ポリフェノールは、私たち人間に対して、様々な健康メリットのある栄養素です。
犬にとって、ポリフェノールはどうなのでしょうか?
このページでは、動物栄養学の視点などに基づき、犬にポリフェノールを与える是非について、ご案内します。
<目次>
ポリフェノールの種類と犬の相性
1990年代、「フランス周辺に住んでいる人たちは、チーズや肉など、高脂肪食品を多く食べているのに、心臓病の死亡率が低い。」という事実から、赤ワインに含まれる「ポリフェノール」に注目が集まるようになりました。その後、世界中でポリフェノール研究が行われるようになり、5大栄養(炭水化物・タンパク質・脂肪・ビタミン・ミネラル)と食物繊維に続き、7つめの栄養素として認知されるようになりました。
ポリフェノールについて、実際に犬で行われた研究報告は多くありません。そのため、犬へのポリフェノールの是非を100%正確に論じることは難しい面もあります。それでも、マウスなどの実験動物によるポリフェノールの研究は多数あるため、これらも含めて、犬への是非をまとめていきたいと思います。
ポリフェノールの種類
ポリフェノールといっても、様々な種類のものがあります。各種のポリフェノールについて、犬への相性をみていきましょう。
1)フラボノイド
お茶などの「カテキン」、ブドウやブルーベリーの「アントシアニン」、赤ワイン・柿などの「タンニン」、ソバの「ルチン」、大豆の「イソフラボン」など、多くのポリフェノールが知られています。
各フラボノイド系ポリフェノールは、犬の体内でビタミンCと同じような機能を果たします。つまり、毛細血管を強くしたり、抗酸化物質として作用することなどが期待できます。実際に、フラボノイドは、ビタミンCよりも強い抗酸化能力をもつことが知られており、犬にとって、有用な成分であることは間違いありません。
2)エラグ酸
イチゴに含まれるポリフェノールです。イチゴには、ビタミンCも含まれているため、エラグ酸との相乗性も期待できます。ただし、犬はイチゴをたくさん食べ過ぎると下痢など消化器トラブルを起こすこともあります。この点、イチゴに含まれるペクチンと呼ばれる成分が関係していることも考えられますが、ポリフェノール・エラグ酸の存在も関わっているかもしれません。
(※犬にイチゴを与えることについて、詳しくは次のページもご参照ください。→犬とイチゴの栄養学)
3)クロロゲン酸
コーヒーなどに含まれるポリフェノールです。犬にクロロゲン酸を与えるという科学報告が見当たらないですが、与えて悪いということはないでしょう。ただ、意識して犬に与えることが難しいポリフェノールでもあるため、特に食事で気を使う必要はないでしょう。
4)リグナン
リグナンは、ゴマ・亜麻・ブロッコリー・穀物などに含まれるポリフェノールです。中でも、ゴマには多量のリグナンが含まれています。
リグナンは、多量に犬に与えると、消化性を悪くする恐れもありますが、通常の食事でリグナン過剰になるようなことはまずないでしょう。そして、適量のゴマは犬にとっても良い栄養源となり、リグナンによるポリフェノールの恩恵も期待できるかもしれません。
ポリフェノールが犬にも良い理由
栄養学の視点から、ポリフェノールが犬にも健康メリットを及ぼすことは確かです。特に「フラボノイド」関連のポリフェノールは、犬にも与えやすく、様々な研究が行われています。
ポリフェノールが犬にも良い理由は、フラボノイドの項でお伝えしたように、「ビタミンC」と同様の機能を果たすことが挙げられます。そして、一般的に、ビタミンC以上にポリフェノールは抗酸化能力が高く、犬の体内でも活躍してくれます。
ビタミンEとビタミンCの相乗効果
ビタミンCは、単独でも犬に健康メリットを及ぼしますが、ビタミンEと共存することにより、さらにパワフルな機能を持つようになります。
ビタミンEは、犬の体内で脂質の酸化を防ぐ、という重要な役割を果たします。脂質の酸化は、犬にとって大きなダメージとなるため、それを防ぐビタミンEは重要な成分です。ところが、脂質の酸化を防いだビタミンEは、かわりに自分が酸化されてしまい、活躍できない状態になってしまいます。
