のどの部分にどの程度の問題(歯垢・歯石の有無など)が生じているか」という口内検査が行われます。そして、病状に合わせてX線検査・血液検査・菌検査などが検討され、治療方針が定まります。
歯周病の原因
犬の歯周病の直接的な原因は、「細菌によるプラーク(歯垢)の蓄積」と「口内細菌が分泌する代謝産物」によるものです。プラーク(歯垢)はやがて石灰化されて「歯石」となり、歯肉炎・歯周病を誘発します。合わせて、口内細菌が歯周細胞を溶解する代謝産物を分泌し、歯周病が進行していきます。
犬種・年齢・食事など、間接的な歯周病の原因
なお、「犬種」「年齢」「免疫状態」「食事(食べ物)」なども、間接的に歯周病の原因となります。
犬種と歯周病
犬種は、歯周病の発生原因に関わっています。
例えば、チワワ・トイプードル・ミニチュアダックスフンドといった小型犬、フレンチブルドッグ・パグ・シーズーといった短頭種は、「歯並びの悪さ」が歯周病の原因となりがちです。歯の嚙み合わせが悪い部分にプラーク(歯垢)がたまりやすく、歯磨きがしにくいためです。さらに、短頭種の犬は開口呼吸により口内が乾燥しがちであるため、細菌の繁殖や歯周組織のダメージにつながりやすい傾向があります。
また、マルチーズでは、潰瘍性口内炎が発症しやすいと報告されています。
年齢と歯周病
高齢犬では、歯周病の発生率がより高まることが報告されています。
免疫状態と歯周病
免疫力が低下した状態の犬では、口内細菌の繁殖を招き、歯周病の悪化につながります。また、免疫状態が悪化すると、歯周病菌が全身に広がりやすくなり、健康そのものへの影響も懸念されるところです。
食事(食べ物)と歯周病
人では食べ物に含まれる糖質が、歯周病の原因となることが知られています。一方で、犬ではどうかと言うと、必ずしも食事中の糖質が歯周病の原因にはならないという報告があります。
ただ、犬の食事と歯周病に関係がない、という訳ではありません。後ほど、食事対策のことを詳しくご案内しますが、「食感」「抗酸化物質」「ミネラル・ビタミン」といった要素は、犬の歯周病に関わっています。
歯周病の5段階ごとの治療方法
犬の歯周病は、進行性の病気と捉えることができ、主に5段階のステージ分けて考えると治療・予防対策をとりやすくなります。
下記、犬の歯周病の「5段階の進行ステージ」と「ステージごとの治療方法」をご案内します。
ステージ0)軽度の歯垢・歯石(歯周ポケットなし)
犬の口内に歯垢・歯石が見られるものの、歯周に問題がない状態です。歯と歯茎の隙間である「歯周ポケット」は生じておらず、歯肉炎も見られません。
犬の「歯周病ステージ0」の段階では、抗菌剤などの治療薬は必要なく、1年ごとの病院での歯のクリーニングと自宅での歯磨き・食事対策で十分です。
ステージ1)歯垢・歯石の蓄積、歯肉炎(歯周ポケットなし)
歯周ポケットは見られませんが、歯垢・歯石の蓄積と共に「歯肉炎」が生じている段階です。
犬の歯肉にプラーク(歯垢)が蓄積すると、歯肉組織に炎症がおこります。プラークを放置するとさらに炎症が進行し、「歯肉炎」がひどくなっていきます。
ただ、まだ歯肉炎の初期段階ということもあり、抗菌剤などの治療薬は不要です。ステージ1の段階において、犬の歯周病対策は、1年ごとの病院でのクリーニングとホームケアで大丈夫です。
ステージ2)3~5㎜の歯周ポケット、歯垢・歯石の蓄積、歯肉炎
歯肉炎の進行とともに、犬に3~5㎜の歯周ポケットが見られる段階です。
ステージ2の歯周病では、1年ごとに病院で歯のクリーニングを実施するとともに、「クリンダマイシン」「アモキシシリン」「クラブラン酸」といった抗菌性治療薬の投与が検討されます。もちろん、家庭内での歯磨き・食事などの対策は欠かせません。
ステージ3)5~7㎜の歯周ポケット、歯垢・歯石の蓄積、歯肉炎
歯周ポケットが深くなり、歯肉炎も進行した段階です。
