犬の大腸炎、治療と食事

体調が悪い犬

下痢や血便など、犬の消化器トラブルで多い病気の一つに「大腸炎」があります。

犬の大腸炎は、原因が多岐にわたる複雑な疾患です。そのため、治療方法も大腸炎の症状・原因にあわせたものでなければなりません。

このページでは、科学的な見地から、犬の大腸炎の「治療」と「食事」について、詳しくご案内いたします。

<目次>

犬の大腸炎、症状・原因

犬の大腸炎といっても、様々な原因があります。症状としては、大腸性下痢・血液便といったところが一般的ですが、根本的な原因を突き止めることができないケースも多いです。

まずは、「愛犬が本当に大腸炎なのか、症状をチェックする」ことが大切です。そして、可能な限り大腸炎の原因を突きとめることで、その後の治療や食事対策も進めやすくなります。そこで、犬の大腸炎の症状・原因をまとめましたので、見ていきましょう。

(※犬の下痢嘔吐など、大腸炎を含めた消化器トラブル全般については、次のページで詳しくご案内しています。→「犬の下痢嘔吐、治療と食事」)

大腸炎の症状

犬の大腸炎の症状は、「大腸性下痢」が見られる特徴があります。犬の大腸性下痢は、次のような症状が一般的です。

  • 下痢が続くものの、排便時には出しにくそうな仕草が見られる(下痢と普通便を繰り返すこともある)
  • 犬が切迫した排便の姿勢をとる
  • 粘膜や血液便を排出する(血が混じった血便というよりは、血液そのものを出すような傾向がある)

このあたりは、小腸にトラブルを抱える「小腸性下痢」とは異なる症状となります。

(※犬の下痢の種類については、「犬の下痢 4つのタイプ」で詳しくご案内しています。)

大腸炎の原因

犬の大腸炎の原因として、大きくわけると「食事」「感染」「腸内細菌バランスの異常」などが挙げられます。

原因①食事

「肉食」「高脂肪」に偏りすぎた食事は、犬の大腸炎の原因となります。質の悪い脂肪・タンパク質が大腸内で腐敗をおこし、炎症につながることが要因です。さらに、食物繊維が少なくなると大腸内の細菌バランスを崩してしまい、大腸炎の症状を促進させます。

また、異物やゴミなどを食べることによる物理的なダメージや中毒症状が、犬の大腸炎発症の原因となるケースもあります。

原因②感染

感染を原因とする、犬の大腸炎も多種多様です。細菌・真菌・ウィルス・寄生虫など、様々な感染源により大腸炎を発症します。

原因③腸内細菌バランスの異常

原因の①や②に付随することでもありますが、大腸内の細菌バランスが崩れ、大腸炎を発症していることも多いです。つまり、犬の腸内善玉菌よりも悪玉菌が異常繁殖している状態です。最近の研究では、ほとんどの犬の大腸炎において、腸内細菌バランスの乱れが見られるという報告もなされています。

大腸炎の治療方法

治療

犬の大腸炎の治療方法は、できる限り原因を特定し、それに応じた対処をとることが望まれます。例えば、「感染」に原因がある場合、問題となっている菌種を見極め、それに対する抗生剤(抗生物質)を投与する、などの治療が挙げられます。

実際のところ、犬の大腸炎では複数の原因が絡んでいることも多く、総合的に治療にあたることが望まれます。以下、原因ごとの大腸炎の治療方法をまとめました。

治療①「食事」が原因のケース

全ての大腸炎の犬に共通する「食事対策」については、後述します。ここでは、特に「食事が主原因」となっている大腸炎について、治療方法をご案内します。

まず、肉食・高脂肪食に偏り過ぎている犬では、食事内容のバランスを改める必要があります。そのうえで、腸内細菌の状態などを見極め、整腸剤や抗生剤・粘膜の保護などを検討します。治療も大切ですが、大腸炎の原因となっている「食事」の改善に努めることがポイントです。場合によっては、犬の絶食を検討することも一つの選択肢です。

治療②「感染」が原因のケース

菌や寄生虫の感染が原因となっている大腸炎の場合、どのような種類の菌・虫なのか、できれば特定したいところです。そのうえで、感染微生物に対する抗生剤などを投与することで、犬に負担が少なく、大腸炎を治療することができます。また、犬の大腸炎の炎症を抑えるために、ステロイドを投与することもあります。抗生剤やステロイドの使用は、腸内善玉菌を抑えこむことにつながるため、合わせて整腸剤なども検討されます。

治療③「腸内細菌バランスの異常」が原因のケース

腸内細菌バランスが崩れると、犬の腸表面の粘膜組織が壊れ、悪玉菌の侵入を許すことになります。このことが、犬の大腸炎を悪化させる要因の一つです。

腸内細菌バランスの異常を原因とする場合、どのような乱れ方をしているのか、菌の傾向をつかむことが望まれますが、検査・診断により、犬の大腸内の状態を検知することは困難が伴います。そのため、犬の状態を見極めながら、ビオフェルミンをはじめとする整腸剤・粘膜の保護剤・抗生剤・ステロイドなど、複数の治療方法を検討することになります。また、犬の食事を含めた、中長期的な大腸炎対策を進めることも大切です。

