犬の皮膚がん 治療と食事

犬の皮膚がん、治療と食事

複雑な病気である「犬の皮膚癌(がん)」は、種類・症状を見極めたうえで治療にあたることが大切です。そして、手術や抗がん剤などの治療とともに、食事療法により身体の内側からケアしてあげることもポイントとなります。

<目次>

犬の皮膚がん 病種・症状・原因

犬の皮膚癌(がん)は、多種におよびます。病名として、「メラノーマ」「肥満細胞腫」「扁平上皮がん」「腺がん」「腺腫」「上皮腫」「脂肪腫」などが挙げられます。一般的に、腺腫・上皮腫・脂肪腫は良性腫瘍であり、肥満細胞腫・扁平上皮がん・腺がんは悪性腫瘍に分類されます。皮膚にできるメラノーマについては、良性が多いものの悪性のケースもあります。悪性の皮膚がんは、進行が早く、見つかったときには余命を告知されることもしばしばです。

さらに、犬の皮膚がんは、他の皮膚病との区別がつきにくいこともあります。例えば、犬の皮膚に黒いところをみつけたとき、黒色腫(メラノーマ)の疑いがもたれますが、膿皮症やアトピー性皮膚炎などの可能性もあります。単に黒いホクロなのかもしれません。皮膚がんや皮膚病を見分けるコツについては、後ほどご案内します。

いずれにしても、初期症状で発見できるよう、「皮膚がんかもしれない」というできものを見つけた場合は、早めの検査が望まれます。そして、ただの皮膚病ではなく、犬の皮膚がんならではの症状として、下記が挙げられますので、ご参照ください。

  • 皮膚のしこり
  • 治らない皮膚の病変
  • 下痢・嘔吐・食欲不振・やせ
  • 元気の喪失、無気力
  • (がん転移による)リンパの腫れ

犬の皮膚がんの原因は、解明されていません。他のがん・腫瘍と同じく、食事・ストレス・紫外線などに加え、皮膚の外傷や皮膚病の悪化なども原因といえるでしょう。

皮膚がんや皮膚病の見分け方

犬の皮膚がん・皮膚病は、多種多様であり、パッと見ただけで区別することは不可能です。しかし、ある程度の目安として、皮膚のできもの・腫物・しこりから「どのような皮膚病なのか」「良性か悪性か」といった傾向を知ることができますので、ご参照ください。(あくまで見分け方の目安であるため、詳しいことは動物病院での検査が必要です。)

色の薄い小さなできもの

犬の皮膚にできた、白色・黄色・赤色などの小さなできものは、自然に治る「イボ」の可能性が高いです。これらのイボの多くは、ウィルスの感染によるもので、悪性ではありません。犬同士や人にうつることもありますが、危険性は低いと言えます。

黒色・黒褐色のできもの

犬の皮膚に黒色や黒褐色のできもの・腫物があれば、断定はできないものの、腫瘍の可能性も否定できません。そして、メラノーマなど悪性腫瘍であることも考えられます。アトピーなどの皮膚炎や大きなホクロかもしれませんが、注意は必要です。

強いかゆみ

皮膚のできものに強いかゆみがある場合、犬は何らかの皮膚炎を抱えています。膿皮症・アトピー・疥癬・アレルギーなど、炎症性皮膚病の可能性が疑われます。

皮膚のうみ・化膿

犬の皮膚にうみや化膿が見られれば、膿皮症など細菌感染が考えられます。

悪性の皮膚腫瘍の傾向

犬の皮膚によくみられる、悪性腫瘍の特徴には、下記のようなものがあります。

  • 肥満細胞腫→膨れ上がったしこり、筋肉の塊のような腫物、赤く壊死したような皮膚
  • 扁平上皮がん→カリフラワーのようなできもの、ただれ

良性の皮膚腫瘍の傾向

犬の皮膚にみられる、良性腫瘍の特徴には、下記があります。

  • 脂肪腫→皮膚の下に大きく楕円(丸い)かたまり
  • 上皮腫→キノコのような形の盛り上がり

犬の皮膚がんの治療方法

「薬」「手術」による治療

皮膚がんが多岐にわたるため、病種・部位・がんの状態・犬の体調などにより治療方法も変わってきます。一般的に、犬の体力が十分にあり、腫瘍が独立している(転移もない)状態であれば、外科手術が検討されます。

