「愛犬の健康のために、野菜をしっかり与えています。」「犬に良い野菜を教えてください。」
など、「犬と野菜」に関する問い合わせ・コメントを毎日のようにいただいています。
実際のところ、犬に野菜を与える際は、いくつか注意点があります。それなのに、野菜の注意点について、あまり知られていないと感じています。
そこで、このページでは、「犬と野菜」をテーマに、動物栄養学にもとづいた科学的な知見をご紹介できればと思います。
<目次>
犬に野菜、気をつけるべき理由
野菜は、私たち人間には様々な健康メリットをもたらしてくれる食材ですが、犬も同じというわけではありません。
犬は、人間よりもはるかに肉食性が強い動物です。だから、犬の食性に合った、野菜の与え方をしてあげないといけません。
・犬の胃腸は、野菜の消化吸収に向いていない
・犬の栄養代謝上、野菜の中には要注意な成分も含まれている
これら犬の身体的な理由から、野菜を与える際には十分な注意が必要です。
野菜に含まれる要注意な3成分
野菜の中には、犬にとって「毒」となる成分も含まれています。タマネギの中毒成分「アリルプロピルジスルファイド」などが有名ですね。
そして、「毒」とまではいかないまでも、犬に負担を与え、長期的にはトラブルを引き起こしかねない野菜成分もあります。
下記、どの野菜にも含まれている、犬に要注意な3成分をご紹介します。これら3成分が要注意であることは、あまり知られていないことであり、順にチェックしていきましょう。
1)βカロテン
ニンジンやカボチャをはじめ、多くの緑黄色野菜に含まれている成分です。一般的にはヘルシーな成分として知られ、犬にも積極的に与えましょう、という論調だと思います。
実際に、βカロテンは、私たち人間にはもちろん、犬にとっても必須栄養の一つです。
でも、動物栄養学により、犬にβカロテンを続けて与えるリスクが明らかになりつつあります。
なぜβカロテンが要注意?
以前より、哺乳動物の中でも犬は「ビタミンA中毒」が特に多いことが知られていました。でも、どうしてビタミンA過剰になりやすいのか、わかっていませんでした。
そして、ビタミンA中毒になる要因が、犬の「βカロテン代謝」にあることがわかってきたのです。
βカロテンは、体内でビタミンAに変換され機能を発揮します。犬は、他の動物と比べて「βカロテン→ビタミンA」の変換力が高く、ビタミンAが過剰になりやすいのです。そのため、犬では、肝臓トラブルなどにつながるビタミンA中毒が多いのです。
つまり、βカロテン・ビタミンA過剰を防ぐために、犬には一定量以上の緑黄色野菜を与え続けるべきではありません。
2)シュウ酸
犬の尿路結石といえば、「ストルバイト結石」がほとんどでしたが、「シュウ酸カルシウム結石」がこのところ増えています。
その原因の一つに、野菜に含まれる成分「シュウ酸」の取りすぎが挙げられています。シュウ酸は、犬のシュウ酸カルシウム結石の原因となる成分です。
シュウ酸は、エグ味やアクの要素であり、どの野菜にも含まれています。
シュウ酸を野菜から抜くコツ
結石の原因成分「シュウ酸」ですが、野菜から抜くことも可能です。「野菜を茹でて茹で汁を捨てる(茹でこぼす)」ということです。
茹でて茹で汁を捨てると、シュウ酸だけではなく、ビタミンC・酵素・ミネラルなども失うことになりますが、継続して野菜を与えるのであれば、「茹でこぼす」ことをお勧めします。
3)食物繊維
野菜の要注意成分として、「食物繊維」を挙げると、「?」という飼い主さんも多いことでしょう。
実際のところ、食物繊維は、犬にとっても大切な成分です。でも、「食物繊維の種類」には十分気をつけなければなりません。
野菜の「食物繊維」に注意が必要な理由
犬は、「肉食性が強い雑食」という位置づけの動物とされています。そして、食物繊維は犬にとって大切だけれども、合わない繊維質もあります。
その中で、野菜の食物繊維は、犬に合っていないタイプです。
野菜の食物繊維には、「セルロース」と呼ばれる成分などが含まれています。セルロースをはじめとする野菜の繊維質は、犬にとっては硬質であり、腸などに負担となります。
食物繊維が合っていない、という点からも、犬に野菜を与えることには注意が必要です。
(※食物繊維と犬の相性について、「犬と食物繊維の相性」もご覧ください。)
野菜のメリット3ポイント
犬にとって、ネガティブなお話が続きましたが、もちろん、野菜にはメリットもあります。
野菜を犬に与える3つのメリットについて、ご紹介します。
1)水分補給
どの野菜も、80~90%は水分でできています。ワンちゃんの中には、水を飲むのが苦手な子もいるため、野菜を食べるだけで水分を補給できることは大きなメリットです。