大腸炎の食事対策、5つのポイント

犬の食事対策

それでは、犬の大腸炎の食事対策について、5つのポイントに分けてご案内します。

1)高・食物繊維

犬の大腸炎では、食物繊維の含有量を多くした食事が有効であるケースが多いです。そして、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよくミックスし、食事全体の7%ほどを食物繊維が占めるようなバランスが「犬の大腸炎には良い」、という報告がなされています。

食物繊維のメリット

犬の大腸炎への食物繊維のメリットとして、次のような要素があります。

  1. 腸の運動性をよくし、未消化物の腸の通過時間を正常化する
  2. 腸内の毒素を薄め、無毒化する
  3. 過剰な水分を貯めこんでくれる
  4. 腸内細菌バランスの正常化
  5. 犬の大腸細胞へのエネルギー供給

これら食物繊維の有用性により、犬の大腸炎をケアすることができます。

(※食物繊維について、より詳しくは「犬と食物繊維の相性」をご参照ください。)

2)高消化性のタンパク質

必要十分な量のタンパク質を効率よく消化できることも、犬の大腸炎にはプラスに働きます。

大腸炎の犬は、病気を抱えているとはいえ、タンパク質の必要量は健康なワンちゃんと同じレベルにあります。一方で、大腸にトラブルを抱えていることもあり、消化吸収に負担をかけることは避けなければなりません。また、タンパク質の消化が悪いと炎症を増長したり、アレルギーの一因ともなりえます。そのため、消化の良いタンパク質をしっかり補給することが、犬の大腸炎の食事には大切です。

3)良質な脂肪

大腸炎の犬では、脂肪の消化吸収システムが一部破綻しているケースがあります。大腸内で未吸収の脂肪に対して、腸内細菌が作用し、「ヒドロキシ脂肪酸」という犬にとっての毒素が排出されることがあるのです。

そのため、大腸炎の犬では、高脂肪をさけつつ「脂肪の質」を良くし、吸収されやすいフレッシュな食事を与えることが要求されます。

4)ミネラルバランス

大腸炎に限らず、慢性下痢の犬は脱水症状に陥りがちです。そして、水分とともに、ナトリウム・クロール・カリウムといったミネラル成分のバランスが崩れた状態にあります。そのため、大腸炎の犬では、ナトリウム・クロール・カリウムのバランスに配慮した食事が求められます。

5)腸内善玉菌をアップ

最近の研究により、犬の大腸炎では、腸内細菌の乱れが顕著であることが理解されるようになってきました。一部の悪玉菌が異常増殖し、善玉菌が劣勢に立たされているケースが見られます。そのため、犬の腸内善玉菌を増やすような食事内容が望まれます。

腸内善玉菌を増やす工夫とは?

乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌など、犬の腸内善玉菌を増やすためには、「善玉菌を取りいれ生きて大腸まで届ける」「犬の腸内に住む善玉菌をアップさせる」という2つの工夫が挙げられます。いずれも、犬の大腸炎に有効です。

善玉菌を生きて大腸まで届ける方法

善玉菌を生きたまま犬の大腸まで届けることは、簡単ではありません。ほとんどの乳酸菌・ビフィズス菌は犬の胃酸により死滅してしまいますし、多くの善玉菌は酸素に触れるだけで死んでしまいます。そのため、「生きて大腸まで届くタイプの有胞子性乳酸菌や枯草菌を活用する」「大腸まで届くコーティング加工を施したサプリメントを利用する」などの方法が対策として考えられます。

犬の大腸内に住む善玉菌をアップさせる方法

もう一つ、もともと犬の大腸内に住んでいる善玉菌をアップさせることも重要です。そのために、善玉菌のエサとなり悪玉菌には利用されにくい成分「発酵性食物繊維」「難消化性炭水化物」「オリゴ糖」などを、犬の食事に加えることが有効です。実際に、犬の大腸炎の治療現場でも、これらの成分を増量することにより、有効な治験が得られています。

まとめ

  • 犬の大腸炎では、「大腸性下痢」という症状がみられる。
  • 犬の大腸炎の原因として「食事」「感染」「腸内細菌バランスの異常」などの原因が挙げられる。
  • 犬の大腸炎の治療では、原因を見極めながら、整腸剤・抗生剤・ステロイド・粘膜保護剤・食事などの対策を検討する。
  • 大腸炎対策の食事のポイントとして、「高食物繊維」「消化の良いタンパク質」「良質な脂肪」「ミネラルバランス」「善玉菌アップ」が犬に有効。

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