犬の歯周病がステージ3になると、病院での歯のクリーニングは半年ごとが望まれます。ステージ2と同様の治療薬を投与しながら、歯周ポケットが深い場合など、「ドキシサイクリンゲル」を局所投与するケースもあります。
ステージ4)7㎜以上の歯周ポケット、重度な歯垢・歯石、歯肉炎
犬にかなり重度な歯周病が見られる段階です。
ステージ4の歯周病では、壊死した組織の除去手術や抜歯がしばしば実施されます。また、歯肉フラップと呼ばれる治療方法が取られることもあります。
犬の歯周病の予防方法
犬の歯周病は、日常の中で予防対策をとることも大切です。ただ、歯磨きを許容してくれる犬なら良いですが、難しいケースが一般的です。そこで、「歯磨き用ガム・おやつ」や「食事・サプリメント」が予防方法として挙げられます。
歯周病対策の食事については、後ほど詳しくご案内しますので、こちらでは犬用「歯磨きガム・おやつ」についてご紹介します。
犬用の歯磨きガム・おやつ
犬用の歯磨きガム・おやつとして、数多くの商品が販売されています。中には、歯磨き効果が疑われるものや、犬の健康上良くないものも見受けられますが、良質な歯磨きガム・おやつは、歯周病の予防に有用です。
商品をチェックする際にも参考となる、犬用の歯磨きガム・おやつの効用として、下記のポイントが挙げられます。
- 唾液の分泌を促す → 唾液は歯周に残っている食べかすを分解してくれるとともに殺菌作用があります。犬用歯磨きガムにより唾液分泌量が増えると、歯周病の予防につながることが期待できます。
- 口内の掃除 → 犬用歯磨きガム・おやつの中には、形状や食感を工夫することにより、物理的に口内を掃除してくれるタイプがあります。歯の隙間に残った食べかすなどを掃除してくれれば、歯周病予防になります。
- 機能性成分 → 歯周病予防につながる、機能性成分を含んだタイプの犬用歯磨きガム・おやつも存在します。抗菌物質や抗酸化物質などを含む歯磨きガム・おやつは、より有用性が高いかもしれません。
※歯周病対策グッズについて
歯周病対策の「犬用おもちゃ」「スプレーなど外用剤」も販売されています。先にご紹介した「歯磨きガム・おやつ」にも言えることですが、歯周病の予防効果とともに「安全性」に注意が必要です。
例えば、歯周病予防・歯磨き効果をうたった「犬用おもちゃ」の中には、逆に歯が欠けてしまうなどの事故につながりやすい商品もあります。スプレーなどの外用剤も、確かな安全性が確認されているものなのかどうか、事前にチェックするようにしましょう。
歯周病3ポイントの食事対策
それでは、犬の「歯周病の食事対策」について、ご案内します。人のような歯磨きが難しいワンちゃん達にとって、食事で歯周病対策をとることは重要です。下記「犬の歯周病・3つの食事対策」としてご案内します。
1)形状・食感
「食べ物の形状・食感」は、犬の歯周病の予防に関係します。
例えば「柔らかいドッグフード」と「硬いドッグフード」を比較すると、「柔らかいドッグフード」の方が歯石がたまりやすい、という科学報告が多数あります。ただし、これは一概に言えないところでもあり、ウェットフードとドライフードを比べても歯石蓄積量に大きな差はない、という知見も存在します。重要なポイントとして、「ドッグフードの食感がはっきりしていて、粉々に砕けにくいタイプ(縦に裂けるようなイメージのタイプ)」のものが、犬の歯石蓄積を予防することが知られています(歯の表面への接触時間が長いタイプが良いようです)。こういったタイプのフードは、「歯肉のマッサージ効果」とともに「歯垢・歯石の蓄積予防」にもつながります。
国際的には「VOHC(獣医口腔保健審議会)」という組織により、犬の歯周病対策に良いフードの認証制度が行われており、その主な認証基準が「形状・食感」にあります。「形状・食感」は、飼い主さんにわかりにくい項目であるため、日本国内でも、こういった認証制度の導入が望まれるところです。
※「手作り食が歯周病予防に良い」という誤解
