犬の心臓病 症状・治療・5ポイントの食事療法

犬の心臓病

心臓病は、犬の死亡原因の中で、トップ3に入る病気です。10歳以上の犬の約1/3が発症しているとも言われる「僧帽弁閉鎖不全症」をはじめ、様々な「心不全」「心臓肥大」「心雑音」といった症状や、「肺水腫」「腎不全」などを併発するケースも多いです。

犬の心臓病の対策では、「進行ステージ」「原因」「病態」などをチェックし、ワンちゃん個々の治療・食事療法を実施することが大切です。

このページでは、犬の心臓病について、ステージや症状にふれながら、治療方法・食事(ドッグフード)について、ご案内します。記事を読んでいただくことで、ご愛犬の心臓病に適切な対策をとっていただければ幸いです。

<目次>

犬の心臓病 症状&4つのステージ

犬の心臓は、全身に血液を送る「ポンプ」のような役割を果たしています。犬の心臓病(心不全)は、ポンプにより送りだされる血流が不適切な状態であり、身体が求めている栄養素を十分に供給できない病気です。

心臓病の症状・3分類

犬の心臓病の症状は、大きくわけて下記3つに分類されます。

1)心拍出量の低下

犬の心臓のポンプ能力が不十分(不適切)で、下記のような症状が特徴です。

  • 虚弱
  • 十分な運動ができない、したがらない
  • 失神

2)肺水腫(肺うっ血)

肺血管の血液量が多くなっている状態を「肺うっ血」と呼びます。犬の心臓病では、肺うっ血の症状がよく見られます

肺うっ血が進行すると、血液が血管の外にしみだし、肺にたまります。この症状は「肺水腫」と呼ばれ、犬の心臓病が重症化したケースに見られます。肺うっ血・肺水腫のワンちゃんでは、次のような「目に見える症状」があります。

  • 呼吸困難
  • 起坐呼吸(横になると呼吸が難しく、お座りして胸を大きく動かして呼吸すること)
  • 咳が止まらない
  • 異常な呼吸音(気管支トラブルなどの乾性ラッセル音、肺トラブルの湿性ラッセル音を伴う)

3)全身の体液バランスの崩れ

犬の身体の中で、心臓と腎臓の働きにより、体液バランスが保たれています。犬が心臓病や腎臓病になると、体液バランスが崩れ、健康を害します。体液バランスの葛に伴ってみられる症状は、下記のとおりです。

  • 肝腫大
  • 腹水
  • 胸水

犬の心臓病、4つのステージ

犬の心臓病では、進行に応じた4段階のステージがあります。心臓病の対策を検討するにあたり、ワンちゃんがどのステージに該当するのか、把握することが一つのポイントになります。下記、犬の心臓病「4段階(A~D)のステージ」についてご案内します。

ステージA

心不全の発症リスクが高いものの、心臓に器質的な変化はない。犬に軽い心雑音がある、などの状態。

ステージB

心臓に器質的異常はあるが、過去にも現在にも心不全兆候はない。

例)僧帽弁逆流の無症候性雑音が見られる、など。

ステージC

犬の心臓に器質的な異常が見られ、かつ、現在または過去に心不全兆候がある状態。

ステージD

標準的な治療では効果不十分、といえる心不全兆候が見られる。

例)標準用量のフロセミド・ACE阻害剤・ピモベンダンなどの薬では、不十分な状態といった定義。

心臓病の犬に起こっていること

心臓病の犬では、身体の中でどんなことが問題となっているのでしょうか?

