犬の腎臓病 症状にもとづく「治療」「7ポイントの食事療法」

犬の腎臓病

腎不全や尿毒症をはじめとする「犬の腎臓病」は、ステージごとに分類された、進行性(病状が悪化していくタイプ)の病気です。そのため、BUN(尿素窒素)やクレアチニン・尿蛋白といった血液検査・尿検査データとともに、実際の症状をチェックし、できるだけ早く腎臓病のタネを見つけてあげることが大切です。

そして、愛犬が腎臓病になった場合、病態を見極めながら、「治療」と腎臓負担を減らす「食事療法」を進めることが大切です。たとえ、末期症状の腎臓病であっても、適切な治療・食事により、ワンちゃんの負担を減らすことが可能です。

このページでは、犬の腎臓病の症状にふれながら、対策となる「治療方法」と「食事・ドッグフード」について、わかりやすくご案内します。読んでいただくことで、ご愛犬の腎臓病について、適切な対処をとっていただければ幸いです。

<目次>

犬の腎臓病 症状とステージ

犬の腎臓病は、症状がわかりにくくBUN(尿素窒素)やクレアチニンといった血液検査の数値で異常が見られた際には、すでに慢性化していることも多いです。また、腎臓病は、病態が悪くなっていく「進行性の病気」であるため、分類されているステージごとに対処を検討することも大切です。

つまり、犬の腎臓病・対策のファーストステップは、

  1. 愛犬の症状をチェックし、できるだけ早期に発見する
  2. 腎臓病を発症した場合、進行ステージや病態ごとに治療・食事療法を実施する

という視点をもつことが大切です。

そこで、まずは基本的な「犬の腎臓の役割」にふれながら、「目に見える症状」「腎臓で起こっているトラブルの内容」「進行別のステージ」についてご案内します。

腎臓の役割

犬の腎臓の役割は、大きくわけて次の3点があります。

  1. 老廃物(尿素・クレアチニンなど)の排泄
  2. 体液・イオン(電解質)バランス・体内pH平衡のコントロール
  3. ホルモンの産生、活性化(エリスロポエチン・活性型ビタミンD(カルシトリオール)・レニンなど)

腎臓病のワンちゃんは、上記3点に関わるところで、トラブルを抱えています。

目に見える症状

犬の腎臓病は、ある程度進行するまで、症状がわかりにくいという特徴があります。それでも、下記のような症状が見られた場合は、腎臓病の可能性がありますので、注意しましょう。

  • 多飲多尿
  • おしっこの無臭化
  • 食欲不振
  • 痩せてきた
  • 便秘気味
  • 毛並みが悪くなってきた
  • 口臭が気になる
  • 嘔吐が見られる
  • 震えや痙攣が見られる

ただ、上記のような症状は、腎臓病以外でも見られます。そのため、「腎臓トラブルかもしれない」という程度で留意するようにしましょう。

腎臓で起こっているトラブル

実際に、腎臓病の犬の身体では、どのようなトラブルが起こっているのでしょうか?

腎臓で起こっているトラブルには、大きく分けて次の4つが挙げられます。

1)ろ過機能のトラブル

犬の腎臓の役割として、「老廃物のろ過」が挙げられます。健康な犬では、血液中の「尿素」や「クレアチニン」といった老廃物が腎臓でろ過され、排泄されます。

腎臓病の犬の中には、このろ過機能に障害が見られるケースがあります。その場合、血液中の尿素やクレアチニンの濃度が高くなり、血液検査の「尿素窒素(BUN)」や「クレアチニン(Cre)」が高値となって反映されます。この状態は、いわゆる「高窒素血症」といわれる状態です。

ただし、BUNやクレアチニンの血液検査データは、「食事中のタンパク質量」や「尿素の再吸収」「消化管の出血」「薬・点滴」「肝臓疾患」「筋肉量」なども関係するため、「腎障害を伴う高窒素血症」の状態を反映しているとは限りません。

また、「腎臓のろ過トラブル」が軽ければ、BUNやクレアチニンの数値に影響がほとんどなく、高い数値の時には既に重症化しているケースも多いため、注意しなければなりません。