腫瘍の範囲が広い・高齢犬で体力がない・転移がみられる、などの場合は、抗がん剤治療も考慮されます。手術・抗がん剤・放射線治療を組みあわせることも通例です。

また、「皮膚」というと食べ物は二の次に考えられるかもしれませんが、ドッグフード・食事を見直すことも重要です。がん・腫瘍性疾患に対応した食事管理が望まれるところです。

食事療法5つのポイント

皮膚がんの犬は、「がん細胞に糖質(エネルギー源)を奪われる」という栄養代謝トラブルを抱えています。そして、犬自身はエネルギー・活力不足に陥り、痩せたり元気の喪失がみられるようになります。

そのため、皮膚がんの栄養代謝トラブルに対応した「食事療法」をとりいれることが大切です。犬の皮膚がんに対応した、食事療法について、下記5つのポイントにまとめました。

1)低糖質・炭水化物

がん細胞は、糖質や消化しやすい炭水化物をエネルギー源とし、進行・転移につなげていきます。そのため、糖質・炭水化物を制限することが、犬の皮膚がんでは大切です。

2)質のよい高脂肪

糖質・炭水化物を制限すると、犬自身もエネルギー不足に陥ります。そのため、「脂肪」をたっぷり与えることが重要です。

脂肪は、肉食性の強い犬にとって、エネルギー源となります。そして、がん細胞は、脂肪をほとんど利用することができません。つまり、「低糖質」「高脂肪」により、がん細胞は栄養不足、犬自身はエネルギー補給が可能となります。

一方で、脂肪の「質」に気を付けなければなりません。動物性油脂・酸化した脂肪のとりすぎは、犬に健康被害をもたらします。できるだけ、酸化していないフレッシュな良質脂肪を与えることがポイントです。

3)高オメガ3脂肪酸

皮膚がんの犬にとって、良質な脂肪の一つに「オメガ3脂肪酸」があります。オメガ3脂肪酸は、魚や一部の植物に含まれ、がん・腫瘍についての臨床報告が多数なされています。また、オメガ3脂肪酸は、皮膚を健やかに保つ成分でもあります。

「高オメガ3脂肪酸」「酸化していない」ことをキーワードに、脂肪をたっぷり与えるようにしましょう。

4)高タンパク質・アルギニン

犬自身の活力を保つうえで、タンパク質をたっぷり与えることも重要です。特に、皮膚がんの症状が進むと、犬は慢性的なタンパク質不足に陥ります。

タンパク質についても、「質」を重視しなければなりません。高温での加熱をさけ「変性」を防ぐこと、アミノ酸バランスがとれていること、に注意してタンパク源と製法・調理法を選ぶ必要があります。

アミノ酸の中でも、「アルギニン」は最重要です。アルギニンは、オメガ3脂肪酸との相乗効果が報告されており、皮膚がんの犬にはたっぷり与えたい成分です。

5)腸の健康・免疫力キープ

腸は「皮膚」「免疫力」の両方と深くかかわる器官です。そのため、皮膚がんの犬では、腸の健康を保ち、善玉菌アップにつながる食事・ドッグフードが望まれます。

犬の腸の健康において、カギとなる成分は「食物繊維」。犬の腸に合った「種類・量・バランスの食物繊維」を取り入れることが大切です。

さらに、免疫力キープのスイッチを押す成分もあります。例えば、キノコ由来のβグルカンや菌由来のLPSなどは、犬の腸などから「受け皿」となる成分が発見されており、免疫力のスイッチを押してくれます。