犬の心臓病に共通して注意すべきポイントについて、見ていきましょう。

全身の高血圧

犬の心臓病では、局所的な血圧にとどまらず、全身に高血圧が見られるケースもあります。全身の高血圧は、心臓に負担をかけるだけではなく、腎臓病が疑われる所見であり、注意が必要です。

合併症(腎臓病)の存在

犬の心臓病に頻発する合併症は、腎臓病です。犬の心臓病では、「慢性腎疾患がベースにあるケース」と「心臓病が慢性腎疾患を悪化させるケース」の両方があり、両疾患が相乗的に悪化させあう関係にあります。

そのため、心臓病を抱える全てのワンちゃんにおいて、腎臓病の検査が必須となります。具体的には、「BUN(尿素窒素)」「クレアチニン」といった血液検査数値や「電解質」「カルシウム」「リン」といった指標をチェックし、腎臓の状態をモニタリングしなければなりません。

(※心臓病と関わりが深い、犬の腎臓病について、詳しくは「犬の腎臓病 症状にもとづく治療・7ポイントの食事療法」や「犬の腎不全、治療と7ポイントの食事療法」をご覧ください。)

心臓活動に関わる栄養成分の変動

栄養として、「脈動や心筋収縮に関わる成分」や「犬の心臓に特に多く含まれる成分」があります。こういった栄養成分は、犬の心臓病で重要です。

例えば、

  • 「マグネシウム」は、犬の不整脈の進行・悪化に関与する
  • 重度の「電解質」異常による心筋収縮性の低下は、犬の心筋虚弱を起こす
  • 「タウリン」の減少は、心筋症と関係する
  • 心臓組織において、「L-カルニチン」は含有量が特に多い

といった心臓病の栄養所見が知られています。

神経ホルモン活性化因子の異常

犬の心臓のポンプ機能は、神経ホルモンの作用により正常に保たれています。逆に言えば、進行した心臓病では、神経ホルモンの異常が見られるようになります。

具体的には、「レニン」「アンギオテンシン」「アルドステロン」「AVP(抗利尿ホルモン)」「ノルエピネフリン」「脳性・心房性ナトリウム利尿ペプチド」といったホルモンが、心臓に深く関わっています。

心臓病の原因

犬の心臓病は、はっきりした原因がわかりにくいです。その中で、想定されている原因として、「先天的要因」「肥満」「他の病気」「薬剤」「寄生虫」などが挙げられます。これら犬の心臓病の原因について、ご案内します。

犬種・性別など、先天的要因

犬の心臓病において、犬種・性別などは最も重要な危険ファクターということができるかもしれません。つまり、先天的に心臓病を発症しやすい犬種がいることは確かです。

まず、僧帽弁閉鎖不全症をはじめとする「慢性の弁膜性心疾患」は、小型犬での発症リスクが高いです。

そして、大型犬のオスでは、「拡張型心筋症」が好発します。中でも、ゴールデンレトリバー・ラブラドールレトリバー・ジャーマンシェパード・秋田犬などは「心膜炎」が多いため、要注意です。

肥満

肥満は、犬の心臓に負担をかける原因となりえます。具体的には、「心拍出量のアップ」「血漿および細胞外液量の増加」「神経ホルモン活性化」「尿中ナトリウムおよび水の排出量減少」「心拍数の増加」「心室機能の異常」「運動不足の傾向」「様々な血圧反応」といった要素が、犬の心臓トラブルにつながります。

他の病気

犬の心臓病では、他の病気の影響も大きいです。

中でも、「腎臓病」との関わりは深く、お互いの症状進行に伴い、併発リスクも高まります。また、腎疾患は、心臓病治療薬による影響も受けやすく、この点が対策を難しくするケースもあります。

その他、「内分泌疾患」も心臓病の原因となりえます。例えば、犬の副腎ホルモンが異常分泌される病気「クッシング症候群」は、肺血栓塞栓症を発症させやすいことが知られています。

薬剤

犬の心臓病対策の薬剤であっても、用法・用量を誤ると症状の悪化につながります。

例えば、「利尿剤」「ピモベンダンなどの心室収縮性を高める薬」「ACE阻害剤」などは、脱水・低血圧・腎不全・電解質異常・体内pH平衡トラブル・不整脈・食欲低下などにつながるリスクがあるため、獣医師との連携により適切な使用が望まれます。

寄生虫(フィラリア)

