老犬・高齢犬のワンちゃんは、身体の機能が衰えてくるに従い、様々な健康トラブルを抱えがちになります。そして、老犬・高齢犬によく見られるトラブルとして、下痢が挙げられます。
なぜ、老犬は下痢をおこしやすいのでしょうか?
色々な理由が考えられますが、最重要といえるポイントは「食事」です。老犬は、基礎代謝が落ちるとともに消化機能も衰え、若かったころと同じ食事内容・食事量では胃腸に負担がかかりやすいと考えられます。そんな老犬の下痢対策について、食事を中心にこのページでご案内します。
<目次>
老犬に下痢が続く、栄養学上の理由
人と同じく、犬も高齢になるとともに身体機能に衰えが目立つようになります。老犬・高齢犬にみられる変化として、下痢などの消化器トラブルがあります。下痢が慢性的に続くケースも多く、そういった老犬には次のような栄養学・生理学上の高齢現象が見受けられます。
- 基礎代謝が落ちる
- 消化酵素の分泌能力が低下する
- 胃腸の運動性が衰える
- 腸内細菌バランスが崩れ、悪玉菌がより優勢になる
- 肝臓や腎臓など、栄養代謝に関わる器官にトラブルが見られる
- ホルモンバランスが崩れる
- 免疫力が低下する
これら複数の原因により、老犬は下痢しがちになります。老犬の下痢が続く理由を考えると、まず第一に対策として挙げられることが「食事」です。
(※成犬を含む一般的な下痢対策については、「犬の下痢嘔吐、治療と食事」をご参照ください。)
老犬の下痢対策、6つの食事ポイント
老犬・高齢犬の下痢対策として、下記のような6つの栄養ポイントを踏まえた食事が望まれます。下記、老犬の下痢、6つの食事対策をみていきましょう。
1)カロリー
老犬は、エネルギーの必要量が少なくなるため、それに合わせた食事をとらなければなりません。ここでチェック事項として、各老犬の「食欲」「体重」を考えることがポイントとなります。
太り気味の老犬について
老犬の中には、エネルギーの必要量が少なくなっているのに、食欲は落ちずに食いしん坊の子もいます。こういう老犬の食欲そのままにドッグフード・食事を与えていると、体重増加につながるだけではなく、必要以上のエネルギーを取ることになり、下痢の原因ともなります。そのため、食欲旺盛でぽっちゃり気味の老犬では、やや低カロリー気味のドッグフード・食事が望まれます。
やせ気味の老犬について
一方、老犬・高齢犬では、体重が少なくなり、エネルギー摂取量が不十分な子も多くみられます。こういった老犬は、胃腸機能が低下しているため、食事量を増やすとすぐに下痢につながりがちです。そのため、やせ気味の老犬については、逆に高カロリーのドッグフード・食事を少量与えることが好ましいです。少しの食事量ですむため、やせ気味の老犬の下痢をケアすることにつながります。
2)脂肪
脂肪についても、老犬が太り気味/やせ気味かにより、下痢対策の食事内容が異なります。
太り気味の老犬
太り気味の老犬は、低脂肪の食事が望ましいです。脂肪を少なくするだけで、ダイエットが期待できます。また、過剰な脂肪により下痢を招いているケースもあるため、低脂肪が下痢対策につながることも考えられます。
一方で、オメガ3脂肪酸などの必須脂肪酸は、太り気味の老犬であっても、十分に補ってあげなければなりません。
やせ気味の老犬
やせ気味の老犬では、逆に脂肪をしっかり与えることが一般的な対策です。やせ気味の老犬は、しばしばエネルギー不足に陥りがちです。エネルギーが不足すると、タンパク質の代謝も不十分となり、免疫力の低下を招くことも知られています。
ただし、やせ気味であっても、コレステロールや中性脂肪の血中数値が高い老犬もいます。このような老犬は、脂肪量を多くし過ぎてはいけません。
