犬は、「肉食性の強い雑食動物」という、独特の食性をもっています。そのため、主に植物質の「食物繊維」は、犬に合ったもの・犬に合わないものがあります。
そういった犬と食物繊維の相性を考えながら、犬の食事・ドッグフードを検討することは非常に大切です。
このページでは、犬に合う・合わない食物繊維をご紹介しながら、具体的にどのような繊維質を与えれば良いのか、まとめました。
<目次>
なぜ、犬に食物繊維が必要なのか
そもそも、どうして、肉食性の強い動物である犬にとって、食物繊維が必要なのでしょうか?
冒頭でもお伝えしたとおり、犬は肉食性が強いとはいえ、雑食動物に該当します。中でも、犬の胃腸構造は、猫をはじめとする純粋な肉食動物とは明らかに違い、雑食動物の特徴を備えています。
雑食動物・草食動物は、植物質の食べ物を取りいれることに適応しており、食物繊維もなくてはならない成分です。
つまり、雑食動物である犬にとって、食物繊維は重要な役割を担っているのです。
犬に合う食物繊維・合わない食物繊維
「犬は雑食動物だから、食物繊維が重要」といっても、合うタイプ・合わないタイプの繊維質があります。その理由は、犬の肉食性の強さにあると考えられます。
犬の祖先は肉食獣のオオカミです。犬は、オオカミから分岐し、人間と共生する中で雑食動物のキャラクターを備えるようになりました。でも、犬は肉食性の名残があるため、私たち人間と比べると、植物質の成分である食物繊維の利用がうまくないのです。
だから、人と比べて、犬には「食物繊維の合う・合わない」が存在するのです。
それでは、犬に合う・合わない食物繊維を、分類しながらご紹介します。
犬に合う食物繊維
比較的、犬に合うタイプの食物繊維は、柔らかさがあるものです。主に「水溶性食物繊維」「発酵性食物繊維」などが該当します。
1)ペクチン
野菜や果物などに含まれる「ペクチン」という食物繊維は、犬に合った成分です。ペクチンは、水溶性の食物繊維(不溶性タイプのものもアリ)であり、ジャムなどの粘性物質としても知られています。ペクチンを多く含む素材として、リンゴ・イチゴ・キャベツ・ダイコンなどが知られています。
ペクチンは、犬の腸内細菌によって発酵されやすい「発酵性食物繊維」でもあります。発酵性食物繊維は、腸内環境にプラスの影響を及ぼすことが知られています。
2)ガム類
植物の種子などに含まれ、粘性のある多糖類のことを「ガム」と呼ばれることがあります。
ガム類には、様々なタイプのものがあり、全てを同列にあつかうことはできません。ただ、多くのガム類は、犬にとって比較的負担になりにくい食物繊維であり、水溶性で腸内細菌による発酵スピードが速いものもあります。
市販ドッグフードでは、ガム類をフードのつなぎとして活用されることも多く、栄養成分としての食物繊維だけではない機能性を発揮しています。
3)難消化性炭水化物
犬の胃腸で消化されにくい「難消化性炭水化物」が注目されつつあります。
こちらは、炭水化物に該当するため、食物繊維に含めないことも多いですが、犬の消化酵素の影響を受けにくいこともあり、繊維と同列に語られるようになってきています。
難消化性炭水化物の特徴は、犬の腸に負担をかけず、大腸周辺に達してから腸内細菌による発酵をうけることです。腸内細菌による発酵により、「短鎖脂肪酸」という成分にかわることが理解されるようになってきました。「短鎖脂肪酸」は、犬のエネルギー源にもなり、善玉菌優位の腸内環境づくりや腸の動きをよくする働きもあります。
難消化性炭水化物は、サツマイモや玄米などに多く含まれています。
犬に合わない食物繊維
逆に、犬に合わないタイプの食物繊維は、やや硬質です。主に「不溶性食物繊維」「非発酵性食物繊維」が該当します。