2)選択的な透過性異常

「老廃物のろ過」とともに、腎臓は「通過してOKなものとNGなものを分別する役割」を担っています。犬の腎臓病では、そういった「選択的な透過性」に異常が見られるケースもあります。

「選択的な透過性」異常をチェックする方法として、「尿蛋白」のチェックが挙げられます。尿蛋白データは、慢性腎臓病における生存率とも相関している、重要な指標です。

3)再吸収のトラブル

ろ過・選択的な透過を経た後、腎臓の「尿細管」と呼ばれる部位において、犬に必要なものが「再吸収」されます。例えば、「イオン(電解質)」「水」「ブドウ糖」「アミノ酸」などが尿細管で再吸収されます。

犬の腎臓病では、この「再吸収」プロセスで異常が見られることもあり、「腎性尿崩症」「腎尿細管性アシドーシス」「腎性糖尿」「アミノ酸尿」などの原因となります。

4)ホルモン異常

腎臓には、「ホルモンの産生・活性化」を担う、という役割もあります。

ところが、犬の腎臓トラブルに伴い、

  • 血液づくりに関わる「エリスロポエチン」の産生異常(※腎疾患は貧血とも深く関わります)
  • リンの排泄トラブル・貯留に伴う「上皮小体ホルモン」の異常分泌
  • 不活性ビタミンDが活性化しない(「カルシトリオール(活性型ビタミンD)」というホルモン物質が合成されない)現象

などのホルモン異常が起こります。

これらのホルモン異常の中で、腎臓病の検査・治療で特に重要なこととして、「リンの排泄トラブルに伴う上皮小体ホルモンの異常」が挙げられます。今後、全ての慢性腎臓病において、リンの排泄異常(高リン酸血症)が起こる前に、上皮ホルモン濃度の測定が実施される可能性があります。そうなれば、食事中のリン制限などの対策を早期に行うなど、腎臓病を今までよりコントロールできるかもしれません。

進行ステージ

犬の腎臓病は、進行状態に合わせ、4つのステージに分類されています。この分類法は、IRISという国際機関により定義づけがなされました。(※この分類法には、「慢性腎臓病と確定していること」「高窒素血症が存在している場合、腎性と特定されていること」という2つの前提があります。)

下記、IRISが定めた「犬の腎臓病4ステージ」をまとめます。

  クレアチニン(mg/dl) 蛋白尿 および 高血圧 コメント(病態)
ステージ1 1.6以下 <蛋白尿>なし、<血圧>正常 or 境界的な高血圧 高窒素血症はない慢性腎臓病
ステージ2 1.6~2.8 <蛋白尿>なし or 境界的な蛋白尿、<血圧>境界的な高血圧 軽い腎性高窒素血症(症状は無しor軽症)
ステージ3 2.9~5.0 <蛋白尿>境界的な蛋白尿 or 重度な蛋白尿、<血圧>境界的な高血圧 or 重度な高血圧 中程度の腎性高窒素血症(症状が見られ始める)
ステージ4 5.0以上 <蛋白尿>重度な蛋白尿、<血圧>重度な高血圧 重度な腎性高窒素血症(様々な症状が見られる)

犬の腎臓病「3つの原因」と「急性・慢性」

犬の腎臓病では、典型的な原因というものがはっきりしていません。加齢に伴う腎機能の低下、食事・ドッグフードの影響、糖尿病・心臓病(高血圧)などの病気に起因するケース、結石、心身のストレス、といったところが原因として考えられます。

その中で、犬の腎臓病を大きく分け、3つの原因でとらえることが一般的です。そして、「急性 or 慢性」腎臓病についても区別することは、治療にも関係するポイントであり、とても重要です。そこで、犬の腎臓病の「3つの原因」と「急性・慢性」について、ご案内します。

腎臓病・3つの原因

犬の腎臓病では、「腎臓の手前でのトラブル」「腎臓での障害」「腎臓以降、排尿にいたる部位でのトラブル」という3つの原因に分けることができます。それぞれ、「腎前性」「腎性」「腎後性」と言われており、これらの原因を特定することで、適切な治療につなげることも可能です。