一部では、市販ドッグフードよりも手作り食が歯周病対策に良い、ということが言われています。しかしながら、この点、科学的には事実でないことが検証されています。(市販フードと手作り食、どちらが歯周病対策に良い、ということは言えないという結果が報告されています。)
2)抗酸化物質
酸化ダメージは、犬の歯周病の発症に関わっていると考えられています。また、既に重度の歯周病になっている犬では、歯肉と血液中の抗酸化力が低下しているという報告もあります。
そのため、犬の歯周病の予防・対策に「抗酸化物質」は重要です。
特に、ビタミンC・ビタミンE・セレンといった抗酸化物質は、犬の歯周病ケアへの有用性が報告されており、ドッグフード&食事に含まれていることが望ましいです。
(※ビタミンC・ビタミンEについて、詳しくは「犬にビタミンCは必要?!」「犬にとってのビタミンE」をそれぞれご覧ください。)
3)カルシウム・ビタミンD
手作り食を続けているワンちゃんの中に、カルシウム欠乏と歯周病が関係している子がいる、という報告がなされています。適切なカルシウムの補給は、歯槽骨の形成などにも関わるとされています。総合栄養食の基準を満たしている市販ドッグフードでは、犬がカルシウム欠乏に陥ることはありませんが、手作り食ではどうしても欠乏する可能性があります。
また、各種のビタミン群の欠乏も歯周病には好ましくありません。特に、ビタミンDは手作り食で欠乏しがちであるとともにカルシウムの吸収にも関わるため、歯周病の犬には注意が必要です。
※腎臓病・心臓病への配慮
犬の歯周病は、腎臓病・心臓病を併発しやすい傾向にあります。そのため、歯周病のワンちゃんは「リン・ナトリウム制限」など、腎臓病・心臓病への食事対策を合わせて実施した方が良いケースもあります。
※糖質と犬の歯周病の関係性
人の歯周病では、糖質(砂糖など)が発症・進行の原因となります。しかし、犬の歯周病では、糖質との関連性は低いと報告されています。
糖質が犬の歯周病と無関係である理由は、はっきりとしたことがわかっていません。唾液の量・歯の構造・口内pHなど、人と犬の違いが関係しているのかもしれません。
とは言え、犬に砂糖類など消化されやすく血糖値がアップしやすい糖質を与えすぎないことは、健康上、大切なポイントであることに留意しましょう。
※犬用・歯周病対策サプリメントについて
食事の一貫として、「犬用・歯周病対策サプリメント」を検討されている方も多いと思いますので、少し触れておきます。
歯周病対策サプリメントでは、機能性として「抗酸化物質」「抗菌性」の2つがポイントとして挙げられます。先にお伝えしたように「抗酸化物質」は、犬の歯周病ケアに有用ですし、口臭対策にもなりえます。「抗菌性」については、口内の歯周病・原因菌の抑制とともに、腸内善玉菌を抑えてしまわないかという副作用的な要素へのチェックが必要です。
「抗酸化物質」「抗菌性」という2つの機能性が信頼できるサプリメントであり、歯周病にとどまらず、犬の健康全般に配慮しているものであれば、検討余地があると思います。
まとめ
犬の歯周病について、症状・原因・検査方法から治療&予防方法、食事対策をご紹介しました。このページにより、歯周病で悩むワンちゃん達のサポートができれば幸いです。ご不明な点など、いつでも仰ってくださいませ。
下記、記事内容のまとめです。
- 歯周病の犬では、「口臭」「顔の腫れ」などの症状が見られる。
- 歯周病の検査では、「身体検査」「口内検査」「X線・血液・菌の検査」などが行われ、病態の判断とともに治療方法が選択される。
- 犬の歯周病では、「歯垢・歯石の蓄積」「歯肉炎の有無」「歯周ポケットの深さ」などに基づく5段階のステージ分けがなされており、ステージごとに推奨される治療方法がある。
- 犬の歯周病では、「歯磨きガム・おやつ」「食事対策」を中心とした予防方法を検討する。
- 犬の歯周病の食事対策として、「形状・食感」「抗酸化物質」「カルシウム・ビタミンD」の3ポイントが挙げられる。