犬は人よりも嘔吐をしやすい傾向にあります。
そして、犬の嘔吐は、「食べ方」を含めた「食事」が主な原因です。
このページでは、犬の嘔吐と食事対策について、ご案内します。
<目次>
嘔吐と吐き出しの違い
犬の「吐く」という行為には、大きくわけて「嘔吐」と「吐き出し」の2パターンがあります。犬の嘔吐と吐き出しは、原因・対策が異なります。そのため、下記のように嘔吐と吐き出しの違いを知ることは大切です。
犬の嘔吐とは?
犬の吐いたものがある程度消化されていれば、「嘔吐」と考えられます。つまり、口にしたものが胃腸に達し、消化途中で吐くことが「嘔吐」です。
主に、「嘔吐」は犬の胃腸に何らかの原因があることが多く、絶食・脱水対策・消化器ケアの食事、などで対応されることが一般的です。
吐き出しとは?
嘔吐に対して、「吐き出し」は、食べ物などが消化されないまま犬が吐く行為です。口にしたものが上手く嚥下できなかったり(嚥下障害・嚥下困難)、胃に達する前の食道が詰まった場合など、犬は「吐き出し」を行います。
犬の「吐き出し」の場合、嚥下トラブルや食道の問題であり、重症であれば流動食を与えるなども検討されますが、軽度であれば経過をみながら通常の食生活がおくれます。
犬の嘔吐の種類・原因
ここからは、「吐き出し」ではなく「犬の嘔吐」について、お話しを進めていきます。
犬の嘔吐といっても、様々な種類があり、それぞれ原因も異なります。下記、犬の嘔吐を種類ごとに見ていきましょう。
病気ではない、犬の嘔吐
まず、犬の嘔吐は「病気」「病気ではない」という分け方ができます。その中で、「病気ではない」タイプの嘔吐は、さほど問題視しなくてもOKです。
例えば、「病気ではない」犬の嘔吐として、下記のようなものがあります。
①空腹による嘔吐
犬では、空腹による嘔吐がしばしばみられます。夜間から朝方など、空腹時間が長いときに胃酸過多となり、白色/黄色の泡上のものを吐くことが多いです。
犬の胃酸は、人よりも強力であるため、空腹嘔吐が慢性化すると胃炎や胃潰瘍につながる恐れがあります。(すでに胃炎・胃潰瘍が発症していることが原因で、空腹嘔吐が見られるケースもあります。)そのため、胃に負担をかけないヨーグルトなどの食品を、主食とは別に与えることが対策となります。
②食べすぎ・早食いの嘔吐
犬の嘔吐でもっとも多いケースが、「食べすぎ」「早食い」によるものです。
犬の場合、どうしても早食いで必要以上に食べてしまう子が多いです。そういう犬では、ほとんど丸のみ状態であるため、短時間で食べ物がどんどん胃に入っていきます。そして、胃に大きな負担がかかり、吐いてしまうのです。
犬に食べ物を含む嘔吐が見られる際は、まず「与えすぎ」を疑いましょう。そして、早食いをコントロールする方法を考えてあげると良いでしょう。
③食後の激しい運動による嘔吐
食後すぐに、犬は激しく動きがちです。特に若いワンちゃん達は、食べてすぐにハッスルしてしまいます。
でも、食後すぐの激しい動きは、消化不良を伴う嘔吐の原因となります。そのため、犬の散歩を含めて、食後20~30分は少し落ち着いた時間を設けてあげましょう。
④車酔いでの嘔吐
犬も車などの乗り物酔いをします。犬とのドライブ中に嘔吐が見られた際は、乗り物酔いを疑い、少し休憩をはさんであげましょう。
⑤散歩中に草を食べた後の嘔吐
犬が散歩中に草を食べることもよくあります。犬が草を食べる理由は、幾つかあるとされています。大きな理由の一つとして、草で胃腸を整えようとしていることがあります。胃に違和感があった際、草を食べて自ら嘔吐をうながそうとしていることが考えられます。