①腎前性

血流の中で、腎臓に至る前の段階で、「高窒素血症」「高血圧」などが起こっている状態です。

犬の「腎前性腎臓病」は、副腎皮質ホルモン(コルチコステロイドなど)による治療や高タンパク食・消化管出血・脱水・血液減少・心拍出量の低下などが原因となります。

なお、「腎前性腎臓病」では、尿の比重低下(尿が薄くなっている状態)が合わせて起こり、クッシング症候群・糖尿病性ケトアシドーシス・高カルシウム血症・肝疾患・子宮蓄膿症などの併発リスクもあるため、注意が必要です。

②腎性

腎臓の傷害により、腎臓病が発症する状態です。

このタイプの腎臓病が発覚したときには、既に腎臓構造の75%以上に障害があることもしばしばです。犬の「腎性腎臓病」について、「急性」なのか「慢性」症状なのか、見極めることも大切です。急性/慢性の腎疾患では、それぞれ対処法が異なるため、正確な診断が求められます。

※「急性」「慢性」の見極めについて

基本的には、犬の腎機能が数時間~数日で急低下するケースが「急性」数ヶ月~数年かけて徐々に低下する症状が「慢性」です。急性症状では、突発する前のワンちゃんは健康であったり、エチレングリコールなどの腎毒素が関係している場合もあります。

③腎後性

犬の「腎後性腎臓病」は、尿路閉塞・破裂など、おしっこが出るのをブロックしてしまうトラブルが原因です。腎臓自体の障害がないケースもあり、その場合は腎結石・尿管結石の関与が疑われます。

そして、下記のような特徴的な症状が犬に見られます。

  • 痛みを伴う排尿困難、排尿障害
  • 頻尿
  • 腹痛
  • 腹水
  • 硬くなったり痛みを伴う膀胱、会陰のむくみや変色
  • 発症前後の腹部外傷歴
  • 尿道・膀胱・前立腺などに結石や腫瘤が触診できる

腎臓病の治療方法

犬の腎臓は、「ネフロン」と呼ばれる構造単位が、数十万個も集まってできています。腎臓病が進行するにつれ、「ネフロン」は壊れていきます。そして、一度壊れたネフロンは、再生できません。

そのため、犬の腎臓病の治療では、ネフロンの更なる崩壊を防ぎながら、残ったネフロンに負担をかけないような対処が必要となります。

また、犬の腎臓病には、「酸素不足」「高血圧」「高リン酸」「低カリウム」「蛋白尿」「酸化ストレス」「尿細管の炎症」など、様々なトラブルが起こります。これらのトラブルに対応しながら、「腎前性」「腎性」「腎後性」といった原因に合わせた治療が望まれます。そのうえで、腎臓病の進行ステージに応じた、治療方法をとることになります。

以下、犬の腎臓病における、ステージごと・トラブル内容ごとの治療方法をご案内します。

進行ステージごとの治療方法

ステージ1の治療方法

犬の腎臓病のステージ1では、目に見える症状がわかりにくく、問題を発見しにくいケースがほとんどです。それでも、もしステージ1という診断を受ければ、早期治療により進行を緩和させることができるでしょう。

  • 「高血圧」が続く場合、高血圧対策の治療を行う
  • 「蛋白尿」が見られれば、治療薬による対処とともに、タンパク質を制限した食事療法を検討する
  • ステージ1では、まだ「高リン酸血症」を発症していないことがほとんどだが、発症の種が潜んでいる可能性が高いため、リンを制限した食事療法が望ましい
  • 腎毒性リスクのある薬は要注意(一部の抗生物質、非ステロイド系抗炎症薬など)

ステージ2の治療方法

腎臓病のステージ2の段階では、少しずつ犬に症状が現れるようになります。BUNやクレアチニンの数値が高くなり、ステージ2で「腎臓病」という診断をうけるケースも多いです。

犬の腎臓病ステージ2の治療は、基本的にステージ1に準じた内容になります。

また、ステージ2では、犬の体内が酸性に偏る「代謝性アシドーシス」が見られることもあり、この対策をとることも重要です。そのため、場合によっては、透析や点滴を行うことも考えられます。

ステージ3の治療方法

腎臓病のステージ3になると、嘔吐・食欲不振・悪心(吐き気を催すこと)なども見られがちです。そのため、栄養不良・脱水症状が起こらないよう、治療・食事療法を実施しなければなりません。