そこで登場するのが、ビタミンC。ビタミンCは、犬の体内でビタミンEの酸化を防ぐ役目を果たします。ややこしい話ですが、ビタミンEとビタミンCが合わさることで、脂質の酸化を強力に防ぎ、犬に大きな恩恵を与えてくれるのです。
(※ビタミンEとビタミンCの関係性について、詳しくは、次のページもご確認ください。→犬にとってのビタミンE)
ビタミンCの代わりとなるポリフェノール
フラノボイド系のポリフェノールは、上記のようなビタミンCの代わりとなってくれるため、犬にとっても非常に有用な成分です。
(※ビタミンCについて、詳しくは「犬にビタミンCは必要?」をご覧ください。)
ポリフェノールの注意点
科学的にみると、犬にとって、ポリフェノールには過剰摂取による注意点もあります。
- お腹をこわす可能性
- ミネラルなどの吸収阻害
- 犬の食欲低下
ポリフェノールは、他のものをくっつける力が強く、それによりお腹がデリケートなワンちゃんなどは、下痢をすることもあります。
同じ理由から、ポリフェノールが栄養素を吸着してしまい、犬に必要なミネラル成分などを体外に排出するリスクも考えられます。ただし、これらポリフェノール吸着力によるリスクは、かなり多量に与えた場合に懸念されることであり、まずは心配しなくても大丈夫でしょう。
一方で、「犬の食欲低下」については、現実的に注意が必要なポイントかもしれません。
ポリフェノールは、しばしば、犬にとって「苦味」などの好ましくない味をもっています。私たちも、幾つかポリフェノール原料を混ぜてドッグフード研究を行ったことがありますが、ある程度量のポリフェノールを混ぜると、犬の食いつきが悪くなる、ということを経験しています。そのため、ポリフェノール原料を与えて、犬の食事に影響がでないように注意しましょう。
ポリフェノールの犬への与え方
ポリフェノールは、主に植物質の食品に含まれています。そして、犬にポリフェノールを与える場合、実践ポイントとなることが素材の「加熱」についての検討です。
ポリフェノールの中には、茹でることにより茹で水に溶けて出てしまうタイプと、溶け出ないタイプがあります。ポリフェノールのことだけを考えれば、茹でない方が得策といえますが、野菜などには結石の原因となる「シュウ酸」や、犬が過剰になりやすい「βカロテン」、犬にとって硬質な「食物繊維」など、トータルでみると茹でた方がベターと考えられる食材も多々あります。
そのため、ポリフェノールを一定量以上与えながら、犬にとって健康リスクがない食事のとり方として、次のような方法が良いと考えています。
- 炊飯した穀物・ふかしたイモ類を与える。穀物やイモ類は、犬にとってのリスク要素が少なく、貴重な炭水化物源・食物繊維源でもあるため。ポリフェノールとしての効果も期待でき、犬の全食事の30~40%を穀物・イモ類でまかなうと良い。
- 野菜はしっかり茹でこぼし、少量を与える。ポリフェノールはある程度抜けてしまうが、一部は残り、穀物・イモ類にはないタイプのポリフェノールを犬に与えることができる。
- 果物を少量与えてもOK。リンゴ・バナナ・イチゴなど、ポリフェノール豊富な果物は、犬に生で少量与えても大丈夫。
まとめ
- ポリフェノールには、フラボノイド・エラグ酸・クロロゲン酸・リグナン・イソフラボンなどの種類がある。それぞれ、犬にとって有用性のあるポリフェノールと考えられる。
- 犬にとって、ポリフェノールは、ビタミンCの代わりとなる成分であり、ビタミンEとの相乗性も期待できる。
- ポリフェノールは、吸着性により、犬がお腹を壊す・犬の栄養吸収を阻害するなどのリスクがあるものの、多量に与えすぎなければ大丈夫。ただし、少量のポリフェノールでも、犬の食いつきを悪化させる恐れがある。
- ポリフェノールは、茹でると茹で汁に出てしまうタイプのものがある。そのため、犬にとってリスクのないポリフェノールは、茹でずに与える。一方で、野菜類は、犬にとってネガティブな成分も含まれているため、ポリフェノールが一部抜け出るとしても、茹でこぼすことが好ましい。
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