犬が好む食べ物のナンバーワンは、何といっても「お肉・生肉」です。犬は肉食性の強い雑食動物であり、栄養学からも「お肉・生肉」をメインの食事に添えることが理にかなっています。
かといって、お肉関連の食材・原料であれば、何でも犬に与えれば良い訳ではありません。
このページでは、動物栄養学の観点から、犬にお肉・生肉を与える際に、注意すべきポイントなどについてご案内します。
<目次>
なぜ、犬に肉が良いのか?
動物栄養学の基準では、犬の食事のうち50~70%は肉・魚関連の食べ物を与えることが好ましいとされています。
なぜ、犬にはお肉をメインとした食事が良いのでしょうか?
その理由は「肉食性の強い雑食動物」という犬の食性にあります。犬は、肉食動物であるオオカミを祖先としています。オオカミから犬への進化の過程で、穀物や野菜への適応をある程度果たしましたが、それでも、「肉」から栄養を取りいれることに適した特性を有しているのです。
そのため、犬の食事では、お肉をメインに穀物などを適量添えるような栄養バランスが適しています。
犬にお肉・生肉、注意すべき4ポイント
犬に「お肉・生肉」を与える際に、注意点があります。以下、4つのポイントにまとめました。
1)高脂肪への注意
犬にとって、肉類から得られる栄養成分の一つに「脂肪」があります。脂肪は、犬にとって有用なエネルギー源・カロリー源であり、とても大切な栄養素です。そのため、脂肪を含む肉類は、犬にエネルギーを与えてくれます。
しかし、肉の中には、過剰に脂肪を含むものもあります。過剰な動物性脂肪は、犬にとっても健康被害をもたらすリスクがあるため、脂肪分が多いお肉は控えめにしなければなりません。肉の脂肪のカタマリなどは、犬に与えない方が良いでしょう。
2)脂肪の酸化
肉に含まれる「脂肪の酸化」も要注意です。脂肪は、空気に触れる時間が長かったり、加熱プロセスによって「酸化」と呼ばれる現象がおこります。酸化された脂肪は、犬にとって大きな健康被害をもたらし、様々な病気につながる恐れがあります。
そのため、肉を必要以上に加熱したり、保存期間が長くなると、脂肪の酸化が進み、犬にとってデメリットとなります。
「生肉」が犬に好ましいとされる理由の一つは、「脂肪の酸化を防ぐ」という観点があります。
3)タンパク質のアミノ酸バランス
「タンパク質」も、肉から得られる重要な犬の栄養素です。タンパク質は、犬の身体をつくり、日常生活・活力の素となります。
そして、犬にとって、栄養としてのタンパク質を考えるうえで大切なポイントが「アミノ酸バランス」です。タンパク質は、20種類のアミノ酸の連なりで作られています。犬が必要な各種のアミノ酸は、それぞれで必要量が決まっており、できる限り必要量にそったバランスで補給することが望まれます。
肉は、犬にとってアミノ酸バランスがとれているタイプの食材であり、消化しやすく栄養活用されやすいという特徴があります。
(※ただし、1種類の肉のみで、犬にとってのアミノ酸バランスを整えることは難しいです。複数の肉・魚や乳製品、卵、植物性タンパク質をミックスし、アミノ酸バランスを計算して与えることが望まれます。)
4)タンパク質の変性
肉に含まれるタンパク質も、加熱などにより劣化が進みます。加熱によりタンパク質が劣化する現象は「変性」と呼ばれています。
変性したタンパク質は、犬の消化が悪くなるばかりか、アレルギーの原因物質になり、腸内細菌バランスが崩れる要因ともなります。タンパク質の変性の点からも、肉を過剰に加熱することは、犬にとって好ましくありません。
※「加熱した肉」VS「生肉」、犬にはどちらがベター?
以上のように、「脂肪の酸化」「タンパク質の変性」を考慮すると、肉は加熱せずに「生肉」のまま与えた方が、犬の健康には良いように思えます。実際に、栄養面からは、生肉が犬にとってベターです。
しかしながら、生肉には別の問題点があります。「感染リスク」です。全く非加熱の生肉には、犬に胃腸炎などの重篤なトラブルを引き起こしうる菌・寄生虫が潜んでいる可能性もあるのです。
そのため、「人間が食べても問題ないようなタイプの生肉」かどうか、チェックしてから犬に与えるようにしましょう。生肉として安全かどうか、確証が持てない場合は、過剰な加熱にならず感染リスクがない範囲で、適度に火にかけるにようにしましょう。
ドッグフードの肉に関係した原料について
市販ドッグフードには、肉に関係した原料が多く使われています。ただ、この肉関連原料には、犬にとって好ましくないものもあります。この点、消費者の方にはわかりにくいポイントであるため、下記、整理してご案内します。
ドッグフードの危険な肉原料
まず、市販ドッグフードに記載されている原材料表示をチェックすることが重要です。その表示の中に、「肉粉」「肉骨粉」「肉副産物」「鶏脂」などの記載をよく見かけます。これらは、犬の健康上、要注意原料です。その他、「チキンエキス」「チキンパウダー」なども、「肉粉」と同じ可能性が高いです。
これらの肉原料が、どうして犬に良くないのでしょうか?
