犬は、「肉食性の強い雑食動物」という特殊な食性をもっています。人はもちろん、祖先であるオオカミとも異なる食べ物の好み・栄養特性を有しています。
そんな特別な食性・栄養特性をもった犬の健康のために、犬に合った食事・食べ物を与えることが大切です。
このページでは、犬に合った食べ物・合わない食事を整理してまとめています。動物栄養学の知見にそった確かな情報とともに、私たちの研究にもとづいた知見をそえ、「犬の食べ物・ラボ」として、愛犬家の皆さまにご案内できればと思います。
<目次>
犬に合う/合わない 食べ物の基準とは?
このページを基点とする「犬の食べ物・ラボ」のコーナーでは、次のポイントを基準に、それぞれの食品をチェックしていきます。
- 「犬の栄養学」としての科学報告
- 私たち自身が行った「犬の食事に関する研究」の成果
- 食べ物の個別チェックとともに、食事トータルでの栄養バランスを配慮
そして、このページでは、「肉・魚」「穀物・イモ類」「緑黄色野菜」「豆類」「キノコ類・海藻」「果物」「その他の食べ物」というカテゴリーに分け、各食品カテゴリーについて、犬との相性などをご案内します。
肉・魚について
「肉・魚」は、犬の主食となる食べ物です。犬種や犬齢、抱える病気などにもよりますが、目安として犬は全食事のうち半分くらいを「肉・魚」にすることが栄養バランス上、好ましいです。
どの「肉・魚」が良いのか?
「肉・魚」の種類については、「鹿肉が良い」「馬肉が一番」などという言及もみられますが、個別の素材でどれが犬に最良とは言えません。アミノ酸やミネラル・脂肪酸などの栄養バランスや消化性を考慮したうえで、複数の「肉・魚」を与えることが犬には良いと考えられます。
(※牛肉・豚肉・鶏肉・ラム肉・鹿肉・馬肉など、お肉について詳しくは「犬にお肉・生肉、注意すべき4ポイント」でご案内します。)
「肉・魚」の調理方法
肉・魚の調理方法(加工方法)にもポイントがあります。「加熱は最小限にとどめる」ということが、犬の健康にはお勧めです。
加熱を控えめにした方が良い理由は、下記の2点です。
①「脂肪の酸化」を防ぐため
肉・魚が加熱されると、「脂肪の酸化」がおこります。酸化とは、金属のサビのような変化のことで、脂肪の酸化は、犬にとって毒となる要素です。
高温の加熱を最小限にとどめることにより、脂肪の酸化を防ぐことができ、犬に安心な状態で肉・魚を与えることができます。
②「タンパク質の変性」を防ぐため
加熱による肉・魚の変化は、タンパク質でもおこります。「変性」と呼ばれる現象で、タンパク質の構造が変化し、犬にとって消化しにくい形態になるのです。
タンパク質の消化が悪くなれば、アレルギーの原因になりやすくなるなど、犬に好ましくない問題が生じます。
酵素について
もう一つ、「酵素」についても触れておきます。
肉・魚の加熱を控える理由として、「酵素」の存在が第一に挙がることもあります。もちろん、生の状態の方が控訴を含んでいることは待ちありませんが、肉・魚の酵素活性は微々たるものです。そのため、生肉・生魚の酵素による恩恵は、犬にとって大したことではありません。
犬にとっては、酵素よりも、肉・魚のタンパク質&脂肪がフレッシュに維持されることが、加熱を最小限にとどめるメリットです。
肉・魚の加熱調理のポイント
「加熱しない方がよい」というなら、生肉・生魚のまま犬に与えたいところですが、菌や寄生虫による食中毒のリスクがありる食材では、やはり最低限の加熱は必要です。(※人が生で食べても大丈夫な肉・魚は、基本的に犬も生のままでOKです。)
肉・魚の加熱調理のポイントは、温度と時間です。具体的には、肉・魚の中心温度で75℃・1分の加熱により、犬に害となる菌・寄生虫はほぼ死滅します。
この加熱条件をチェックする目安が、肉・魚の内側の赤身です。(白身魚の場合は、生の透明感になります。)赤身がちょうどなくなってきた、もしくはほんの少しだけ赤身が桃色に変わってきた、ぐらいのタイミングが、犬にとっても安心かつ健康的な調理条件になります。
穀物・イモ類について
「穀物は、犬にNGの食べ物」という論調を目にすることがあります。これは、犬の健康を損なう大きな誤解、と断言できます。(※ごく一部の超大型犬など、穀物を最小限にとどめた方が良い犬種も存在します。)
穀物やイモ類は、犬に一定割合で与えるべき食べ物です。
穀物をめぐる誤解
犬に穀物は良くない、という誤解は、幾つかの理由により生じたようです。
犬は肉食動物という誤解
まず、「オオカミの子孫である犬は、肉食動物」という間違った理解があります。