ステージ3では、尿毒症や貧血も起こりがちです。場合によっては、皮下や経腸補液により、イオン・ミネラルバランスをコントロールしなければなりません。

また、ホルモンバランスの乱れも進行するため、活性型ビタミンD(カルシトリオール)などを経口投与することも検討されます。

(※尿毒症について、「犬の尿毒症、治療と食事療法」もご参照ください。)

ステージ4の治療方法

ステージ4では、犬の尿毒症・腎不全がさらに進行した状態です。食事を満足にとることが難しいケースも多く、栄養やイオンバランスをコントロールするために、栄養チューブなどの使用も考慮しなければなりません。

(※腎不全については、「犬の腎不全、治療と7ポイントの食事療法」でより詳しくご案内しています。)

腎臓病の3つの原因に応じた治療

「腎前性」の治療

腎前性・腎臓病の犬では、高血圧など根本的な発症原因の治療に取り組むことが第一に優先されます。そのうえで、腎臓への障害が進まないような対策をとることがポイントとなります。

「腎性」の治療

腎臓組織の大部分が不全となっていることを前提に、残っている部位に負担をかけずに治療を進めることが大切です。

「腎後性」の治療

尿路結石など、腎後性腎臓病の主原因への治療が重要です。腎臓自体に障害がなければ、原因への治療により、犬の状態がかなり好転するケースもあります。

腎臓病の病態ごとの治療方法

犬の腎臓病では、ステージごとの対策とともに、実際の病態ごとに治療方法を検討することも重要です。やや専門的な内容になりますが、犬の腎臓病で見られる病態ごとの治療法をまとめます。

腎臓の酸素不足

病気の進行に従い、犬の腎臓は「酸欠」のような状態になります。犬の腎臓は、元々、酸素の消費量がとても多い器官であり、トラブルに伴って酸素が足らなくなるのです。酸欠になった腎臓は、「繊維化」という現象をおこし、機能不全に陥ります。

腎臓の酸欠対策として、ミネラル・イオンのバランスを調整しながら、飲水量を増やすことが挙げられます。その際、ナトリウムの過剰摂取をさけることがポイントです。

また、高血圧や貧血も関与するため、血圧の治療薬(ACE阻害薬など)や貧血の是正(エリスロポエチンなど)も要検討です。

過剰なろ過

「糸球体」と呼ばれる、犬の腎臓のろ過を司る部位にトラブルが起こり、過剰なろ過が起こりがちです。特に、糸球体での血圧が高くなると、過剰なろ過状態になります。

対策として、タンパク質・ナトリウムを制限しつつ、「オメガ3脂肪酸」という成分を多くした食事療法が有効です。また、ACE阻害薬などの高血圧治療薬も用いられます。

高リン酸

腎臓病の犬に見られる症状「多飲多尿」「食欲不振」「嘔吐」などの原因として、「上皮小体ホルモン」の分泌異常があります。犬のの腎臓病では、進行に伴って「上皮小体ホルモン」の分泌異常が避けられない状態となります。

そして、上皮小体ホルモン異常の原因となるのが「高リン酸血症」です。血液中のリン濃度が高まると、上皮小体ホルモンに不要な刺激を与えることになるのです。

腎臓病における「高リン酸」の犬への治療方法は、リンを制限した食事療法が第一です。場合によっては、腸内のリンをくっつけて排出する薬の投与や、上皮小体ホルモンと関係が深い「活性型ビタミンD(カルシトリオール)」の摂取なども検討が必要です。

低カリウム

犬の腎臓病では、血中のカリウムが少なくなる現象にも注意が必要です。この場合、カリウム量を調整した食事療法が望ましいです。

酸性への偏り

犬の腎臓病でよく見られる併発症状に「代謝性アシドーシス」があります。代謝性アシドーシスは、体内pHが酸性に偏った病変であり、様々な腎障害と関係します。

代謝性アシドーシスを併発した腎臓病の犬では、タンパク質を制限した食事療法が望まれます。また、体内pHをアルカリ性に傾ける「アルカリ食品」を中心とした食事が望ましいです。さらに、重炭酸塩・クエン酸カリウムなど、アルカリ化薬剤の投与も検討事項です。

