犬にとってのビタミンE

ビタミンEは、抗酸化力により、犬の健康にプラスとなる栄養成分です。ビタミンEの欠乏は、犬の様々なトラブルにつながり、ドッグフードや食事でしっかり与えることが重要です。

ビタミンEは、植物油や種子をはじめ多くの食品に含まれており、「脂溶性ビタミン」であることから、油脂と一緒に取り入れることで吸収率がアップします。また、熱や酸には安定だけど、光・紫外線により壊れやすい、という性質も持っています。

一方で、犬にビタミンEを与えるにあたり、注意すべきポイントもあります。このページでは、犬にとってのビタミンEについて、欠乏症や過剰摂取、「あまり知られていない留意点」などについて、ご紹介します。

<目次>

ビタミンEの種類

「ビタミンE」といっても、幾つかの種類があります。一般的に天然ビタミンEには、4種のトコフェロール(α,β,γ,δ)、4種のトコトリエノール(α,β,γ,δ)、合計8種が存在しています。

犬の体内で最も活性が高いビタミンE

ビタミンEは、犬の体内やドッグフードの中で抗酸化物質として働いています。そして、8種のビタミンEの中で、犬の体内で最も抗酸化力の活性が高い成分が「α‐トコフェロール」です。ビタミンEの種類により、犬の体内でのパワーが異なるわけですが、成分値としては「総ビタミンE」として判定されてしまうことが一般的です。

そのため、病気が関係するなど、より細かくビタミンEをチェックすべき時は、その種類にも目を配らなければなりません。

ドッグフード中で最も活性が高いビタミンE(天然の酸化防止剤として)

一方で、ドッグフードの中では「γ‐トコフェロール」が最高の抗酸化活性をほこります。そして、犬の体内では高活性の「α-トコフェロール」は、ドッグフード中ではあまり役に立ちません。

どうして、ドッグフード中と犬の体内で、活躍するビタミンEが違うのでしょう? 気になるところですが、内容がマニアックになりますので、まだ別の機会にご案内させてください。

ドッグフード中で最高活性のビタミンE「γ‐トコフェロール」に話を戻します。

「γ‐トコフェロール」は、ドッグフード中で「天然の酸化防止剤」として扱われます。ただし、「γ‐トコフェロール」だけで十分なパワーを発揮しているとは言い難く、抗酸化剤・酸化防止剤としては微弱です。

そのため、天然の酸化防止剤としてある程度のパワーをえるためには、ビタミンC(アスコルビン酸)やロースマリーなど、他のものとミックスして添加される必要があります。

※ドッグフードで使用される「酸化防止剤」については、「ドッグフードの気になる原材料」をご参照ください。

ビタミンEの役割・機能

pixta_12913840_m

犬にとって、ビタミンEの最重要な役割は、「細胞膜キープ」です。やや専門的な内容になりますが、わかりやすくシンプルに見ていきましょう。

細胞膜のダメージによる病気・トラブル

犬の体内では、ダメージの素となる「活性酸素・過酸化物」が生じます。活性酸素が増えると、身体の各所で酸化(金属でいうサビの状態)がおこり、様々な病気やトラブルにつながります。

特に、細胞の表面を覆っている「細胞膜」は、酸化されやすい脂質が主成分となっていることから、下記のような流れにで、「活性酸素・過酸化物」によるダメージを受けます。

活性酸素・過酸化物の発生 → 生体膜の脂質が「過酸化脂質」に変化 → 過酸化脂質は、連鎖的に脂質の酸化を進める → 細胞膜の崩壊

細胞膜が壊れていくと、ガン・皮膚病・腎臓病・脳の病気・消化器疾患など、あらゆる病気やトラブルの素となります。

ビタミンEは、細胞膜のダメージを未然に防ぐ!

恐ろしい細胞膜トラブルにつながる「活性酸素・過酸化物」に対抗してくれる成分が、ビタミンEです。

ビタミンEは、脂質の過酸化を抑え、「活性酸素・過酸化物」から細胞膜を守ってくれています。ビタミンEの存在のおかげで、犬は、細胞膜トラブルに起因する病気を防ぐことができているのです。

「ビタミンC」と「ビタミンE」を合わせて取った方が良い理由

一方で、ビタミンEには、頑張った後の副作用もあります。

「活性酸素・過酸化物」から細胞膜を守ってくれたビタミンEは、「ビタミンEラジカル」と言われる成分に姿をかえ、逆に犬にとってダメージ要因となるのです。

そこで、登場するのが「ビタミンC」。ビタミンCは、有害な「ビタミンEラジカル」を正常な「ビタミンE」に戻してくれます。

つまり、「ビタミンC」と「ビタミンE」を合わせて摂取することも、犬の健康には大切なポイントです。

(※ビタミンCについては、次のページで詳しくご案内しています。→「犬にビタミンCは必要?!

