高齢になるに従い、犬にも「認知症」が見られることがよくあります。夜鳴き・記憶力の低下(ボケや痴呆)・夜中ウロウロ歩き回る・徘徊・異常な興奮・失禁・震え、といった犬の症状は、認知症と関係しているかもしれません。
犬の認知症では、人と同じく「脳血管性」タイプや「アルツハイマー」タイプなどが散見されます。そして、脳腫瘍・脳梗塞・脳卒中・てんかんなどが関わることもしばしばです。
そんな「犬の認知症」対策について、治療とともに食事療法を検討することが大切です。このページでは、脳の健康を保つ、予防的な観点を含めて、犬の認知症の治療方法・食事療法についてご案内します。
<目次>
犬の認知症、よく見られる症状
認知症は、高齢犬でよく見られる症状であり、認知機能障害症候群(CDS)などと呼ばれています。11~12歳の犬の約30%、15~16歳の犬の約70%において、何らかの認知症が見られる、という報告もあります。
犬に見られる認知症の主な症状は、「見当識障害(時間・場所・人などを正しく認識できない)」「飼い主や他のペットとの交流の変化」「睡眠・覚醒サイクルの変化」「不適切な排泄」の4点があります。具体的には、
- 飼い主のことを認識できない
- 夜鳴きする、朝方吠える、夜中起きる
- ウロウロ・ぐるぐると同じところを歩き回る
- 夜中などに徘徊する、異常に興奮する
- 記憶力の低下(ボケ・痴呆)
- 失禁、排尿&排泄トラブル
- ブルブル震える
など、今まで見られなかった異常行動が目立つようになります。
認知症の原因と発症メカニズム
犬の認知症は、「脳の血管障害」を原因とするタイプと「アルツハイマー」型、の2種類が多いです。
これらの発症原因は、科学的にわかっていない点もあります。ただ、ほとんどの犬の認知症において、「加齢」に伴う脳神経のダメージが関わっていることは間違いありません。
認知症を発症しやすい犬種がある、という指摘もありますが、はっきりとしたことは不明です。
犬の認知症、2つの発症要因
犬の脳神経は、加齢に伴い、どのようなダメージを受けるのでしょうか?
認知症の発症要因とも想定される、2つのポイントをご紹介します。
①加齢に伴う、脳の血流変化
脳神経系には、血液により栄養が運ばれます。その際、血液中にある栄養のうち、どの栄養を脳に運べばよいのか「血液脳関門」というシステムにより選択がなされます。
犬の加齢に伴い、この「血液脳関門」システムに障害が起こることが知られており、認知症との関係性が指摘されています。
②加齢に伴う、酸化ダメージの増加
犬の加齢に伴い、脳は酸化によるダメージを受けることが指摘されています。酸化とは、鉄が錆びることと同じ現象であり、過剰な酸化は、生体に様々なダメージをもたらします。
加齢により酸化ダメージを受ける現象は、脳に限った話ではありませんが、犬の認知機能に障害を及ぼしていることは間違いないでしょう。
※βアミロイドの蓄積について
認知症の高齢犬では、「βアミロイド」という物質の蓄積が見られます。βアミロイド蓄積は、人間のアルツハイマー病に深く関わっていることで注目されており、犬でも同様の機構が働いていると想定されています。また、犬のβアミロイド蓄積と血液脳関門トラブルにも、連動性があると報告されています。
ただ、βアミロイドの蓄積が、犬の認知症の発症原因になっているのか、認知機能障害の結果としてβアミロイドが蓄積しているのか、はっきりとわかっていません。
認知症の治療方法
それでは、犬の認知症の治療方法を見ていきましょう。
実は、犬の認知症について、これといった治療薬が存在していません。(※一部の国で承認されている、犬の認知症・治療薬もありますが、国際的に広く効果が認められる段階には至っていません。)
夜鳴きや異常な興奮を落ち着かせるために、鎮静剤やメラトニンなどの睡眠薬・麻酔薬が使われる程度です。ただ、これらの薬はあくまで対処療法にすぎず、さらには、認知症を悪化させることもあるため注意が必要です。
認知症のサプリメント
犬の認知症対策として、予防への期待も含め、サプリメントも選択肢となります。認知症対策の犬用サプリメントとしては、次のようなタイプが候補として挙げられます。
