犬の肝臓がん 治療と食事

肝臓

犬の肝臓癌(がん)は、初期症状がわかりにくいため、発見されたときには進行しているケースが多いです。見つかった時には、すでに末期症状ということも少なくありません。原発性の肝臓がんもありますが、他からの転移により発症することがより一般的です。

<目次>

犬の肝臓がん 症状・原因

肝臓がんが進行すると、次のような症状があらわれます。

  • 食欲不振、やせる
  • 元気がない
  • 痛み(肝臓以外に痛みが出ることもある)
  • 黄疸
  • 下痢・嘔吐・血便・吐血
  • 腹水
  • 貧血
  • 性格の変化

肝臓がんの原因

肝臓は、血液やリンパが流れ込み、様々な物質を変換し作りだす臓器です。そのため、血液やリンパの流れで他の部位からの転移が頻発することなります。肝臓ならではの役割が、犬の転移性肝臓がんの原因ともいえるのです。

また、肝臓は、身体の物質を浄化するような役目も果たします。その中で、害となる物質を浄化し続けることが負担となり、原発性の肝臓がんが発症することも考えられます。

その他、肝炎・肝硬変が肝臓がんへと進行するケースなども知られています。

肝臓がんの治療方法

手術

検査により、肝臓がんの発症を確認することはできますが、腫瘍の良性・悪性を見極めることがやっかいです。細胞診や組織検査だけでは、良性腫瘍・悪性腫瘍を判断できないケースも多いです。そのため、犬の肝臓がんの良性・悪性の見極めは、獣医師のカンによるところもあるようです。この点、良性・悪性を見分ける検査方法が待たれるところです。

原発性の肝臓がんの場合、手術による切除が検討されます。孤立したタイプの肝臓がんで、切除に成功すれば、完治にいたることもあります。ただし、血管などが複雑に入り組んだ器官であるため、手術困難なケースもあります。全身麻酔であることが犬には負担ですし、肝臓をとりすぎると命に関わる問題となります。

手術ができない肝臓がんは、放射線療法やサプリメント・食事などでの緩和が検討されます。ただ、末期症状になると、食事を受け付けなくなってくることも多く、苦しみの少ない余命を過ごさせてあげる配慮も必要となります。

食事療法5つのポイント

犬の肝臓がんでは、食事がとても重要です。ただし、他のがん・腫瘍性疾患と比べても、肝臓がんの食事療法は少し厄介な点もあります。

  • がん・腫瘍への対策
  • 栄養代謝の器官である肝臓トラブルへの対策

この両方を考えなければいけません。以下、犬の肝臓がんについて、食事療法5ポイントをご案内します。

1)糖質制限

がん細胞は、糖質が大好物です。糖質を犬自身から奪い、進行・転移のエネルギー源にしてしまいます。犬の正常細胞よりもがん細胞の方が成長が早く、糖質がほとんど腫瘍に回ってしまうのです。その結果、犬自身はエネルギー不足に陥ってしまいます。

そのため、犬の肝臓がんでは、糖質や消化しやすい炭水化物を少なくしなければなりません。

2)良質な高脂肪・オメガ3脂肪酸

糖質制限だけでは、肝臓がんの犬自身もエネルギー不足に陥ります。そこで、糖質にかわる犬のエネルギー源として、「脂肪」をたっぷり与えます。「脂肪」は、がん細胞が利用できない栄養素であり、かつ、肉食性の強い犬はエネルギー源として活用できます。

ただし、「高脂肪」であれば何でも良い、という訳ではありません。

  • できるだけ酸化していない脂肪
  • オメガ3脂肪酸を中心とした脂肪

これらを満たす「良質な高脂肪」を与える必要があります。脂肪の酸化は、加熱・酸素との接触によりおこるため、加熱を最小限にとどめ、あまり酸素とふれない工夫が望まれます。

オメガ3脂肪酸

「良質な高脂肪」の条件の一つに、「オメガ3脂肪酸」があります。オメガ3脂肪酸は、魚や一部の植物に含まれ、がん・腫瘍への臨床報告が数多くなされています。さらに、犬の肝臓病でも有用性が知られる成分であり、肝臓がんにとって、2重に大切な栄養素です。

一方で、オメガ3脂肪酸は、他の脂肪と比べても酸化しやすい性質があります。そのため、非加熱・酸素フリーに留意しなければなりません。

3)良質なタンパク質・アルギニン

犬の肝臓がんでは、「タンパク質」が重要かつデリケートな栄養素です。

元々、肝臓は、タンパク質を分解するときに出てくる有害物質を解毒してくれています。ところが、肝臓病によりこの解毒機能が弱くなり、有毒物が残ってしまうことがあるのです。そのため、タンパク質の代謝に負担がかからないよう、配慮しなければなりません。

一方で、ダメージを受けている肝臓は、修復のためにタンパク質を必要とします。さらに、肝臓がんの犬は慢性的なタンパク質不足を抱えています。

つまり、犬の肝臓がんでは、「肝臓に負担をかけず、タンパク質をしっかり補給する」という難しいミッションが課されているのです。この課題をクリアするために、以下の対策が考えられます。