2)ビタミンC
ビタミン・ミネラル類を多く含むことも、野菜の魅力です。中でも、「ビタミンC」の補給源として、犬にとって野菜は良い食品です。
実は、ビタミンCは犬の必須栄養ではありません。ビタミンCは犬の体内で合成されるため、必ずしも取り入れる必要はないとされているためです。
それでも、犬がビタミンCを取り入れることによる様々な健康メリットが報告されています。ビタミンCの体内合成量は限りがあるため、野菜から取り入れることは、犬にとってプラスになります。
3)食物繊維
先に、野菜の食物繊維のデメリットをお話ししましたが、犬にとって悪いことばかりではありません。
食物繊維には、硬い・柔らかい・水溶性・不溶性、など様々なタイプがあります。そして、犬は複数のタイプの食物繊維をバランスよく取り入れることが重要です。
野菜の食物繊維は、単独では犬に合わないタイプですが、少量を他の繊維質と組み合わせて与えたり、加熱により軟化させると、犬にも良い影響を及ぼします。
他の食品と組みあわせたり、加熱方法を検討することで、野菜を繊維源としても犬に与えることができます。
犬にお勧めの野菜3選
1)サツマイモ(ジャガイモ)
野菜というよりイモ類に該当しますが、「サツマイモ」は犬にお勧めです。
サツマイモの食物繊維は、緑黄色野菜とは全く異なるタイプのものであり、犬にピッタリ合っています。犬の腸を整え、腸内の善玉菌アップにも貢献します。
炭水化物源としても、犬に好ましい食材であり、血糖値も上がりにくいことも利点です。
なお、「ジャガイモ」も悪くありませんが、ややGI値が高い(血糖値が上がりやすい)という点からサツマイモがよりお勧めです。
(※サツマイモの「皮」は、できるだけ犬に与えないようにしましょう。)
2)キノコ類
「キノコ類」も、厳密には野菜ではなく菌類ですが、犬に良い食品です。
キノコ類の特徴は、「良質な食物繊維源」と「免疫力維持パワー」にあります。
まず、食物繊維は、緑黄色野菜の「セルロース」などとは構造が違い、比較的、犬に優しいタイプです。多量に与えすぎると、犬がお腹を壊すこともありますが、適量のキノコ類は、腸内を整えることが期待できます。
そして、食物繊維に該当する「βグルカン」をはじめ、キノコ類には免疫力維持の効果があります。キノコ類の免疫キープ成分は、熱に強いため、しっかり茹でて与えるようにしましょう。
3)キャベツや白菜
キャベツや白菜は、βカロテンの含量が低く、犬に与えやすい野菜です。
ただし、食物繊維を軟化させ、シュウ酸を除くために、キャベツや白菜をしっかり茹でるようにしましょう。
しっかり茹でたキャベツや白菜は、犬の食事のかさまし、という点でも有用です。
野菜の与え方&3ステップ
犬に野菜を与える際に、「生のまま与える」「茹でて与える」の2とおりの方法があります。2つの方法それぞれについて、実践できるステップをまとめました。
生のまま野菜を与える3ステップ
生野菜や生スムージーを犬に与えることは、犬にはリスクが伴います。ご案内した「βカロテン」「食物繊維」「シュウ酸」のコントロールが難しく、長期的に犬の健康トラブルにつながる可能性があるためです。味としても、苦味やエグ味など、犬が苦手とするものも多いです。
それでも、「ビタミンC補給」「酵素補給」など、生野菜だからこその利点もあります。
以下、生野菜・生スムージーの良さを引きだし、リスクを軽くする与え方をご紹介します。
1)皮など、固い部分をカット(除く)
皮や硬い部分のある野菜は、カットして除くようにします。硬い部分は、食物繊維が硬質であり、犬の腸に負担を与えるためです。また、苦い部分・人間の舌からも美味しくない部分は取り除くようにしましょう。
2)細かく刻むorスムージーにする
ワンちゃんが食べやすいように、カットもしくはスムージーにしてあげましょう。
3)少量のみにとどめる
工夫をしたところで、生野菜にはリスクが残ります。そのため、犬に与える量は、ごく少量にとどめましょう。
茹で野菜を与える3ステップ
野菜を茹でて茹で汁を捨てると、犬にとって硬質な「食物繊維」が軟化しするとともに、結石の原因となる「シュウ酸」が除去されます。さらに、犬のビタミンA中毒の原因成分「βカロテン」も少なくなります。
そのため、犬に野菜を与える場合、生よりも茹でること無難です。
それでは、茹でて野菜を与える3ステップを見ていきましょう。
1)皮など、固い部分をカット
生の場合と同じく、皮や硬い部分のある野菜は、カットして除きます。
2)しっかり茹でて茹で汁を捨てる