蛋白尿

犬の腎臓病では、「蛋白尿」対策が欠かせません過剰なタンパク質の摂取を避けながら、オメガ3脂肪酸を増量した食事療法が有用です。

合わせて、起こりやすい高血圧に配慮し、ACE阻害剤などの治療薬も検討がなされます。

酸化ストレス

腎臓病の進行に伴い、犬の腎臓は酸化ストレスにさらされます。酸化ストレスの原因は様々ですが、総合的な腎臓病対策により、緩和させることが必要です。

酸化ストレス対策として、タンパク質・リン・ナトリウムを少なくしつつ、ビタミンE/ビタミンCといった抗酸化物の添加、オメガ3脂肪酸の増量、といった食事療法が有効です。

全身の高血圧

犬の腎臓病では、腎臓に限った高血圧ではなく、全身性の血圧異常が見られがちです。そして、心臓病などを併発しやすくなります。(心臓病が原因となり、腎臓病を発症することもしばしばです。)

そのため、犬の腎臓病において、高血圧対策は欠かすことができません。

全身の高血圧対策として、ナトリウムを制限した食事療法、ACE阻害薬、アムロジピンなどカルシウム拮抗薬による治療、などが推奨されます。

(※腎臓病と関わりが深い、犬の心臓病については「犬の心臓病、症状・治療・5ポイントの食事療法」で詳しくご案内しています。)

尿細管の炎症

腎臓の「尿細管」と呼ばれる部位の炎症も、犬の腎臓病で頻発します。尿細管の炎症は、続いて繊維化を引き起こし、腎不全を進行させます。

対策として、タンパク質・リンの制限、オメガ3脂肪酸の増量、といった食事療法が有効です。

犬の腎臓病 食事対策

今までご案内してきたように、犬の腎臓病では様々な病態があらわれ、進行していきます。そして、あらゆる病態・進行ステージにおいても、「食事療法」がカギとなる対策です。

食事療法・7つのポイント

それでは、犬の腎臓病のあらゆる病態・ステージにおいて、共通してカギとなる「食事療法・7つのポイント」をご案内します。

①タンパク質の制限

犬の腎臓病で、怖い病状の一つに「尿毒症」があります。特にステージ4の段階では、尿毒症の進行が顕著であり、致命的な病態となります。

そして、尿毒症の症状があらわれていなくても、慢性腎臓病のワンちゃんでは、タンパク質代謝が負担となっています。そのため、腎臓病の犬では、タンパク質を制限した食事が大切です。

ただし、タンパク質の量を減らしすぎると、犬の元気そのものを奪い、筋力低下などを招くことになります。そのため、腎臓病の犬でも、最低限のタンパク質を補うことが必要です。

市販ドッグフード(食事療法食/特別療法食)で言えば、ドライフードで粗タンパク質量14~20%ほどの内容が、腎臓病の犬に推奨されています。

※含硫アミノ酸に注意

腎臓病における「タンパク質制限」に関係したポイントとして、「含硫アミノ酸」を少なくすることが挙げられます。

タンパク質は20種類のアミノ酸がつなぎ合わさってできていますが、そのうちの「硫黄原子」を含むアミノ酸「メチオニン」「システイン」を少なめにすることが重要です。

理由として、メチオニン・システインと言った含硫アミノ酸は、尿pHを低下させ、腎臓に負荷をかけるためです。含硫アミノ酸は、かつお節・大豆食品・小麦タンパク・肉類などに多く含まれており、腎臓病の犬には注意しましょう。

②リンの制限

腎臓病の犬の典型症状の一つ「高リン酸血症」「上皮小体ホルモンの分泌異常」は、食事中のリンの摂取量と深く関係しています。そのため、犬の腎臓病では、できるだけ初期の段階からリンの制限を行った食事療法が推奨されています。

ドライタイプの市販ドッグフード(食事療法食/特別療法食)の中で、リンの含有量が0.2~0.5%のものを選ぶことが望ましいです。

③ナトリウム/クロールの制限

腎機能が低下した犬は、限られた範囲でしかナトリウムを排泄できません。また、腎臓病によっておこる高血圧の症状においても、高ナトリウムの食事は好ましくありません。

そのため、犬の腎臓病では、ナトリウム量を制限した食事が望まれます。

ドライタイプの市販ドッグフード(食事療法食/特別療法食)において、ナトリウム含量が0.3%以下、それに付随したクロール含量がナトリウムの1.5倍、であることが腎臓病食には好ましいです。