確かに、オオカミは犬の先祖です。しかし、犬は長く人と共生することにより、独自の進化を遂げ、オオカミとは全く異なる食性をもつようになりました。(犬が人と暮らし始めたのは、15万年以上前、という説もあります。)実際のところ、犬は純粋な「肉食動物」ではなく「雑食動物」です。もちろん、人よりは肉食性の強い雑食動物、という位置づけになります。そして、「雑食動物」である犬の食性は、穀物・イモ類を栄養源として利用する、という点が挙げられます。
小麦グルテンによる風評被害
次に、「小麦グルテン」による「穀物全種の風評被害」があります。
穀物の中で、「小麦」は、犬に与えるべきではない食べ物です。小麦に含まれる「小麦グルテン」という成分が、犬の消化を妨げ、様々な健康リスクの素となりえます。
小麦グルテンは、とても粘り気が強い成分であり、パンなどの生地づくりや麺類のつなぎなどとして活躍します。一方で、その粘性の強さから、犬の消化器で滞留しやすく、他の食べ物の消化吸収を邪魔する存在となります。さらに、小麦グルテンは、消化の悪さから、犬のアレルギー原因物質となりやすく、犬に与えるべきではありません。
ところが、「犬に小麦グルテンはNG」という事実が、「グルテン・フリー推奨」という流れにつながり、「全ての穀物は犬にNG」という間違った風潮が生まれることとなりました。
小麦以外の穀物には、小麦グルテンと同等の成分はほとんど含まれておらず、消化の悪さなどは見られません。そして、小麦以外の穀物には、犬にとってメリットとなる要素を多々有しているのです。
穀物・イモ類のメリット
それでは、穀物・イモ類の犬にとってのメリットをご案内します。
①良質な炭水化物源
多くの穀物・イモ類は、犬にとって良質な炭水化物源です。「でんぷん」と呼ばれる成分が、犬の消化酵素によって「ブドウ糖」に変換され、エネルギーとして活用されます。
②難消化性でんぷん
でんぷんの中には、「難消化性でんぷん」と呼ばれる犬の胃腸で消化されにくいタイプのものがあります。「難消化性でんぷん」は、善玉菌のエサとなるため、腸内環境を整えるうえでとても重要な成分です。
③犬に合った食物繊維
穀物やイモ類の食物繊維は、犬に合ったタイプのものが多いです。犬は雑食動物だけれども、肉食性の特徴を強くもっています。そのため、人と比べて犬は食物繊維にデリケートな面があり、犬に合わない繊維質は消化器に負担をかけることになります。
その点、穀物・イモ類の食物繊維は、犬の消化器にやさしい、相性のよいタイプです。
穀物・イモ類の目安量
犬種や犬の状態などによって個体差はありますが、全食事の30%ほどは穀物・イモ類を与えることをお勧めします。
私たちは、穀物・イモ類を肉・魚につぐ主食として重要視しています。
(※犬にお米を与えることについて、詳しくは「犬に白米・玄米、それぞれの栄養学」をご覧ください。)
緑黄色野菜について
犬は、緑黄色野菜を食べることができますが、苦手とする要素もあるため、注意が必要です。
緑黄色野菜の注意点
犬にとって、緑黄色野菜の注意ポイントは下記のとおりです。
- 野菜の「食物繊維」は犬にとって硬質で、消化器に負担となる
- 野菜に含まれる「シュウ酸」という成分が、犬の結石や腎臓病の原因となる
- 緑黄色野菜の「βカロテン」は過剰摂取で犬のビタミンA中毒を引き起こす
- 人には大丈夫でも、犬には植物毒となる野菜成分もある
緑黄色野菜を安心して犬に与えるポイント
上記の「注意点」を考慮しながら、犬に安心して緑黄色野菜を与えるポイントをご案内します。
「しっかり茹でて茹で汁を捨てる」「与える量は少量にとどめる」という2ポイントです。
茹でることにより、緑黄色野菜の食物繊維が柔らかくなり、犬の負担が軽くなります。そして、茹で汁にシュウ酸や植物毒の成分などが抜け出るため、いわゆる「茹でこぼす」ことで、犬にとっての「アク抜き」になります。
茹でることにはデメリットも
ただし、野菜を茹でることには、犬にとってデメリットもあります。熱に弱い「ビタミンC」「酵素」などが破壊されてしまうのです。
それでも、メリットがデメリットを上回るため、犬には緑黄色野菜を茹でこぼして与えることがお勧めです。
(※野菜については、「犬と野菜の栄養学」でより詳しくご案内しています。)
豆類について
豆類は、犬にとって良質なタンパク質源であり、適量与えている分には腸内環境にも良い影響を及ぼします。
一方で、適量を超える豆類は、途端に犬にダメージを与える食べ物へと変貌してしまいます。
豆類を多く与えると、犬に良くない理由
私たちは、豆類が適量を超えると、急に犬に良くない食べ物になってしまうことに、研究途中で気づきました。でも、なぜ、豆類がそのような複雑な挙動を犬に示すのか、理由がわかりませんでした。
まだ理由を完全に証明できていませんが、おそらく、「レクチン」「サポニン」「フィチン酸」など、豆類に特有の成分が関係しているのでは、と考えています。
豆類のレクチン・サポニン・フィチン酸とは?