ビタミンEの欠乏症・過剰摂取

もし、犬にビタミンEが欠乏すると、どのような弊害が起こるのでしょうか?また、過剰に取りすぎると、問題があるのでしょうか?

多くの知見の中から、特によく見られる犬の「ビタミンE欠乏症」や「ビタミンE過剰摂取」について、ご紹介します。

ビタミンEの欠乏症

  • 「精子形成障害」などの繁殖トラブル
  • 筋肉が弱くなる「退行性骨格筋疾患」「筋委縮」
  • 腸の平滑筋への色素沈着がみられる「脂褐素症」
  • 「肝臓壊死」など肝臓トラブル
  • 各種の神経系トラブル
  • 皮膚疾患

これらが犬のビタミンE欠乏症として知られています。

ビタミンEは、犬の全身に力を発揮してくれますが、中でも関連性の高い部位が、「生殖」「筋肉」「神経系」「血液」「肝臓」「皮膚」です。

これらの組織は、細胞膜機能が大切であり、酸化が起こりやすい面もあります。ビタミンEの抗酸化力により、犬の「生殖」「筋肉」「神経系」「血液」「肝臓」「皮膚」の機能を守ることができています。

ビタミンE欠乏をケアするコツ

1)脂肪の「質」に気をつける

ビタミンEは、水に溶けにくく油脂に溶けやすい、「脂溶性ビタミン」に該当します。そのため、ビタミンEの吸収は、脂質の吸収状態に深く関係しています。例えば、肝臓の機能トラブルなどで脂質の吸収率が低下すると、ビタミンEも取り入れられにくい状態となってしまいます。

逆に言うと、ワンちゃんの食事について、日常から「質」のよい脂肪を適量与えるようにすれば、ビタミンEも吸収されやすくなります。

つまり、良質な脂肪により、脂肪が吸収・代謝されやすくなり、ビタミンEも補給されやすくなります。

2)ビタミンEの種類に留意する

冒頭で複数種あるビタミンEの中で、犬の体内で効力を発揮しやすいタイプのものと逆に抗酸化力が弱いものがあります。抗酸化力が弱いタイプのビタミンEばかりでは、摂取量よりも実際の効果が得られず、欠乏リスクが生じるため注意が必要です。

α‐トコフェロールなど、犬の体内で効果が期待できるビタミンEを選ぶようにしましょう。

ビタミンEの過剰摂取・毒性

ビタミンEは、犬への過剰摂取の影響はほとんどない、と考えられています。脂溶性ビタミンの中で、犬への毒性が最も低い、というデータもあります。

それでも、間接的なビタミンEの過剰摂取についての報告があるため、ご紹介します。

犬に非常に多量のビタミンEを与えた場合、他の脂溶性ビタミンを邪魔することとなり、ビタミンA・ビタミンD・ビタミンKの吸収が減る、という知見があります。それに伴い、肝臓中のビタミンA不足・骨形成の異常・血液凝固のブロック、などが見られるようです。

こういった科学報告もあり、国際的なペットフードの栄養検査機関である「AAFCO」では、犬でのビタミンE最大許容量を1,000IU/㎏としています。

ビタミンE多量摂取が有用なケース

また、犬の病気において、ビタミンEの多量摂取が有用とみなされている症例もあります。

それは、「炎症性の皮膚疾患」です。ビタミンEのもつ抗酸化力が、脂質の酸化を防ぎ、皮膚のバリア機能などを健やかに保つと考えられています。

ビタミンEの あまり知られていない留意点

目安量について

AAFCOが公表しているビタミンEの基準では、犬のライフステージに関わらず、50IU~1,000IU/㎏(フード乾燥重量あたり)という数値が公表されています。

別の検査機関「NRC」では、全てのライフステージの犬で「α‐トコフェロール」を30㎎/㎏以上、という基準が出されています。

他の成分との相性

先にお伝えしたように、ビタミンCとは相性バツグンのため、合わせて取り入れることが望まれます。

また、過剰摂取のところでふれたとおり、ビタミンA・D・Kと競争しあうため、ビタミンEをよほど多量摂取する場合は、注意が必要です。

種類に関する盲点

ビタミンEの種類の項でもお伝えしたように、活性値に差があるため、その点を考慮しなければなりません。

特に、「酸化防止剤」として使用されているビタミンEは、犬の体内ではあまりパワーを発揮しないため、注意が必要です。

運動量が多い犬への投与

運動量が多い犬、特にスポーツドッグやワーキングドッグは、ビタミンEを通常より多めに与える必要があります。例えば、犬ぞりレースの選手は、ビタミンEの給与量と運動パフォーマンスに明らかな差があったとのことです(Piercy, 2000)。