犬の皮膚がんに対応した食事療法食(ドッグフード)、「犬心 元気キープ」のWebサイトはこちらです。

「犬の皮膚がん」に対応、食事療法食(ドッグフード)

食事療法 実践のコツ

犬の食事対策

「犬の皮膚がん・食事療法5ポイント」に沿った、実践のコツをご案内します。

市販ドッグフード・療法食の活用

食事療法5ポイントに合わせて、犬の皮膚がんに適した市販ドッグフードのチェックポイントをまとめました。

  1. 低糖質・低炭水化物 → 糖質の成分値や説明がないフードは避ける。
  2. 質のよい高脂肪 → 「粗脂肪」値が高い(12%以上)ドッグフードを選ぶ。ただし、脂肪の酸化に配慮しているか、合成酸化防止剤(BHT/BHAなど)を使っていないか、などをチェックする。
  3. 高オメガ3脂肪酸 → オメガ3脂肪酸の含有量5%以上が望ましい。ただし、酸化への配慮について、しっかりチェックする。
  4. 高タンパク質・アルギニン → タンパク質25~30%以上、アルギニン2%以上が望ましい。
  5. 腸の健康・免疫力キープ → 善玉菌が増える内容か、免疫力キープにつながる成分が含まれているか、などをチェック。

皮膚がん対応の療法食 2商品

なお、犬の皮膚がんに対応した「療法食」もあります。2商品をご紹介します。

  1. ヒルズ社n/d缶 → 缶詰タイプ、「犬のがん・腫瘍対応の療法食」。
  2. 犬心 元気キープ → ドライフード+オメガ3オイルのセット、「犬のがん・腫瘍対応のナチュラル療法食」。

※「犬心 元気キープ」は私たち自身が開発しました。多くの皮膚がんのワンちゃん達に続けてもらっています。→犬の皮膚がん対応ナチュラル療法食「犬心 元気キープ」

手作り食のコツ

食事療法を手作りで実践することもできます。手間と工夫がかかりますが、「犬の皮膚がん 食事療法5ポイント」に照らし合わせて行うことが大切です。以下、手作り食を行うコツをリストアップしました。

  1. メインは肉・魚(全体の50~90%)。軽く茹でて、適当に刻んで与える。
  2. 玄米・大麦・イモ類を全体の10~30%与える。玄米・大麦は、炊飯したものと生粉を半量ずつ混ぜれれば理想的(炊飯したものだけでもOK)。イモ類はふかす。
  3. 緑黄色野菜は、しっかり茹でて茹で汁を捨て、少量のみ与える。もしくは、与えなくてもよい。キノコ類は、免疫力キープが期待できるため、茹でて刻み適量与える。
  4. 豆類・大豆食品は、少量のみ与えることが好ましい。多量に与えることはNG。
  5. オメガ3脂肪酸がたっぷり含まれる、亜麻仁油などをトッピングすることもお勧め。(全体の脂肪量を25%くらいに調整できれば理想的。)
  6. 甘いものは、与えてはいけない。白パンなど、消化されやすく血糖値アップにつながりやすい炭水化物源もNG。

また、皮膚がん対応のドッグフード・療法食と手作り食をミックスすることも可能です。犬の症状や食事の好みにあわせて、チャレンジいただければ幸いです。

犬の皮膚がん まとめ

  • 犬の皮膚がんは、症状の見分けがやっかい。症状により、原因・治療方法も異なるため、判別が大切。
  • 治療方法として、手術・抗がん剤・放射線治療などがある。
  • 犬の皮膚がんの食事療法には、「低糖質・低炭水化物」「高脂肪」「高オメガ3脂肪酸」「高タンパク質・アルギニン」「腸の健康・免疫力キープ」の5ポイントがある。
  • 食事療法を実践するために、「市販ドッグフード・療法食」「手作り食」について、チェックリストに基づいてチャレンジする。