しっかり茹でることで、犬の負担となる野菜の硬質な「食物繊維」が柔らかくなります。そのうえ、茹で汁を捨てると、シュウ酸カルシウム結石の原因成分「シュウ酸」を除去することができます。肝臓トラブルなどにつながる「βカロテン」もある程度少なくなり、しっかり茹でることは大切です。
3)適量を与える
茹で野菜にも、ある程度「βカロテン」は残りますし、軟化したとはいえ「食物繊維」は犬に合わないタイプであることに変わりません。そのため、過剰にならないよう適量の茹で野菜を与えるようにしましょう。
すぐに実践できる、野菜の与え方
最後に、すぐに実践できる、ワンちゃんへの野菜の与え方をご紹介します。
まず、「お勧めの野菜3選」を中心に、素材を選びます。特に「サツマイモ」は、犬に合った食材であり、かなり多量に与えても大丈夫です。
そして、やはり野菜は「しっかり茹でて茹で汁を捨てる」ことがお勧めです。(※サツマイモは、ふかして与えるだけでもOKです。)
そのうえで、野菜を継続する場合は、適量のみを犬に与えるようにしましょう。
まとめると、「お勧め野菜3選を中心にセレクト」→「しっかり茹でて茹で汁を捨てる」→「適量で継続」というステップです。この与え方により、野菜の要注意成分が緩和されるとともに、水分補給・犬に負担のない食物繊維補給・ビタミンB群などの野菜成分補給・食事のバリエーション付与、といったメリットが期待できます。
まとめ
- 肉食性の強い動物である犬にとって、野菜は苦手な食品。
- 犬にとって、野菜には要注意な3成分「βカロテン」「食物繊維」「シュウ酸」が含まれている。
- 一方で、野菜には犬にメリットのある3要素「水分補給」「食物繊維源」「ビタミンC源」がある。
- 「サツマイモ」「キノコ類」「キャベツ・白菜」は、犬にお勧めの野菜。
- 野菜の与え方には、「生」「茹で」の2つの方法がある。
- すぐにできる、お勧めの野菜の与え方は、犬に適した野菜の選択→しっかり茹でて茹で汁を捨てる→適量を与える、という流れ。
大変勉強になります。質問が2点ございます。野菜でさつまいもをすすめていらっしゃいますが、尿路結石症診療ガイドライン2013年版に、さつまいものシュウ酸含有量が100g当たり250mgとかなり高く載っておりました。これはデータが古いのでしょうか。さつまいももやはり茹でて与えた方が良いでしょうか。2点目は生野菜を避けた方が良いというのは良く解ったのですが、そうなるとドライフードには酵素が含まれていないと本で読んだのですが、酵素をどうやって補えば良いでしょうか。
先代のペットを尿路結石症で亡くしており、治療している最中に、どんな物食べさせてるのかなあ、と獣医さんに言われた事があり、後悔しないように食べ物に気をつけたいと思っております。ご回答頂けると有り難いです。宜しくお願い致します。
お問い合わせいただき、ありがとうございます。
お返事が遅くなり、申し訳ございませんでした。
サツマイモのシュウ酸について、茹でていただければ茹で汁に抜け出てくれます。そのため、サツマイモは「茹でこぼす」ことをお勧めしています。
なお、シュウ酸については、野菜やキノコ類に幅広く含有されており、全て茹でこぼすことで抜けてくれます。
もう一つ、「サツマイモを茹でる」ことをお勧めしている理由として、茹でることでサツマイモに含まれる炭水化物および食物繊維の構造が変わり、幾つかメリットが生じるためです。
具体的なメリットとして、「血糖値が上がりにくくなる」「腸内環境へ良い影響を及ぼす」「犬の腸に優しくなる」といった要素です。
この点、サツマイモ蒸す・電子レンジでチンするよりも、茹でた方が良い変化が起こります。
酵素については、膵炎など消化不良がかかわる病気・トラブルがないのであれば、それほど意識しなくても良いと考えています。
もし、どうしても酵素が必要なワンちゃんの場合、医薬品やサプリメントによる補給や少量の果物・納豆をあげる、なども良いと思います。
それから、犬の尿路結石は主に「ストルバイト結石」「シュウ酸カルシウム結石」の2種がある中、それぞれ食事対策が逆のところがあります。
特に、「尿pHの調整」という点について、全く真逆の対策となるため、難しいところです。
基本的には、「ストルバイト結石」の対策をとりながら、シュウ酸などを極力避けるが最良だと思います。
(純粋なシュウ酸カルシウム結石の子は、そちらを優先した方が良いケースもあります。)
ご不明な点など、いつでも仰ってくださいませ。
丁寧なご解答をいただき、有難うございました。これからもこちらのサイトを読ませていただきながら、我が家のワンコの食事を考えていきたいと思います。このサイトを始めて下さった事も含め、本当に有難うございました。
ご丁寧にありがとうございます。
気になることやご不明な点など、いつでも仰ってくださいませ。