フィラリア(犬糸状虫)は、犬の肺血管系疾患に関わる、恐ろしい寄生虫です。フィラリアは、蚊によって媒介され、犬の右心室や肺動脈に寄生します。肺水腫を伴う心不全をはじめ、犬の肺血栓塞栓症などの原因にもなります。

心臓病の治療方法

「薬」「手術」による治療

犬の心臓病では、主に「薬」「手術」「食事療法」により治療を進めます。まずは「薬」「手術」に関する治療方法について、見ていきましょう。

犬の心臓病の治療薬には、幾つかのカテゴリーがあります。薬の使用については、獣医師の指導に従うことが必須ですが、それぞれどんな特徴があるのか、ある程度知っておくことも大切です。

下記、主な心臓病対策の治療薬をご案内します。

利尿剤

おしっこを出やすくするタイプのお薬です。利尿剤は、特に犬の急性心不全で使用されます。

犬の心臓病において、利尿剤を使用する際に、「ナトリウム制限」をはじめとするミネラル調整を行った食事療法と併用することが望まれます。

また、利尿剤を長期使用する場合、チアミン(ビタミンB1)欠乏につながることがあり、食事やサプリメントで補給するケースもあります。

ACE阻害薬

血管拡張とともに血圧の上昇をおさえ、犬の心臓負担を和らげるお薬です。犬の心臓病では、広範囲で使用されています。

副作用が大きいタイプのお薬ではありませんが、心臓病とともに腎不全を併発している犬などでは、ACE阻害剤の使用に注意が必要です。ACE阻害剤は、高カリウム血症を誘発するリスクがあるため、高カリウムの食事やカリウムを保持するタイプの利尿剤を使用している場合は、要注意です。

犬の心臓病対策用のACE阻害剤として、「エナラプリル」「ベナゼプリル」「リジノプリル」「フォルテコール」などが使用されています。

血管拡張薬

ACE阻害薬以外の血管拡張薬が使用されるケースもあります。(ACE阻害薬と併用されることも多いです。)

即効性のある「ニトログリセリン」、より持続性のある「硝酸イソソルビド」「アムロジピン」などが、犬の心臓病治療に使われます。

強心配糖体

心臓のポンプ機能を強化するお薬です。犬の心臓から一度に送りだす血液量が増え、心拍数を減少させます。腎臓への血液量も増えるため、利尿作用ももたらします。そのため、犬に浮腫みがある場合は、和らげる効果が期待できます。

一方で、心臓にはやや負担がかかり、急性の心筋梗塞などでは使用を控えなければなりません。腎臓疾患を併発している場合も、要注意です。

また、強心配糖体の吸収は、犬の食事との時間にも影響されます。食事とともに強心配糖体を投与すると、お薬の吸収率が落ちますので、食間に与えることがポイントです。

犬の心臓病で使用される強心配糖体として、「ピモベンダン」「ジゴキシン」などが挙げられます。

β遮断薬

交感神経系を興奮させるホルモン「ノルアドレナリン」を抑えることにより、心臓の活動を和らげるタイプのお薬です。その結果、血圧をおさえる効果もあります。最近になって多種のβ遮断薬が開発され、犬の心臓病で使われるケースも増えてきています。

手術

このところ、僧帽弁閉鎖不全症を中心に、犬の心臓病の外科技術が急速に発達しています。

ただ、日本国内では、犬の心臓手術を高いレベルで行えるところは一部の専門的な動物病院に限られており、治療費も150万円前後を要するため、まだまだ治療の中心とはなっていません。

それでも、犬の心臓病では、手術が有効なケースが多いと考えられ、専門獣医の増加が期待されるところです。

犬の心臓病 食事療法・5つのポイント

それでは、犬の心臓病対策において、治療とともに大切な「食事療法」についてご案内します。犬の心臓病・食事療法では、下記5つのポイントを抑えることが重要です。

(※食事療法は大切ですが、心臓病の初期段階から厳しい栄養対策をとることは、逆にワンちゃんのQOL維持を妨げることになりかねません。そのため、心臓病の進行に応じた食事対策が望まれるところです。)