(※ただし、犬に合わないタイプの食物繊維も一定量は必要となります。「便のかさまし」「腸の運動性アップ」などに貢献するところがあり、適量であれば、硬いタイプの食物繊維も犬にメリットを及ぼしてくれます。)
1)セルロース
野菜などの食物繊維の代表格が「セルロース」です。セルロースは、ヘミセルロース・リグニンなどと絡まりながら、強固な繊維構造をつくっています。この硬い食物繊維構造が、犬の腸に負担となりやすく、あまり多量に与えるとトラブルにつながる恐れがあります。
2)ヘミセルロース
セルロース・リグニンとともに、野菜などに多く含まれる食物繊維です。ヘミセルロース自体は、とても多くの種類があり、単体でみると犬に合ったタイプの食物繊維もあります。ただし、ヘミセルロースは基本的にセルロース・リグニンと結合して硬質な繊維質をつくっているため、総じて犬に合わない食物繊維です。
3)リグニン
リグニンは、食物繊維の中でも最も硬質なタイプに位置づけられます。不溶性の食物繊維であり、犬の消化酵素で分解されないことはもちろん、腸内細菌による発酵もうけつけません。そのため、多量のリグニンは、犬の消化器トラブルにつながる可能性があり、注意が必要です。
食物繊維のバランス
犬にとって、「食物繊維のバランス」はとても重要です。それぞれの食物繊維に異なる機能があり、バランスよくミックスすることで、犬の胃腸が健やかに保たれます。
食物繊維の最適なバランスは、犬によって個体差があり、特に抱えている病気・トラブルによって異なってきます。
それでも、一般的に犬にとって適した「食物繊維バランス」とは、「犬に合った軟質な食物繊維をメインにすえ、少量の犬に合わない硬質な食物繊維をミックスする」という内容になります。
食物繊維と犬の消化性の関係
もう一つ、重要なポイントとして、「犬の消化性」への食物繊維の影響があります。
食物繊維は、基本的に犬自身の力では消化できない成分です。そして、食物繊維は、消化されないまま胃腸内を移動していくため、タンパク質・炭水化物・脂肪など、犬の栄養源の消化吸収をブロックしてしまうところがあります。そのため、栄養の消化性を低めすぎないように、食物繊維の量・バランスをコントロールしなければなりません。
一方で、この食物繊維の性質をいかして、消化吸収をコントロールするという視点も必要です。例えば、急な糖質の吸収は、犬の血糖値をアップさせてしまうため、食物繊維により消化吸収スピードを遅くすることにより、高血糖リスクを和らげることができます。
食物繊維と犬の病気の関係
犬の病気の食事において、食物繊維がとても大切な役割を担うことがあります。
食物繊維との関係が特に深い犬の病気について、ご案内します。
1)消化器疾患
犬の消化器疾患では、大きく分けて「胃・小腸」の病気と「大腸」の病気で、食物繊維の扱いに違いがあります。
胃・小腸の病気と食物繊維
胃・小腸に病気を抱えるワンちゃんは、消化率の高い(消化しやすい)タイプの食事・ドッグフードが好ましいケースが多いです。そのため、食物繊維量は控えめに設計することが一般的です。
大腸の病気と食物繊維
大腸に病気を抱えるワンちゃんは、高食物繊維の食事・ドッグフードが推奨されています。食物繊維により、腸の炎症を和らげたり、運動性をコントロールすることなどが期待されています。
※犬の消化器疾患の食事について、詳しくは次のページをご参照ください。→「犬の下痢・嘔吐 治療と食事」
2)糖尿病
犬の糖尿病では、血糖値を急に高めない食事が望まれます。
そこで、食物繊維により糖質の吸収スピードをコントロールし、糖尿病に対応させることが食事療法の一つのポイントとなっています。
