子犬はよく下痢をします。その原因として、ストレスや寄生虫なども考えられますが、食事が問題となっていることもあります。
成犬と比べると、子犬は、消化器官の成熟度や栄養特性が異なります。そのことに配慮した、子犬の下痢対策が望まれるところです。
このページでは、子犬の下痢対策について、動物栄養学の視点からご案内します。
<目次>
子犬が下痢をしがちな理由
人の赤ちゃんや幼児と同じで、成長期の子犬は、消化器官が未成熟です。また、免疫システムも成犬と比べて整っておらず、感染の影響を受けやすい面もあります。
つまり、子犬は、身体の機能も成長過程にあり、デリケートな状態のため、下痢をしやすいと考えられます。
子犬の下痢、主な原因
子犬の下痢の原因として、下記が挙げられます。
- 環境変化によるストレス
- 寄生虫や菌の感染
- 誤飲誤食
- 子犬に合わない食事
- アレルギー
- 消化器疾患などの病気
各原因ごとに、治療や対策は異なりますが、共通するポイントとして「食事」による対策があります。ここから、下痢の子犬に共通する「食事対策」をご案内していきます。
(※犬の下痢の種類ごとの対策については、次のページで詳しくご案内しています。→「犬の下痢 4つのタイプ」)
子犬ならでは、6つの栄養特性
基本的に、成長期の子犬は、成犬にくらべて全ての栄養素の必要量がアップします。それなのに、消化器官が未成熟であるため、食事量が多くなりすぎると、下痢や嘔吐をおこしやすいという問題があります。
そのような「子犬ならではの栄養特性」に合わせた食事を与えることが、下痢対策の重要ポイントになります。
それでは、具体的に、子犬ならではの栄養特性を見ていきましょう。
①体重あたりの必要カロリー
子犬は、成犬と比べて多くのエネルギーが必要です。そのため、体重あたりの摂取カロリーが多くなります。
その理由として、成犬であれば「日々の活動の維持」のみにエネルギーが使われますが、子犬は「維持」に加えて「成長」にエネルギーを費やすためです。そして、子犬の成長プロセスにより、体重あたりの摂取カロリーが変わってきます。
子犬の成長段階に応じた、適切なカロリーを供給することにより、下痢や嘔吐などの消化器トラブルを防ぐことにもつながります。
成犬時体重の50%以下の子犬
体重が成犬時の50%以下の子犬は、「成長」にエネルギーをより多く費やします。そのため、体重あたりの摂取カロリーは、成犬の1.6~1.9倍が推奨されています。
成犬時体重の50~80%の子犬
体重が成犬時の50%を超えると、「成長」に費やすエネルギーの割合が少なくなってきます。この時期の子犬では、体重あたりの摂取カロリーが成犬時の1.1~1.6倍ほどに落ち着いてきます。
成犬時体重の80%以上の子犬
体重が成犬時の80%に達すると、より大人に近づいたエネルギーの必要パターンになります。子犬というよりも、人でいう高校生くらいのイメージでしょうか。体重あたりの摂取カロリーは、成犬時と同等~1.2倍ほどになります。
②タンパク質
子犬に必要なタンパク質は、量・質ともに成犬と異なります。
子犬に必要なタンパク質の量
子犬に推奨されるタンパク質の量は、22~32%ほどになります。成犬に比べて、タンパク質の必要量は多くなりますが、それでも与えすぎることは良くないと考えられています。特に、大型犬の子犬では、必要以上のタンパク質摂取により、骨格形成に異常が見られるという報告がなされています。
「子犬用・市販ドッグフード」の中には、必要量以上のタンパク質を含んだものも見受けられ、下痢の一因になっていることも考えられるため、注意が必要です。
子犬に重要なタンパク質の内容
タンパク質の内容も、子犬には大切です。
具体的には、タンパク質を構成する成分である「アミノ酸」のバランスが、子犬と成犬では異なります。特に、「アルギニン」というアミノ酸は、子犬に多く必要です。
③脂肪
脂肪についても、子犬には良質なものを多く与える必要があります。
中でも子犬に重要な脂肪として、「オメガ3脂肪酸」が挙げられます。
子犬とオメガ3脂肪酸の関係
オメガ3脂肪酸は、必ず取りいれなければならない栄養素「必須脂肪酸」の一種です。子犬では、オメガ3脂肪酸の必要量が多いため、いわゆる「低脂肪フード」では、十分なオメガ3脂肪酸を満たせない可能性が高いです。(低脂肪フードで子犬のオメガ3脂肪酸要求量を満たすためには、原料・製法にこだわる必要があります。)
なぜ、子犬にオメガ3脂肪酸がたっぷり必要かと言えば、神経・網膜・聴覚機能などの正常な発達に重要な成分であるためです。逆に、オメガ3脂肪酸が不足すれば、子犬の発達に異常をきたす恐れがあります。
過剰すぎる脂肪には要注意