1)ナトリウム・クロールの制限

心不全の症状が進行するにつれて、犬は過剰なナトリウム・クロールを排泄することができなくなります。ナトリウムが体内に貯留されると、心臓肥大や静脈うっ血が進み、高血圧にもつながります。

そのため、心臓病の犬では、ドライフードでナトリウム量0.08~0.25、クロール量はナトリウムの1.5倍、という食事内容が推奨されています。

2)タウリンの増量

タウリンは、心不全の犬に重要な成分です。特に、拡張型心筋症の犬では、心筋中のタウリン濃度が低下しているという報告があります。また、タウリン濃度が正常であっても、タウリンの追加が心臓病に有益なケースがあると考えられています。

また、犬がタウリンを大量に食べても、毒性が出るという報告はありません。

そのため、心臓病の犬について、ドライタイプのドッグフード(食事療法食)中に、0.1%以上のタウリンが含有されていることが望ましいです。

3)L-カルニチンの増量

「L-カルニチン」という成分は、犬の心筋において、エネルギー物質の運搬やミトコンドリアの解毒に関わる重要因子です。

そして、犬の拡張型心筋症などでは、L-カルニチン欠乏が明らかに見られます。そのため、L-カルニチンを増量して与えることは、心臓病の犬に大切です。

心臓病の犬について、ドライフード(食事療法食)中に、0.02%以上のL-カルニチンを含めることが推奨されています。

4)リンの制限

心臓病と併発しやすい病気として、腎臓病が挙げられます。そして、犬の腎臓病では、過剰なリンが致命的となります。

腎臓への負担を避けるために、心臓病の犬でもリンの制限が推奨されています。

そのため、心臓病の犬について、ドライタイプのドッグフード(食事療法食)で、リンを0.2~0.7%に制限することが望ましいです。

5)カリウム・マグネシウムのコントロール

心臓病の犬では、血中のカリウムの数値が不安定になり、「低カリウム血症」「高カリウム血症」のいずれも発症しやすくなります。また、心臓病の薬剤治療により、低マグネシウム血症もしばしば引き起こされます。

そして、カリウム・マグネシウムの異常は、「不整脈」「心筋収縮(ポンプ能力)の低下」「筋力低下」「心臓病治療薬(強心配糖体など)の副作用を発生させやすくする」といったリスク要因を誘発します。

そのため、心臓病の犬では、ドライフード(食事療法食)で、カリウム量0.4%以上、マグネシウム量0.06%以上に調整することが望まれます。

まとめ

犬の心臓病について、症状やステージ・原因から、治療方法・食事療法について、ご案内しました。最新の動物医療や臨床栄養学に基づいてまとめましたので、専門的な内容も含まれていますが、ご愛犬の心臓病対策の一助となれれば幸いです。

  • 犬の心臓病で問題となる症状は、「心拍出量の低下」「肺水腫(肺うっ血)」「全身の体液バランスの崩れ」の3つに分類される。
  • 犬の心臓病には、進行に応じた4つのステージが定義されている。
  • 犬の心臓病では、「高血圧」「合併症(腎臓病)」「心臓活動に関わる栄養成分の変動」「神経ホルモン異常」といった問題が生じている。
  • 犬の心臓病の主な原因として、「先天的要因」「肥満」「他の病気」「薬剤」「寄生虫(フィラリア)」が挙げられる。
  • 心臓病の治療薬には、「利尿剤」「ACE阻害薬」「血管拡張薬」「強心配糖体」「β遮断薬」といった種類がある。
  • 僧帽弁閉鎖不全症をはじめ、犬の心臓病の外科手術は急速に発展を遂げている。
  • 犬の心臓病の食事療法として、「ナトリウム・クロールの制限」「タウリンの増量」「L-カルニチンの増量」「リンの制限」「カリウム・マグネシウムの調整」という5ポイントが推奨されている。