さらに、高脂肪食により下痢が慢性化する老犬もいます。そのため、やせ気味の老犬について、食事中の脂肪量を増やすときは、下痢や軟便の状態をチェックしながら与えるようにしましょう。
3)タンパク質
老犬・高齢犬の食事における、タンパク質の摂取量については、様々な意見があります。例えば、加齢にともない、犬の体内でのタンパク質の代謝・合成に変化がみられるようになるため、与えるタンパク質量を老犬ではさらに増やすべき、という主張も学会ではなされています。
より主流となっている考え方は、「シニア相応のタンパク質量を与える」という内容です。理由として、「若い犬に比べると必要なタンパク質量が減るので、そこに合わせる」ということと、「老犬・高齢犬に多い腎臓病のリスクを考慮する」ことが挙げられます。
老犬・高齢犬に多い腎臓病については、過剰なタンパク質が病態を悪化させることが広く知られています。まだ腎臓病になっていない老犬で、過剰なタンパク質が腎臓病を誘発するリスクについては、まだ証明がなされていません。それでも、老犬にタンパク質を多く与えることについて、メリットよりリスクが多いように私自身は思っています。
また、過剰なタンパク質は、未消化物が腸内に滞留することにつながるため、老犬の下痢の一因となります。そのため、老犬のタンパク質量は25%くらいまでにとどめることが良いように思います。(※すでに腎臓病を発症している老犬については、タンパク質量20%以下が推奨されます。)
4)食物繊維
カロリーや脂肪と同じく、食物繊維についても、老犬が太り気味 or やせ気味かにより、対策が異なります。
太り気味の老犬
太り気味の老犬では、食物繊維量を多めにすることがお勧めです。食物繊維を多くする分、食事全体のカロリーを低くし、脂肪量も少なくすることが可能です。また、高・食物繊維は、食事の消化吸収をゆっくりにし、腹持ちもよくなるため、老犬のダイエットに有効です。
必要以上の食事摂取を行うと、基礎代謝が落ちている老犬では、消化不良になりがちで下痢をひきおこしてしまいます。食物繊維の増量は、そのような老犬の下痢対策にもつながります。(※反対に、太り気味の老犬では、便秘になる子もいます。食物繊維の増量は、老犬の便秘対策にも有用です。)
やせ気味の老犬
やせ気味の老犬では、逆に食物繊維量を少なくしなければなりません。食物繊維が多すぎると、必要な栄養が不足してしまうばかりか、胃腸負担が大きくなり、老犬の下痢を招くおそれもあります。
低・食物繊維の食事は、やせ気味の老犬の栄養補給に寄与するとともに、消化不良による下痢を緩和してくれます。
5)ミネラル
老犬は、腎臓病や心臓病を発症リスクが高いです。そして、腎臓病や心臓病では、リンやナトリウムなどの過剰なミネラルが問題となります。そのため、リンやナトリウムを控えめにすることが、老犬の食事のポイントとなります。
また、すでに下痢が続いている老犬では、脱水症状になる恐れがあります。下痢による脱水を防ぐために、ナトリウムやカリウムの塩分濃度を調整することも重要です。
6)抗酸化物質
老犬は、加齢にともない体内の酸化にさらされるリスクが高くなります。具体的には、細胞膜やタンパク質・DNAが酸化をうけ、病気の原因になったり老化を早めることにつながります。
そのため、老犬・高齢犬では、酸化を防ぐ「抗酸化物質」を多く与えることが大切です。
例えば、ビタミンE・ビタミンC、セレンなどの成分を強化することにより、老犬の健康を維持することが期待できます。また、これら抗酸化物質の働きにより、腸内の運動性も保たれ、間接的な下痢対策にも貢献してくれます。
老犬の下痢、病気との関係
老犬の下痢には、病気が関係していることもしばしばです。老犬の下痢に関わる病気にいて、ご案内します。