  • 消化しやすいタンパク質を与えるために、変性がおこっていないフレッシュなタンパク源を選択する(※タンパク質は、加熱などにより「変性」と呼ばれる構造変化をおこします。変性したタンパク質は消化しにくいことが知られています。)
  • アミノ酸バランスに配慮する

肝臓がんの犬には、これら対策にこだわった「良質なタンパク質」をしっかり与えることが重要ポイントになります。

臨床栄養アルギニン

肝臓がんの犬にとって、「アルギニン」という成分が大切です。アルギニンは、アミノ酸の1種であり、オメガ3脂肪酸との相乗効果などが報告されています。犬の肝臓がんでは、食事のうち2%以上のアルギニンを含むことが推奨されています。

4)タウリン・亜鉛

「タウリン」「亜鉛」といった成分は、犬の肝臓がんのみならず、肝臓トラブルすべてに共通する必須因子です。いずれも、肝臓機能をサポートしてくる栄養素であり、食事・ドッグフードでしっかり補給することが重要です。

5)免疫力キープ

肝臓がんが進行すると、犬の免疫力が低下し、治療がさらに難しくなります。犬の免疫力を維持するために、次のような食事対策が考えられます。

  • 腸の健康

腸を健やかに保ち、善玉菌アップを実現すると、免疫力維持につながることが知られています。そして、「腸の健康」には、「食物繊維」がカギとなります。犬に合った食物繊維をバランスよく適量含んだ食事・ドッグフードが望まれます。

  • 免疫スイッチをオン

キノコ由来βグルカンや菌由来LPSなど、犬の免疫スイッチを押す成分が知られています。これらの成分を、積極的に与えてあげるようにしましょう。

食事療法 実践チェックリスト

チェックリスト

犬の肝臓がんは、「がん・腫瘍性疾患」と同時に「肝臓病」でもあるため、食事療法の実践が難しくなります。そこで、「市販ドッグフード」「手作り食」それぞれにおいて、犬の肝臓がん・食事療法の実践につながるチェックリストをまとめました。

市販ドッグフード・療法食の活用

  1. 糖質制限 → 低糖質・低炭水化物のドッグフードを選択する。糖質・炭水化物の成分値記載があるものが好ましい。
  2. 高脂肪・オメガ3脂肪酸 → 粗脂肪12%以上(できれば25%程)、オメガ3脂肪酸5%以上のドッグフードが望まれる。ただし、酸化対策をどのように行っているのか、要注意。
  3. 良質タンパク質・アルギニン → タンパク質の変性の有無やアミノ酸バランスへの配慮をチェック。アルギニンは2%以上が望まれる。
  4. タウリン・亜鉛 → タウリン0.1%以上、亜鉛200㎎/㎏以上が好ましい。
  5. 免疫力キープ → 善玉菌アップにつながるドッグフード、免疫成分の含有をチェック。

犬のがん・腫瘍対応の市販療法食

  1. ヒルズ社 n/d缶 →缶詰タイプで、犬のがん・腫瘍性疾患に対応している。
  2. 犬心 元気キープ → ドライフード+オメガ3オイルのセット商品。ナチュラル素材・手作り製法にもこだわった、犬のがん・腫瘍性疾患対応の療法食。

※「犬心 元気キープ」は、私たち自身が開発した、犬の肝臓がんに対応している療法食です。詳細は、「ナチュラル療法食 犬心 元気キープ」をご覧ください。

犬の肝臓がんに対応した食事療法食(ドッグフード)、「犬心 元気キープ」のWebサイトはこちらです。

「犬の肝臓がん」に対応、食事療法食(ドッグフード)

手作り食

  1. 肉・魚をメインにそえる。(全体の50~80%ほど)
  2. 玄米・大麦・イモ類を適量与える。(全体の10~30%ほど)
  3. 緑黄色野菜は控える。(肝臓に負担をかけるため。)
  4. キノコ類を与える。大豆食品を少量与える。
  5. 亜麻仁油などオメガ脂肪酸のトッピングを検討する。
  6. 犬のがん・腫瘍対応の療法食と、手作り食のミックスを検討する。

犬の肝臓がん まとめ

  • 犬の肝臓がんは、初期症状がわかりにくく、見つかったときには末期症状ということも多い。
  • 犬の肝臓がんの治療は、切除可能な独立した腫瘍であれば手術が検討される。手術できない場合は、放射線治療のほか、サプリメント・食事療法などが対策として挙げられる。
  • 犬の肝臓がんの食事療法として、「糖質制限」「高脂肪・オメガ3脂肪酸」「良質なタンパク質・アルギニン」「タウリン・亜鉛」「免疫力キープ」の5ポイントがある。
  • 犬の肝臓がん・食事療法を実践するために、「市販ドッグフード・療法食」「手作り食」の各チェックリストを活用する。