犬の脳腫瘍は、デリケートな部位ということもあり、治療が難しい病気です。そのため、手術・抗がん剤・放射線治療とともに、食事療法による対策も重要です。
<目次>
犬の脳腫瘍 症状と原因
犬の脳腫瘍では、次のような症状がみられます。
- 痙攣などの発作
- 徘徊、ぐるぐる動き回る
- 意識を失う、失神
- ボーっとする、反応が鈍い
- 目が悪くなる、目が見えない
- いきなり吠えるなど、異常行動
- とてもよく眠る
- 息が荒くなる、水をよく飲む
これらの症状から、脳炎・てんかん・脳梗塞・脳震盪など、他の病気と間違われることもしばしばあります。ワンちゃんの行動等に気になる変化が見られた場合、脳腫瘍の初期症状であることも考えられます。
犬の脳腫瘍の原因は、はっきりしたことがわかっていません。他のがん・腫瘍性疾患と同じく、食事・ストレス・加齢などが関係していると思われます。原発性の脳腫瘍と、他からの転移があり、いずれも脳細胞ががん化して発症します。
犬の脳腫瘍の治療方法
外科手術
もし、犬の脳にダメージを与えずに腫瘍を切除できるようであれば、外科手術が有効です。ただし、手術に成功したからといって、必ずしも完治したわけではなく、腫瘍が残っていたり他のへの転移がみられることもあります。脳への後遺症リスクも否定できません。
また、犬の脳腫瘍の手術では、治療費用の問題もあります。麻酔・治療薬・入院などを合わせて、50万円以上の治療費用がかかるとされています。
放射線治療・抗がん剤・ステロイド
高齢犬であったり、手術困難な症状であれば、放射線療法や抗がん剤治療が検討されます。これらは、完治を目的とする治療ではなく、脳腫瘍の緩和を目指すことになります。また、脳への副作用リスクもあることから、慎重に治療を進めることになります。
犬の脳腫瘍では、ステロイドも検討されます。痛みと炎症をやわらげ、犬の負担を減らすことを優先するために、ステロイドが投与されます。
サプリメントなど
以上のように、脳腫瘍の治療では、犬の症状によって難しいケースもあります。そのため、漢方・サプリメント・食事などから、ワンちゃんをサポートすることも大切です。
また、介護の問題や脳腫瘍では強い痛みを感じるワンちゃんもいることから、安楽死を選択されることもあります。安楽死はとても辛い決断ですが、現代医療では、犬の脳腫瘍はまだまだ難しい病気となっています。
食事療法5つのポイント
治療内容に関わらず、犬の脳腫瘍では「食事」に気をつけることも重要です。
脳腫瘍の犬は、「腫瘍にエネルギーを奪われ、犬自身は活力・免疫力が低下する」という栄養代謝トラブルを抱えています。このトラブルに対応した「5ポイントの食事療法」が科学報告されていますので、ご案内します。
1)糖質制限
腫瘍は、「糖質」が大好物です。糖質をエネルギー源として、腫瘍は成長します。そのため、ドッグフード・食事の中に「糖質」が多く含まれていると、犬の脳腫瘍の進行を招くことになります。
そこで、「糖質」を制限することにより、脳腫瘍のエネルギー源を断つことが食事療法の1つめのポイントとなります。
2)良質な高脂肪
糖質は、犬にとってもエネルギー源となる栄養素です。そのため、糖質を制限すると、腫瘍だけではなく犬自身もエネルギー不足に陥りかねません。
どこで、糖質の代わりとなるエネルギー源として、「脂肪」をたっぷり与えます。肉食性の強い犬は、脂肪の代謝が得意。脂肪をエネルギーとして活用することができます。一方で、腫瘍は脂肪を活用できません。
「糖質制限」「高脂肪」をダブルで実行することにより、脳腫瘍はエネルギー不足に、犬自身はエネルギーを満たすことができます。
脂肪の「質」に注意!
ただし、脂肪であれば何でもよい、という訳ではありません。脂肪の「質(内容・種類)」が大切です。特に「脂肪の酸化」には要注意。酸化した脂肪は、犬にとって害となる成分であり、もちろん脳腫瘍の犬に与えてはいけません。できるだけ、フレッシュ素材を活用し、脂肪の酸化に留意したドッグフード・食事を与えましょう。
※脂肪の酸化とは?