胃腸の病気
老犬の下痢にもっとも多い病気は、やはり胃や腸に関係するものです。胃腸炎・炎症性腸疾患(IBD)・大腸炎など、様々な病気が、老犬の下痢に関わっています。
膵臓の病気
消化酵素を分泌する「膵臓」の病気も、老犬の下痢によく見られます。膵炎や膵外分泌不全など、嘔吐や食欲不振を伴う下痢が症状としてあらわれます。
肝臓・腎臓病の病気
肝臓や腎臓など、栄養代謝に関わる器官にトラブルが生じ、老犬の下痢につながることがあります。肝臓病や腎臓病に起因する下痢については、胃腸や膵臓とは異なる食事対策が必要です。
がん・腫瘍性疾患
老犬のがん・腫瘍性疾患により、下痢が続くこともあります。がん・腫瘍性疾患が進行すると、老犬は深刻な栄養トラブルを抱えることになり、消化吸収にも問題が生じ、下痢につながります。
(※犬のがん・腫瘍性疾患については、「犬のがん・腫瘍、治療と食事」で詳しくご案内しています。)
老犬の腸内環境を良くする方法
老犬の下痢対策として、もう一つ大切なことがあります。それは、腸内細菌のバランスを良くすることです。
犬の腸内は、加齢とともに悪玉菌が増え、善玉菌が減る傾向にあります。そして、腸内細菌のバランスの悪さが、老犬・高齢犬の下痢の決定的な要因となっているケースも散見されます。
ビオフェルミンなど整腸剤について
人では、ビオフェルミンなどの整腸剤が下痢対策に有効な手段の一つです。ビオフェルミンには、腸内善玉菌が含まれており、整腸作用が期待できます。
一方、犬にもビオフェルミンなどの整腸剤は有用です。犬は人よりも胃酸が強く、かつ、腸内環境にも違いがあるため、人で良い乳酸菌・ビフィズス菌が、そのまま犬でもOKとは限りませんが、一定の効果があることは確かです。(犬用の整腸剤も存在します。)
整腸剤は、老犬の下痢対策にもある程度の効果が期待できるでしょう。
乳酸菌サプリメントについて
乳酸菌などの善玉菌サプリメントも、老犬の下痢にはプラスに働きます。ただ、乳酸菌・ビフィズス菌のサプリメントは、ピンキリというところがあるため、内容はしっかり検討しなければなりません。
(※犬と乳酸菌について、詳しくは「犬への乳酸菌の効果を高めるコツ」をご覧ください。)
ヨーグルトなど乳製品について
ヨーグルトや牛乳なども、続ければ老犬の腸内環境正常化に貢献してくれるでしょう。特に、ヨーグルトの継続は、老犬の下痢対策にも期待できます。ただし、ヨーグルトや牛乳を続けることで、老犬の栄養が過剰になったり、与えすぎると逆に下痢を引き起こすこともありますので、その点は要注意です。
乳酸菌・ビフィズス菌を増やす食事について
老犬の腸内に住み着いている乳酸菌やビフィズス菌を、食事・ドッグフードで増やすことも可能です。具体的には、乳酸菌などのエサになる「発酵性の食物繊維」「難消化性の炭水化物」「オリゴ糖」などを多く与えることです。
このように、元々腸内に存在する乳酸菌・ビフィズス菌を増やすことは、外から善玉菌を摂取するよりも、老犬の下痢対策により大きな効果を発揮することも期待できます。
まとめ
- 老犬は、各機能の衰えとともに、下痢になることが多い。
- 老犬の下痢対策として、「カロリー」「脂肪」「タンパク質」「食物繊維」「ミネラル」「抗酸化物質」に配慮した食事がポイントとなる。
- 老犬の下痢には、胃腸・膵臓・肝臓・腎臓・がんなどの病気が関係していることも多い。
- 老犬の下痢対策として、腸内の乳酸菌・ビフィズス菌に配慮することも重要。ビオフェルミンなどの整腸剤や乳酸菌サプリメント・ヨーグルトも有効だが、乳酸菌・ビフィズス菌のエサとなる食事を与えることがお勧め。
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