豆に含まれる「レクチン」は、糖鎖と呼ばれる多糖類や糖たんぱく質などをくっつけるという性質があります。つまり、豆類が多くなると、犬の腸の表面にへばりついてしまい、食べ物の消化を悪くすることが考えられます。
「サポニン」は界面活性剤の1種で、脂質を溶かす性質があります。豆類のサポニンは、犬の腸表面の脂質をも溶かすことが考えられます。
大豆などに多く含まれる「フィチン酸」は、抗酸化物質という点で犬にも有用です。一方で、フィチン酸は栄養吸収をブロックする性質があり、犬へのデメリットが懸念されます。
つまり、豆由来のレクチン・サポニン・フィチン酸は、犬の健康リスク要因になる可能性があります。
豆類は「少量」がポイント
結論として、豆類は犬に少量のみ与える、ということが重要ポイントです。少量であれば、消化に負担をかけず、犬は豆類の良質なタンパク源を補うことができます。
(※豆類の中でも「大豆」について、詳細を「犬に大豆の是非」でご案内しています。)
キノコ・海藻について
キノコや海藻は、犬にって良い食物繊維源となります。
先にご案内した穀物・イモ類の食物繊維とは、異なるタイプの繊維質をキノコや海藻はもっています。そのため、バランスよく少量のキノコ・海藻を食べ物として与えることで、犬の胃腸を健やかに保つことができます。
また、キノコや海藻には、特有の機能性成分も知られています。キノコのβグルカン、海藻のフコイダンなどです。
これらの成分は、犬にとっても免疫力維持などに働くため、キノコ・海藻は適量を与えたい素材です。
果物について
果物は、様々な種類があるため、一列に扱うことは難しいものの、多くは犬にもOKな食べ物です。(※中には、犬に要注意な果物もあります。)
野菜と比べても、果物の食物繊維は犬に合ったタイプのものであり、植物毒のリスクも低いです。
有用なビタミンC源として、生のまま犬に与えることができる果物も多く、果物ならではの栄養価値があります。
また、甘さを気にされる飼い主さんもいらっしゃいますが、果物は意外と血糖値をアップさせない食べ物であり、よほど多量に与えない限りは糖尿病や肥満のリスクも高くありません。
これらの観点から、果物をおやつやご褒美として一切れ与えることは、犬にも飼い主さんにとっても、楽しみとして良いことだと思います。
(※主な果物の犬への適正について、「犬と果物の栄養学」でご案内しています。)
まとめ
- 犬にとって各食べ物の良し悪しは、動物栄養学の知見と研究の裏づけ、食事全体の栄養バランスを考慮することが重要。
- 肉や魚は、犬の主食となる食べ物。
- 小麦を除く穀物・イモ類は、犬にとって良質な炭水化物源かつ食物繊維源。
- 緑黄色野菜は、少量を茹でこぼして与えることがポイント。
- 豆類は、少量のみにとどめれば、犬に良質な栄養源となる。
- キノコ・海藻は、食物繊維源・機能性食品としても魅力がある。
- 果物は、ビタミンCなどの補給のために、少量を与えることがお勧め。