④カリウムの調整

慢性腎臓病の犬は、カリウムバランスを崩しやすい傾向にあります。そのため、犬の腎臓病では、食事中のカリウムについても調整する必要があります。

市販ドッグフード(食事療法食/特別療法食)で言えば、ドライフードでカリウム量0.4~0.8%ほどの内容が、腎臓病の犬に推奨されています。

⑤オメガ3脂肪酸の増量

犬の腎臓病では、炎症に関与する「オメガ6脂肪酸」関連の成分が、障害を増長させます。そのため、オメガ6系と競合関係にある「オメガ3脂肪酸」を食事に増量することで、炎症・障害を抑え、腎臓病の進行を緩和させることができます。

ドライタイプの市販ドッグフード(食事療法食/特別療法食)において、オメガ3脂肪酸を0.4%以上オメガ6:オメガ3の比率を1:1~7:1に調整した腎臓病食が望ましいです。

⑥抗酸化物質の添加

腎臓病の犬では、「酸化ストレス」が障害を増長させます。そのため、「抗酸化物質」を含む食事を与えることが好ましいです。

幾つかの抗酸化物質が、犬の腎臓病に有効とされており、特に「ビタミンC」「ビタミンE」は豊富に与えることが望まれます。

ドライタイプの市販ドッグフード(食事療法食/特別療法食)において、ビタミンCを100IU以上、ビタミンEを400IU以上、含有した食事が推奨されます。

⑦水分の補給

犬の腎臓病の進行に伴い、「尿の濃縮能力」が低下していきます。そして、必要以上の尿を出ししまう現象が見られ、水分不足に陥ります。

そのため、腎臓病の犬では、いつも自由に水分摂取ができるよう、配慮してあげなければなりません。

その他の栄養対策

犬の腎臓病について、「7ポイントの食事療法」の他にも、プラスに働きうる栄養対策があります。

  1. ビタミンD:犬の腎臓は、ホルモンの産生・活性化にも重要な器官です。その中で、活性型ビタミンDと呼ばれる「カルシトリオール」は、腎臓で活性化されるホルモンです。食事の栄養というより医薬品の領域となりますが、「カルシトリオール」の投与が、犬の腎臓病に有用なケースも多いです。
  2. ビタミンB群:腎臓トラブルを抱える犬は、ビタミンB群の要求性が高まります。そのため、手作り食などで腎臓病の犬の食事対策を実施する場合、ビタミンB群の増量を意識すべきこともあります。ただ、犬の腎臓病の市販・食事療法食では、必要なビタミンB群が含まれているため、特に意識すべき栄養素ではありません。
  3. 食物繊維食物繊維は、腸内のアンモニアや余計な塩分を絡みとり、排泄してくれる作用があります。そのため、特に水溶性食物繊維の増量により、犬の腎臓病に好影響を与えることが報告されています。

まとめ

犬の腎臓病をとても複雑な病気です。それでも、症状・ステージ・病態をしっかりとチェックし、共通する食事療法と共に、各ワンちゃんに合った治療方法をとることにより、進行を緩和し、犬への負担を減らすことができます。

改めて、このページの内容を下記にまとめます。ご愛犬の腎臓病について、少しでもお力になれれば幸いです。

  • 犬の腎臓病では、「目に見える症状」をチェックし、できるだけ早期に病気を見つけてあげることが大切。
  • 腎臓病が発覚したとき、「症状」「4段階の進行ステージ」「3つの原因」「トラブルの病態」を確認し、最適な食事療法・治療を選択する。
  • 犬の腎臓病の治療方法は、ステージ・原因・病態により、内容を検討する。
  • 犬の腎臓病に共通する食事療法として、「タンパク質制限」「リン制限」「ナトリウム・クロールの制限」「カリウムの調整」「オメガ3脂肪酸の増量」「抗酸化物質の添加」「水分摂取」の7ポイントが挙げられる。