脂肪は、「酸素との接触」「加熱」などにより酸化(金属のサビの状態)してしまいます。酸化が進んだ脂肪は、犬にとって有害です。
3)高オメガ3脂肪酸
脂肪の「質」のもう一つのポイントは、「オメガ3脂肪酸」という成分です。
オメガ3脂肪酸は、がん・腫瘍への臨床報告が数多くなされています。さらに、脳神経系にも良い成分です。魚や一部の植物に含まれている脂肪の一種であり、犬の脳腫瘍の食事療法において、カギとなる成分です。
オメガ3脂肪酸は、脂肪の中でも特に酸化しやすい性質をもっています。そのため、加熱や酸素接触をできるだけ避けなければなりません。酸化していないオメガ3脂肪酸を含むドッグフード・食事を、脳腫瘍の犬にはたっぷり与えてあげましょう。
4)高タンパク質・アルギニン
脳腫瘍の犬は、慢性的なタンパク質不足を抱えています。それにより、痩せて体力低下を招くことにつながります。そのため、良質なタンパク質をたっぷり与えてあげなければなりません。
犬の脳腫瘍で好ましいタンパク質の条件として、次の2点が挙げられます。
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消化しやすいタンパク質
肉・魚などのタンパク源は、できるだけフレッシュな原料を使いましょう。そして、調理・製造時の加熱をひかえめにしたドッグフード・食事が望ましいです。
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アミノ酸バランスのとれたタンパク質
タンパク質は、約20種類の「アミノ酸」という成分の連なりで作られています。それぞれのアミノ酸に異なる役割があり、そのバランスを意識したドッグフード・食事をとることが、犬の脳腫瘍対策にはプラスに働きます。
最重要のアミノ酸「アルギニン」について
犬の脳腫瘍の食事において、最も重要なアミノ酸が「アルギニン」です。アルギニンは、オメガ3脂肪酸との相乗効果が知られるなど、多くの臨床報告がなされています。アルギニンをたっぷり含むドッグフード・食事を与えましょう。
5)免疫力キープ
脳腫瘍の犬は、症状の進行とともに、免疫力が低下してしまいます。そこで、免疫力を維持する食事・ドッグフードが望まれます。
犬の免疫力を維持するために、2つの要素をチェックしましょう。
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腸の健康
犬の腸は、免疫細胞が集まる器官です。腸を健やかに保つことで、免疫力を維持することができます。具体的には、犬に合った食物繊維を適量・バランスよく与えることがカギとなります。善玉菌アップを実現しましょう。
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免疫力のスイッチ成分
近年、犬の免疫力のスイッチを入れる成分が知られるようになりました。キノコ由来の「βグルカン」、菌由来の「LPS」などです。これらの成分により、免疫力をキープしてあげましょう。
食事療法 実践のコツ
それでは、いよいよ「犬の脳腫瘍・食事療法」について、実践するためのコツをご紹介します。犬のがん・腫瘍の食事療法は、複雑かつ特殊であり、飼い主さんには難しい内容ですが、下記に挙げるチェックポイントをもとに実践いただければと思います。犬の脳腫瘍の「食事療法5つのポイント」をベースに、市販ドッグフードと手作り食、それぞれでご案内します。
市販ドッグフード・療法食のチェックリスト
- 糖質制限 → 低糖質・低炭水化物のドッグフードを選ぶ。
- 良質な高脂肪 → 粗脂肪12%以上(理想値は20~25%だが、ドライフードでは技術上難しい)で、酸化防止に配慮しているドッグフード(合成酸化防止剤の使用はNG)を選ぶ。
- 高オメガ3脂肪酸 → オメガ3脂肪酸5%以上が望ましい。酸化には注意!
- 高タンパク質・アルギニン → タンパク質25~30%以上、アルギニン2%以上、低温製法のドッグフードが好ましい。
- 免疫力キープ → 善玉菌アップを実現できるドッグフード。βグルカンやLPSなど免疫成分も与えたい。
犬の脳腫瘍対応の療法食について
犬のがん・腫瘍性疾患ケアの療法食は、脳腫瘍にも対応した内容となっています。下記、2つの療法食をご紹介します。
- ヒルズ社 n/d缶 → 缶詰・生タイプ。動物病院に流通している。
- 犬心 元気キープ → ドライフード+オメガ3オイルのセット商品。ナチュラル原料を使い、自然を活かす製法をとった療法食。
※「犬心 元気キープ」は、私たち自身が研究開発した療法食です。→犬の脳腫瘍に対応、ナチュラル療法食「犬心 元気キープ」
手作り食の実践
- メインは肉・魚。フレッシュ素材をさっと茹でて与える。全量の50~80%が望ましい。
- 玄米・大麦・イモ類を10~30%与える。これらは難消化性の炭水化物・食物繊維を含むため、脳腫瘍に糖質を利用されにくい。善玉菌アップにも貢献。
- 緑黄色野菜は、少量のみをしっかり茹でて茹で汁を捨てて与える。与えなくてもOK。
- 大豆食品は、少量のみ与える。多すぎると犬に負担がかかるためNG。
- キノコを茹でて与える。
- 甘いもの・スイーツ類は与えてはいけない食品。
犬の脳腫瘍 まとめ
- 犬の脳腫瘍は、痙攣・徘徊・目が見えないなどの症状があり、治療が難しい病気。
- 治療方法として、手術・抗がん剤・放射線治療などがあるものの、治療行為ができないケースもある。その場合、ステロイド投薬やサプリメント・食事療法なども検討される。
- 犬の脳腫瘍の食事療法として、「糖質制限」「良質な高脂肪」「高オメガ3脂肪酸」「高タンパク質・アルギニン」「免疫力キープ」の5ポイントが挙げられる。
- 犬の脳腫瘍の食事療法を実践するにあたり、「市販ドッグフード・療法食」「手作り食」それぞれのチェックポイントが参考になる。