- DHA/EPA関連サプリ → DHA・EPAは、主に魚などに含まれ、「オメガ3脂肪酸」に分類される成分です。DHA・EPAは、脳神経系にとって必須栄養素であり、犬の認知症でも適量補給することが推奨されています。
- 抗酸化物質サプリ → ビタミンC・ビタミンE・ポリフェノールなどは、酸化障害を緩和することが期待できます。犬の認知症においても、ビタミンC・ビタミンEなどの適量摂取が望まれるところです。
犬の認知症、食事療法の3つのポイント
これといった治療方法・治療薬がない中、犬の認知症の「食事療法」は、検討すべき対策です。あまり知られていませんが、適切な栄養管理により、犬の認知症の進行が緩和されるという報告は多数なされています。
動物栄養学において、犬の認知症対策に有用とされている、「3つの食事療法ポイント」について、ご案内します。
1)DHA・EPAを強化
サプリメントとしてもご紹介しましたが、DHA・EPAが強化されたドッグフードや、手作り食にDHA・EPAが豊富な魚や魚油を活用することも、認知症対策のポイントとなります。
ただし、DHA・EPAは、加熱や酸素との接触により、すぐに酸化されてしまうという不安定な要素をもっています。酸化されたDHA・EPAは、逆に犬にとって毒となりうるため、要注意です。
認知症の犬には、加熱を控えめにした、できるだけ新鮮なDHA・EPA源の食事を与えることが望まれます。
2)抗酸化物質の補給
犬の認知症の酸化ダメージを緩和するために、食事の中に「抗酸化物質」を取り入れいることも重要です。
中でも、ビタミンC・ビタミンE・セレニウムといった抗酸化物質は、動物栄養学の研究において、認知機能ケアに有用であることが報告されています。また、幾つかのポリフェノールにおいても、認知症に対してポジティブな結果が得られており、有用性が示唆されています。
3)ミトコンドリア補因子の配合
細胞内小器官である「ミトコンドリア」は、酸化障害の緩和について、とても重要な役割を果たしています。一方で、ミトコンドリアの機能は、加齢とともに劣化することが知られており、認知症との関わりも指摘されています。
「L-カルニチン」および「α‐リポ酸」は、ミトコンドリアの機能をサポートする成分として知られています。これらL-カルニチン・α-リポ酸を配合したドッグフードや食事を選ぶことが、犬の認知症対策において、重要ポイントの一つになります。
※その他の食事対策
ご案内した「食事療法3つのポイント」以外にも、認知症の犬で大切な食事対策はあります。それは、予防的な観点やQOLの維持を含めて、シニア・老犬ならではの栄養バランスを意識することです。
具体的には、「運動量や基礎代謝の低下に合わせ、カロリー・主要栄養を調整してあげること」「加齢により発症しやすい肝臓病・腎臓病・心臓病などをケアするために、塩分等を控えめにすること」「比較的消化が良いドッグフード・食事を選ぶこと」といったポイントです。
もし、他に併発してる病気があったり、血液検査で異常が見られる項目があれば、それらの疾患・トラブル対応の栄養調整を行いながら、このページでお伝えした「認知症・食事療法3つのポイント」を実践することをお勧めします。
まとめ
犬に認知症対策について、最新知見をお伝えしました。私たちは、日々、飼い主さんと対話させていただいていますが、高齢犬の認知症や介護で悩まれている方も多いと感じています。ご愛犬の認知症ケアを実践されている飼い主さんに、このページ内容が少しでもお役に立てれば幸いです。
下記、この記事内容のまとめになります。
- 犬の認知症の主症状として、「見当識障害(時間・場所・人などを正しく認識できない)」「飼い主や他のペットとの交流の変化」「睡眠・覚醒サイクルの変化(夜鳴きや徘徊)」「不適切な排泄・失禁」が挙げられる。
- 高齢犬の認知症の発症原因には、加齢にともなう「脳の血流変化」「酸化ダメージの増加」が想定されている。
- 犬の認知症では、これといった治療薬が存在していない。鎮静剤や睡眠薬などが主な治療方法だが、認知症を悪化させるリスクもある。
- 「DHA・EPA」や「抗酸化物質」を含むサプリメントも、犬の認知症対策の選択肢となる。
- 犬の認知症対策では、食事療法も重要。特に「DHA・EPAの強化」「抗酸化物質の補給」「ミトコンドリア補因子の配合」といった3ポイントは、犬の認知症の食事療法として、有用性が報告されている。