※犬の糖尿病の食事について、詳しくは「犬の糖尿病 治療と食事」もご覧ください。
食物繊維の与え方
それでは、犬に食物繊維を与えるコツについて、実践編をご案内します。
ステップ1)食物繊維源の素材選び
食物繊維を含む食素材として、野菜・果物・穀物・イモ類・キノコ・海藻などがあります。
「犬に合う/合わない食物繊維」でご紹介したように、野菜の食物繊維はやや硬質であるため、しっかり茹でて少量のみにとどめます。
犬に合った穀物・イモ類を中心に、キノコ・海藻・野菜を適量ミックスするイメージで選択しましょう。果物も、ペクチンなどの食物繊維が含まれており、おやつとして少量与えてもOKです。
ステップ2)茹でる・茹でこぼす・炊飯する・そのまま与える
素材により、処理方法が異なります。
たとえば、野菜の繊維質は硬いため、しっかり茹でて茹で汁をすてるようにしましょう。茹で汁をすてる理由は、犬にとって良くない野菜成分が煮汁に含まれているためです。(※犬に野菜を与える際の注意点は、「犬と野菜の栄養学」をご参照ください。)
イモ類も、ふかしても良いですが、できれば茹でこぼした方が好ましいでしょう。キノコ・海藻も同様です。
穀物は炊飯したものでOKです。より理想を言えば、一定量の生玄米粉(炊飯前の玄米)を混ぜた方がより良いですが、配合バランスを整えることは、ご家庭では難しいため、炊飯穀物100%で十分だと思います。
果物は、犬が食べやすい小サイズにカットし(場合によっては擦り下ろす/スムージーにするなどもOK)少量与えてください。
ステップ3)一つの食物繊維源を与える/ミックスして与える
ステップ2)の方法で処理した各繊維源を、1種類のみ犬に与えてもらっても結構です。
ただ、それよりもミックスして与えることがお勧めです。
理由として、食物繊維は、種類によって役割が少し異なるためです。犬に合った穀物・イモ類を中心に、野菜・果物・キノコ・海藻を適量ずつ与えると良いでしょう。
まとめ
- 犬は、肉食性が強いものの雑食動物であり、食物繊維も重要な役割を果たす。
- 犬に合った食物繊維には、「ペクチン」「ガム類」「難消化性炭水化物」などがある。
- 犬に合わない食物繊維には、「セルロース」「ヘミセルロース」「リグニン」などがある。ただし、合わない食物繊維も、適量は犬に必要。
- 食物繊維は、単純な「量・種類」だけではなく、「バランス」も重要。
- 食物繊維は、他の栄養の消化にも影響を及ぼす。犬の栄養管理を行う上で、食物繊維を使ったコントロールの視点をもつことも必要。
- 犬の「消化器疾患」や「糖尿病」といった病気では、食事管理で食物繊維が重要な役割を果たす。
- 食物繊維の与え方は、「素材選び」「調理・処理方法」「1種類/ミックス」という3ステップを踏んで与えると実践しやすい。
このサイトを見つけて、熟読し、大変勉強させて頂いております。質問なのですが…人間の赤ちゃんには消化良いとされる、玄米のみのポンせんべいは、ワンちゃんにとってはどうでしょうか?
お問い合わせいただき、ありがとうございます。
玄米など穀物のポンせんべいは、ポン菓子加工をしていない穀物粉と比べると、とても消化が良いというところがあります。
そのため、例えば下痢や嘔吐などをしがちでお腹が弱いワンちゃんなどには、ポンせんべいはお勧めできるおやつです。
(ただし、栄養が炭水化物に偏っているため、与えすぎず、あくまでおやつとして、少量に止めて置いた方が無難です。)
一方で、消化吸収されやすい分、血糖値が上がりやすいというところがあります。
そのため、糖尿病など、高血糖が気になるワンちゃんには、ポンせんべいは好ましくないと思います。
気になることなど、いつでも仰ってくださいませ。