実際に、散歩中に草を食べ、嘔吐する犬はよくいます。問題のない草であればよいものの、毒性があるものや危険な除草剤がかかったものを食べてしまうこともありますので、注意が必要です。
病気を伴う、犬の嘔吐
病気により、犬が嘔吐するケースもあります。最も関係が深い病気は、やはり胃腸をはじめとする消化器疾患です。消化器以外も含めて、犬の嘔吐が絡む病気をご案内します。
①胃炎・胃潰瘍
胃炎や胃潰瘍など胃の病気は、犬の嘔吐で最もよくみられる原因の一つです。慢性嘔吐の犬の30~40%は、胃炎・胃潰瘍というデータもあります。
胃炎・胃潰瘍の犬の嘔吐は、食べ物の未消化物もしくは黄色がかった液体を吐く、ということが多いです。まれに、鮮血やコーヒー色にみえる消化された血液が吐血として混ざるケースもあります。
②胃拡張・胃捻転
過食しがちな若い犬にみられる病気として、「胃拡張」があります。
犬の胃拡張とは、食べ物と空気・液体がまざった胃の膨張のことを指します。食べすぎが主な原因であり、さらに胃がねじれてしまう「胃捻転」という症状を伴うこともあります。
ストレスが引き金となることもあり、夜間や早朝、急に発症することもあります。命に関わることもあるため、犬の嘔吐もしくは吐きたそうだけど吐けない、明らかに気持ちが悪そう、異常なお腹の音がする、などの症状が見られた場合は、早期の治療が望まれます。
③胃の運動性障害
食べ物は、犬の胃から腸へと移動し、やがて便として排出されます。この流れがうまくいかず、胃から腸にかかるあたりで停滞してしまうと嘔吐の原因となります。
胃から腸にかけての運動性にトラブルが認められる病気として、犬の「胃の運動性障害」が知られています。先天的な胃の運動性障害の子もいますが、後天的にもみられる犬の病気です。
④急性胃炎・急性胃腸炎
感染や食中毒など、急性の胃炎・胃腸炎も、犬のひどい嘔吐の主な原因です。
犬に合わない人の食事を食べたこと、生ごみ・腐敗物などの誤食をはじめ、ウィルスや菌の感染、胃腸の外傷がみられます。
まずは、問診により原因を見極め、犬ごとに対策をとることが重要です。犬の命に関わるため、できるだけ早期の適切な治療・対策が望まれます。
⑤IBD(炎症性腸疾患)
IBD(炎症性腸疾患)は、腸でみられる犬の病気であり、下痢が一般的な症状です。しかし、胃に近い部位で炎症があると、下痢とともに嘔吐もあらわれます。
IBDによる嘔吐について、通常は食べ物を伴いますが、犬の吐物が液体や泡だけのこともあります。
(※犬の胃腸の病気について、詳しくは次のページでご案内しています。→「犬の下痢嘔吐、治療と食事」)
⑥膵炎
消化酵素をつくる器官・膵臓にトラブルがおこる病気「膵炎」も、犬の嘔吐と深い関係にあります。
膵炎のワンちゃんは、消化酵素の働きが不全となり、しばしば消化不良をおこします。消化不良とともに、食べ物を嘔吐してしまいます。膵炎の犬では、嘔吐とともに食欲不振・腹痛・下痢などがしばしばみられます。
(※犬の膵炎について、より詳しくは「犬の膵炎 治療と食事」をご覧ください。)
⑦その他の病気
腎臓病・肝臓病・腫瘍性疾患などの病気でも、犬に嘔吐が見られるケースがあります。
嘔吐のチェックポイント
犬が嘔吐をしたとき、チェックするポイントがあります。獣医師への相談はもちろんですが、飼い主さんご自身も、犬の嘔吐のチェックポイントを理解しておくことが大切です。
- 嘔吐の色(白色・黄色・緑色・鮮血色・コーヒー色など)、量
- 嘔吐の回数、間隔、時間(朝方・夜間・食後など)
- 吐く前後の様子、吐く以外の症状(下痢・腹痛・食欲不振・お腹の音・元気の有無・発熱など)
- 食後どれくらいで吐いたか?