子犬には、オメガ3脂肪酸をメインに、脂肪を多量に与えることをお伝えしましたが、過剰すぎることには注意を要します。つまり、成長期に脂肪を過剰に取りいれると、肥満はもちろん、下痢・嘔吐の原因や、骨格の異常や病気につながるリスクがあります。
そのため、子犬期のドッグフードは、脂肪量が10~25%、できれば20%以下のものを選ぶようにしましょう。
④カルシウム、リン
カルシウムやリンも、成長期の子犬は多くの量を必要とします。
推奨量としては、カルシウム0.7~1.7%、リン0.6~1.3%が好ましいです。また、カルシウムとリンの比率も重要であり、カルシウム:リン=1:1~1.8:1ほどの割合が、子犬には適しています。
⑤消化率
子犬は成犬と比べて、消化能力が高くありません。そのため、消化が良くないドッグフードや食事を与えると、子犬はより多くの量を取りいれなければなりません。つまり、消化率の低いドッグフード・食事は、多量に取りいれる必要が生じ、子犬の消化器には大きな負担となります。
胃腸が未成熟なのに、消化率の悪い食事を多量にとることは、子犬の下痢・嘔吐の原因となります。
⑥炭水化物
炭水化物の量も、子犬では考慮してあげなければいけません。
子犬の時期に、高タンパク質・高脂肪・低炭水化物の食事を与えていると、体脂肪の割合が高くなり、脂肪肝になりやすいという研究報告がなされています。
そのため、子犬には約20%ほどの消化できる炭水化物を与えることが望まれます。
また、適度な難消化性炭水化物は、犬の腸内環境を整え、下痢を緩和するためにも重要です。
(※成犬時の下痢対策の栄養内容については、「犬の下痢・嘔吐、治療と食事」で詳しくご案内しています。)
犬種による「子犬の下痢対策」の違い
犬種によって、子犬の栄養特性が異なります。大きくわけると、体重25㎏以上の大型犬は、子犬時に与えるべき栄養内容に違いがあり、この点を考慮することも下痢対策のポイントとなります。また、柴犬をはじめとする日本犬(和犬)は、洋犬と食性が違うため、このことを考慮せずに食事・ドッグフードを与えると、下痢につながる可能性があります。
大型犬種の子犬の栄養特性
大型犬種の子犬は、必要なエネルギー量が多い傾向にあります。特に、グレート・デーンは、他犬種の子犬よりも約25%多くのエネルギーが必要とされています。
また、超大型犬種では、子犬時のカルシウム量を多く与えすぎないことが推奨されています。理由として、カルシウム過剰により、骨格形成に異常が見られるケースの報告があるためです。超大型犬種の子犬では、カルシム量を0.6~1.2%程にとどめ、カルシウム:リンの比率を1:1~1.5:1の割合におさめることが推奨されています。
柴犬の子犬の栄養特性
柴犬をはじめとする日本犬は、チワワ・トイプードル・ダックスフンドといった洋犬と比べて、より雑食性が強い傾向にあります。このことは、柴犬が日本人と長年共生してきたことにより、独自の食性進化を果たしたことによるものと思われます。市販ドッグフードは、欧米で発展した技術・栄養学をベースとしているため、チワワやトイプードルには合っていても柴犬にはミスマッチなこともあります。柴犬の子犬で下痢が見られる場合、その食性の違いを考慮するようにしましょう。
具体的には、チワワやトイプードルと比べて、柴犬には穀物などの割合を増やすことがお勧めです。柴犬の子犬は、食物繊維や炭水化物への適性が高く、逆に高タンパク質・高脂肪すぎるドッグフードは合わないことが考えられます。
(※犬種・犬齢による、食事やドッグフードの違いについて、詳しくは「ドッグフードと犬種・犬齢」をご覧ください。)
子犬の下痢対策にお勧めの食事内容
それでは、具体的に子犬の下痢対策にお勧めできる食事内容をご案内します。
1)適切な高カロリー・高消化性
子犬は、消化器官が未発達であるため、少ない食事量でしっかり栄養を補えることが望まれます。そのため、下記のような内容が、子犬の下痢対策には有効です。
- 乾燥物100gあたり3.5~4.5キロカロリー
- できるだけ消化の良い食事
上記のうち、子犬にとって「消化の良い食事」というポイントは、判断が難しいところです。専門的には「消化率」という数値があるものの、ドッグフードでの表示義務がないため、飼い主さんにはわかりにくいです。でも、「消化率」が悪いために、子犬が下痢をするケースも多いのでは、と想像しています。
もし、市販ドッグフードの消化率を知りたいときには、各メーカーに問い合わせをされるのも一つだと思います。
2)適度で良質な高タンパク質・高脂肪
成長期にある子犬は、タンパク質と脂肪を多く必要とします。とは言っても、過剰のタンパク質・脂肪は、下痢につながるだけではなく、子犬の骨格形成異常や肥満などにつながるリスクもあります。
