急な下痢・嘔吐が見られる犬は、胃腸炎を発症していることがあります。
犬の胃腸炎は、食事を原因とすることが多いです。栄養バランスが悪かったり、食べ物による感染が中毒症状を起こしたり、といった原因です。つまり、犬の胃腸炎では、治療とともに食事原因をチェックし、対策をとらなければなりません。
このページでは、科学的な視点から、犬の胃腸炎の治療・食事対策などについて、ご案内します。
<目次>
犬の胃腸炎、症状・原因
犬の胃腸炎でよく見られる症状は、「下痢」「嘔吐」「血便」「食欲不振」「元気の喪失」などです。特に、「水下痢」「液状便・液体便」「小腸性下痢」などと呼ばれる、水のような下痢を伴うことが特徴的です。また、急に症状が現れる、急性胃腸炎が犬では多く見られます。発熱を伴う脱水症状にも要注意です。
犬の胃腸炎の原因
犬の胃腸炎の原因は多岐にわたるため、診断で確定させることは困難を伴います。よくある犬の胃腸炎の原因としては、下記が挙げられます。
- 高脂肪の食事、肉食に偏りすぎたこと(栄養のアンバランス)
- 生ごみや腐敗物を食べたこと
- 胃腸を傷つけるものを飲み込んだこと
- サルモネラ菌など、有毒微生物(細菌・ウィルス・真菌・寄生虫)の感染
- 腸内細菌の異常繁殖
これら胃腸炎の原因をチェックしながら、犬の状態が「自然に治るものなのか」「命に関わる症状なのか」を判別することが大切です。もし、犬の胃腸炎の症状が「命に関わる」のであれば、血球数や糞便の検査をはじめ、より厳密な診察を行い、できるだけ迅速に治療を行うことが望まれます。
胃腸炎の治療法
犬の胃腸炎の治療は、できる範囲で上記の「原因」にもとづくことが好ましいです。
例えば、サルモネラ菌の感染が胃腸炎の原因となっているのであれば、菌に対する抗生剤(抗生物質)を投与しながら、胃腸を保護するお薬を併用する、などが考えられます。また、抗生剤により、犬の腸内善玉菌も抑えてしまうことが考えられるため、ビオフェルミンなどの整腸剤もしばしば併用されます。
いずれにしても、抗生剤・炎症を抑えるステロイド・胃腸の粘膜を保護するお薬・ビオフェルミンなどの整腸剤・脱水症状や栄養失調の対策(点滴など)、そして、これらの治療とともに「食事対策」を検討することが犬の胃腸炎には大切です。
胃腸炎の食事対策、4つのポイント
それでは、治療とともに実施すべき「犬の胃腸炎の食事対策」を見ていきましょう。4つのポイントにまとめてご案内します。
1)良質な脂肪&適切なカロリー
高脂肪に偏りすぎた食事は、犬の胃の運動性が低下し、食べ物が胃に止まりやすくなります。食べ物が胃に止まると、消化負担が増え、胃腸炎の犬には好ましくありません。そのため、胃腸炎の犬には、高脂肪するぎる食事を与えるべきではありません。
一方で、脂肪は、犬にとって濃厚なカロリー源です。つまり、ある程度の脂肪を含む食事は、少ない量でも犬の必要エネルギーを満たすことができるため、胃腸への負担を和らげます。
そのような観点から、胃腸炎の犬には、多すぎず・少なすぎない、中程度の脂肪量を与えることがポイントとなります。そのうえで、できる限りフレッシュで良質な脂肪を適量与えることができれば、犬の胃腸炎にも良い影響を及ぼします。
2)高消化性
胃腸炎の犬では、消化器の負担を減らしながら、しっかりと栄養補給を行うことが重要です。そのため、できるだけ各栄養素が消化しやすいタイプのものであることが望まれます。犬の胃腸炎では、十分に「高消化性」の食事・ドッグフードを選択することが大切です。
3)犬の胃腸炎に合った食物繊維
食物繊維は、犬の胃腸に次のような好影響を及ぼします。
- 食べ物の胃での滞留時間の変化
- 腸の運動性・消化物の移動スピードの正常化
- 胃腸内の毒素を薄める
- 過剰な水分を保持する
- 腸内細菌バランスのコントロール
- 強すぎる胃酸を緩衝する
一方で、「犬に不適切な食物繊維は、食べ物の消化を悪くする」というデメリットもあります。そのため、適量かつ犬に合った食物繊維を与えることが、胃腸炎対策のポイントとなります。
しかし、食物繊維の適量については、胃腸炎の症状などにより、犬の個体差があります。そのため、「高食物繊維タイプの食事」「低食物繊維でより消化しやすい食事」のどちらが合っているのか、胃腸炎の症状を見極めながら犬の個体ごとに検討しなければなりません。
(※食物繊維について、詳しくは「犬と食物繊維の相性」をご覧ください。)
4)ミネラルバランス(脱水対策)
胃腸炎の犬では、異常な下痢・嘔吐がみられるため、脱水症状をケアすることが必要です。適切に水分を補うことはもちろん、ナトリウム・カリウム・クロールといった、主なミネラル成分をコントロールすることもポイントとなります。
胃腸炎の犬において、食事中の適切なミネラルバランスは、ナトリウム0.3~0.5%・カリウム0.8~1.1%・クロール0.5~1.3%が目安となります。
※乳酸菌など腸内善玉菌を増やすことについて
乳酸菌・ビフィズス菌など、犬の腸内善玉菌を増やすことも、中長期的な胃腸炎対策に有効です。ただ、犬の胃腸炎は急性症状であることが多いため、時間のかかる乳酸菌・善玉菌のアップ対策は、追いつかないケースが一般的です。また、善玉菌であっても、乳酸菌サプリメントなどで多量に取り入れすぎると、胃腸炎の犬には刺激となって下痢症状などが悪化することもあります。
そのため、特に急性胃腸炎の犬では、症状の予後管理のために乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌を増やす対策をとることが良いでしょう。
(※胃腸炎以外の犬の消化器トラブル対策については、「犬の下痢嘔吐、治療と食事」で詳しくご案内しています。)
まとめ
- 犬の胃腸炎では、下痢・嘔吐・血便・食欲不振などの症状が見られる。その中でも、水下痢・液体便が特徴的。
- 犬の胃腸炎の原因は、食事や感染など多岐にわたる。原因を特定することは困難なこともあるが、「命に関わる症状なのかどうか」を診断し、犬の胃腸炎症状に合った治療を施すことが大切。
- 犬の胃腸炎の治療方法として、抗生剤・ステロイド・粘膜保護・整腸剤などが挙げられる。
- 胃腸炎の犬の食事は、「良質な脂肪&適切なカロリー」「高消化性」「胃腸炎に合った食物繊維」「ミネラルバランス」が重要。
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