- 吐いた内容物(食べ物の有る無し・液体や泡のみ・吐血交じりなど)
- 誤食の可能性
嘔吐の食事対策
嘔吐がみられる犬では、治療とともに食事対策がとても大切です。どのようなタイミングで、どんな食事対策が重要か、ご案内します。
絶食⁈給餌⁈の判断について
犬の嘔吐の食事対策では、「絶食」が一つの選択肢です。
かといって、過剰な絶食は、犬の元気・体力を奪い、症状が悪化するケースもあります。そのため、適切に「絶食」「給餌」の判断を行うことが大切です。
まず、犬が嘔吐後、食べたがらないようであれば半日程を目安に「絶食」で様子を見るのがよいでしょう。
対して、吐いたけれど、犬が食べたがるようであれば少量のみ食事を与えてみましょう。少しの食事でしばらく経過をチェックし、問題なさそうであれば少し追加で与えてみましょう。
嘔吐しがちな犬、消化器疾患が持病の犬の栄養対策について
慢性的な嘔吐がみられる、お腹が弱い子や消化器疾患を持病となっている犬では、胃腸トラブルに配慮した食事が望まれます。
消化器をケアする、日々の栄養対策をご紹介します。
1)高消化・高栄養
まず第一に重要なポイントが、「消化が良く栄養価が高い」食事です。
慢性的な嘔吐の犬は、消化に問題を抱えているため、胃腸に負担をかけないように「消化が良い食べ物を、少ない食事量でしっかり栄養をとる」ということが大切です。そのために、「消化されやすい」「栄養密度の高い」食事を犬に与えることがポイントです。
2)犬に合った食物繊維バランス
食物繊維は、犬の胃腸トラブル対策に大切です。でも、食物繊維が犬に合っていなかったり、繊維量が多すぎると、消化されにくい食事になってしまいます。
だから、犬に合った食物繊維を適量・バランスよく与えることが大切です。
犬に合った食物繊維とは?
野菜の繊維質は、肉食性の強い犬にとって硬質であり、胃腸負担を招くとともに食べ物の消化を悪くします。
それに対して、穀物やイモ類などの食物繊維は、犬の胃腸にマッチしており腸内善玉菌を増やすことにも役立ちます。そのため、穀物・イモ類を中心に、海藻・キノコ・果物などの食物繊維をバランスよく取りいれることが大切です。
3)ミネラルバランス
嘔吐が見られるワンちゃんは、脱水症状に気をつけなければいけません。吐物には、多量の水分が含まれているためです。
そして、脱水対策では、水分のコントロールはもちろん、ミネラルのバランスを保つことも非常に重要です。犬の嘔吐では、脱水にともなうミネラルバランスの崩れが問題となります。特に、ナトリウム・クロール・カリウムとった基本的なミネラルを維持できるよう、犬の食事・ドッグフードへの配慮が欠かせません。
まとめ
- 犬が吐く行為には、「吐き出し」と「嘔吐」がある。
- 犬の嘔吐の中で、病気ではないタイプのものとして、「空腹による嘔吐」「食べすぎの嘔吐」「食後の激しい運動による嘔吐」「車酔い時の嘔吐」「散歩で草を食べた後の嘔吐」などがある。
- 嘔吐が関わる犬の病気として、「胃炎・胃潰瘍」「胃拡張・胃捻転」「胃の運動性障害」「急性の胃炎・胃腸炎」「IBD」「膵炎」などが挙げられる。
- 犬の嘔吐の食事対策では、「絶食か給餌かの見極め」と「高消化・高栄養」「食物繊維バランス」「ミネラルバランス」といった栄養が重要。
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