また、ビタミンEと合わせてビタミンC量を増やしてあげることも重要です。

もし、ご愛犬の運動量・散歩量が多いということであれば、通常よりも多めのビタミンEが必要となることも頭においておきましょう。

病気の犬へのビタミンE補給

病気によっては、犬へのビタミンE給与量を増やしてあげた方がよい症状もあります。

例えば、下記のような病気・トラブルでは犬のビタミンE必要量が多くなります。

○ 肝臓や胆管の疾患

ある種の急性肝臓トラブルや慢性肝炎では、脂質の過酸化が原因として考えられています。(Scalfani. 1986)

銅や鉄など、重金属が犬の肝臓に蓄積すると、酸化物質が生じ、肝臓にダメージを与えるのです。

そのため、肝臓病の犬に抗酸化物質として、ビタミンEおよびビタミンCを与えることは有用とされています。(Twedt, 1995)

例えば、肝臓病のワンちゃんの食事・ドッグフード内にビタミンE 400IU/kg以上、ビタミンC 100mg/kg以上を含むことが好ましい、と報告されています。

※肝臓病をはじめ、犬の病気と食事については、次のページで詳しくご案内しています。→犬の病気別ドッグフード・食事療法

○ 皮膚疾患

犬の皮膚炎の中には、ビタミンEの欠乏が原因となっているケースがまれにみられます。

実際に、皮膚は体の外・内を隔てるバリアとして働いており、多くの酸化ストレスにさらされています。そして、ビタミンEなくしては正常な皮膚を維持することはできないでしょう。

もし、皮膚疾患のワンちゃんで、食事の中にビタミンEが不足している場合、積極的なビタミンE投与が行われます。

※犬の皮膚病と食事について、詳しくは「犬の皮膚病 治療と食事」をご覧ください。

○ 肥満犬のダイエット実施時

肥満気味のワンちゃんは、より高い酸化ストレスを抱えている傾向にあります。そのため、肥満していない犬よりも、多くの抗酸化物質を取り入れなければなりません。

特に、ダイエットを実施している肥満犬は、炭水化物・脂肪の制限(カロリーの制限)、高タンパク質などに加えて、ビタミンE・ビタミンCを積極的にとりいれ、抗酸化力を高めることが推奨されています。

※犬のダイエットについては、「犬のダイエット 4つの食事対策」もご参照ください。

ビタミンEを含む食品

ビタミンEは、種実・油脂類・魚の卵などに多く含まれ、野菜・果物にも広く存在する成分です。

<ビタミンEを含む食品・食べ物>

・アーモンド、ひまわりの種など「種実類」

・ひまわり油、べに花油、大豆油など「植物性油脂類」

・あんこうのキモ、すじこ、キャビア、いくら、たらこなど「魚の卵・内臓類」

・野菜や果物

熱に安定な成分であるため、ビタミンEは加熱調理もOK。オイルやビタミンCと合わせて与えると、ワンちゃんには吸収しやすく抗酸化力アップも期待できます。

まとめ

  • ビタミンEには、天然成分として8種類が存在する。その中で、「犬の体内で高活性のビタミンE」と「ドッグフードの中で高活性のビタミンE」は、種類が異なる。犬の体内で抗酸化力が高いビタミンEは、「α-トコフェロール」、ドッグフードの中で酸化防止剤として機能しやすいビタミンEは、「γ‐トコフェロール」である。
  • 犬にとって、ビタミンEの最重要の役割は、「細胞膜」をキープすること。ビタミンEのもつ抗酸化力により、脂質の酸化を防ぐことができ、細胞膜の構造維持に役立っている。
  • ビタミンCとビタミンEを合わせて取り入れると、より効率的に犬の体内の酸化を防ぐことができる。
  • ビタミンEが欠乏すると、犬は「生殖」「筋肉」「神経系」「血液」「肝臓」「皮膚」などにダメージを負うことになる。様々な犬のビタミンE欠乏症が知られている。
  • ビタミンEを単独でみたとき、犬での過剰摂取の毒性は報告されていない。ただ、ビタミンEの過剰摂取は、ビタミンA・ビタミンD・ビタミンKの吸収不良につながる恐れがあり、国際的な動物の栄養検査機関「AAFCO」では、犬でのビタミンE最大許容量を1,000IU/㎏と報告している。
  • あまり知られていない、犬とビタミンEに関する話題・留意点として、「目安の推奨量(50IU~1,000IU/㎏)」「他の成分との相性」「ビタミンEの種類についての盲点」「運動量が多い犬へのビタミンE給与」「病気の犬とビタミンE」について、ご紹介した。
  • ビタミンEを含む食品として、種実類・魚の卵や内臓・植物性油脂類・野菜や果物がある。

関連記事

  1. キャベツ

    犬と食物繊維の相性

  2. 犬にビタミンCは必要?!

  3. 犬にポリフェノールの是非

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)