また、タンパク質・脂肪の内容も子犬の下痢対策には重要です。できるだけ新鮮な食材を使うことはもちろん、アルギニン・オメガ3脂肪酸といった、子犬に大切な栄養成分を多く与えることもポイントとなります。
- タンパク質は、22~32%のドッグフードを選ぶ。できるだけフレッシュな原料・製法をとっていることが好ましい(強い加熱工程のあるドッグフードは、タンパク質の消化が悪くなるため推奨できない)。できれば、高アルギニンのドッグフードが望ましい。
- 脂肪は、10~20%が目安。オメガ3脂肪酸を多く含むドッグフード・食事がベター。ただし、オメガ3脂肪酸は熱に弱く、酸化しやすいため、できるだけフレッシュかつ加熱プロセスのないものを選ぶ。
3)ミネラルのバランス
子犬はカルシウム・リンが多く必要、とお伝えしましたが、その比率に配慮することも大切です。ミネラルバランスの崩れは、下痢の原因となるためです。また、すでに下痢をしている子犬は、脱水症状につながる恐れもあるため、カルシウム・リンに限らず、ナトリウム・クロール・カリウムのバランスをとることも重要です。
- カルシウム:リン=1:1~1.8:1
- 下痢が続く子犬の脱水対策:ナトリウム0.3~0.5%、クロール0.5~1%、カリウム0.8~1.1%
4)適度な炭水化物
子犬には、高タンパク質・高脂肪、という意識が強くなりすぎると「炭水化物」の量が減りがちです。人での「糖質制限」が流行っているためか、より肉食性の強い犬には、さらに極端な「炭水化物フリー」が良いような誤解があるものの、科学的には正しくありませんので、注意しましょう。
子犬には、少なくとも20%以上の消化できる炭水化物が推奨されます。
※食事対策を実践しても、子犬の下痢がおさまらない場合
上記4つのポイントをおさえた食事対策を実践しても、子犬の下痢がおさまらないケースもあります。その場合、食事以外に何らかの原因が潜んでいることも考えられます。
よくある原因の一つに「寄生虫」の存在が挙げられます。消化器内に寄生虫が住み着いてしまい、子犬の下痢が続くケースも見られます。
寄生虫が原因で、子犬の下痢が続いている場合、お薬による対処も一つですが、「サツマイモ」を与えることもお勧めです。1日だけ、与える食べ物をサツマイモのみにすると、イモの食物繊維に寄生虫が絡みとられ、ウンチとして出てくることがよくあります。この方法により、子犬の下痢が改善されることもよくありますので、お試しくださいませ。
(※サツマイモを活用した犬の絶食方法について、詳しくは「犬の下痢、絶食のポイント」をご覧ください。)
子犬の腸内環境への配慮
最後に、子犬の腸内環境へ配慮した対策についても、ふれておきます。
下痢が続いている子犬は、乳酸菌・ビフィズス菌をはじめとする腸内善玉菌が少なくなり、悪玉菌が優勢となっている傾向にあります。このままでは根本的な解決につながりにくいケースも多いため、より乳酸菌・ビフィズス菌が優位な腸内環境づくりが大切です。
子犬の乳酸菌・ビフィズス菌を増やすためには、ビオフェルミンのような整腸剤・善玉菌サプリメントを与えることも一つですが、犬の強力な胃酸に耐える菌は限られます。そのため、乳酸菌・ビフィズス菌のエサとなるような食べ物・成分を子犬に与えることが有効です。
具体的には、「発酵性の食物繊維」「難消化性の炭水化物」「オリゴ糖」などが子犬の下痢対策に有用です。食べ物としては、「穀物」「イモ類」が子犬の腸に優しく、乳酸菌のエサとなります。ヨーグルトや牛乳などの乳製品もプラスに寄与します。
子犬の腸内環境の改善には、少し時間がかかることもありますが、より根本的な下痢対策として、取り組んでもらえればと思います。
(※乳酸菌について、より詳しくは「犬への乳酸菌効果を高めるコツ」をご参照ください。)
まとめ
- 子犬は、消化器や免疫システムが未成熟であるため、下痢をしやすい。
- 子犬は、成犬とは異なる「6つの栄養特性」をもっており、これらに配慮した食事を与えることが、下痢対策につながる。
- 犬種により、子犬の下痢対策に違いがある。例えば、大型犬の子犬は必要エネルギー量が多い一方で、カルシウム量を少なめにすることが推奨されている。また、柴犬などの日本犬は、チワワやトイプードルなど洋犬と比べて、より雑食の食事内容が合っている。
- 子犬の下痢対策にお勧めの食事内容として、「高カロリー・高消化性」「良質な高タンパク質・高脂肪」「ミネラルバランス」「適度な炭水化物」の4点が挙げられる。
- 子犬の腸内乳酸菌・ビフィズス菌を増やすことも、下痢対策には大切。ビオフェルミンなどの整腸剤や乳酸菌サプリメントを与えることも一つだが、善玉菌のエサとなる成分・食べ物を与えることがお勧め。
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