肉粉・肉骨粉が犬に良くない理由
まず、「肉粉」「肉骨粉」などは、粉にするプロセスで高熱がかかっていることが挙げられます。そのため、犬に好ましくない「脂肪の酸化」「タンパク質の変性」が進んだ肉原料になってしまいます。
さらに、肉粉にしてから保管時間が長くなるため、保存料を添加することになります。ところが、この時に使う保存料などは、ドッグフードの原材料表示に掲載されません。そのため、犬にとって悪質な原料なのに、「肉粉」という表示だけで済まされてしまうことになるのです。
肉副産物について
「肉副産物」は、さらに何物なのか得体が知れません。人が食べることなどとんでもない原料であることが多く、もちろん、犬にとって好ましくありません。
鶏脂について
「鶏脂」は、犬の食いつきをよくしたり、脂肪分を足したり、フードを成型するためなどに使用されます。こちらも、「酸化した脂肪」であるため、犬の健康上好ましくない肉原料です。
ドッグフードで安心できる肉原料とは?
ドッグフードに使用されているものの中で、犬にとって安心できるお肉関連の原料は、「生肉」だけと言えます。ただし、「生肉」の鮮度はもちろん、ドッグフードの製造プロセスにも留意が必要です。
つまり、生肉をフレッシュな状態のまま製造にかけ、できるだけ高温加熱をさけてドッグフードを作ることが、犬にとっては理想です。私たちがお届けしている「犬心」は、そのような生肉の使い方・作り方をしていますし、最近は同じような製法のドッグフードも増えてきています。
(※ドッグフードの気になる原材料について、詳しくは「ドッグフードの気になる原材料」でご案内しています。)
犬にお肉・生肉、与え方
それでは、犬用の手作り食において、お肉・生肉の与え方をご紹介します。次の3ステップでお肉を与えることがお勧めです。
ステップ1)生肉の選択
まずは、犬に適したお肉を選びます。もちろん、生肉がお勧めです。犬の健康面から、低脂肪タイプの生肉が好ましいです。脂肪がついたタイプの生肉は、脂肪部分を落とすようにしましょう。
ステップ2)生肉の加熱
次に、生肉の加熱です。ここでのポイントは、「生肉の殺菌・殺虫」「加熱しすぎない」という2点です。犬の安全性・健康、両面に配慮して、生肉を適度に加熱してあげましょう。茹でても焼いても、どちらでも結構です。
ステップ3)お肉のカット・他の食べ物とミックス
仕上げに、犬がお肉を食べやすいサイズにカットします。(加熱前にカットしておいても構いません。)そして、お肉以外の食べ物とミックスし、犬の栄養バランスを考慮してあげましょう。
お勧めは、お肉5~6・穀物3・茹で野菜1~2ほどの割合です。この割合で犬に与えることで、おおよその栄養バランスをとることができます。お肉を市販ドッグフードに混ぜて与えることも、栄養や総合カロリーに問題が無ければOKです。
まとめ
- 「肉食性が強い雑食動物」の犬にとって、肉をメインにすえる食事は栄養バランスをとりやすい。
- 犬にお肉・生肉を与える際の注意点として、「高脂肪への注意」「脂肪の酸化」「タンパク質のアミノ酸バランス」「タンパク質の変性」の4ポイントがある。
- 犬の栄養上、加熱した肉より生肉が好ましい。一方で、生肉には、感染リスクがあるため、適度に加熱して与える。
- ドッグフードには、肉粉・肉副産物など、犬に良くない原料を含むものが多い。ドッグフードの原料としても、生肉を使用しており、製法にもこだわったタイプが好ましい。
- 犬に肉を与える際、「生肉の選択」「生肉の加熱」「肉のカット・他の食べ物とのミックス」という3ステップがお勧め。
動物の栄養学に基づいた信頼できる情報を発信してくださっていることを有り難く思います。
もうじき12才になるシーズー犬に手作り食を与えています。3年半前に門脈シャントの手術を受けましたが、術後経過も良好で、今のところ肝臓の数値も正常内です。ただ小肝症なので肝臓に負担を与えないようにしなくてはと思います。
ここで質問ですが、
1)今の段階でも食事は肝臓病を意識した内容にした方が良いのでしょうか。
2) その場合ビタミンAやDはできるだけ与えない方が良いのでしょうか。ビタミンAを多く含むトマト、ブロッコリー、クレソン、小松菜などには他の良い要素も含まれるので与え続けていますが、やはりできるだけ少なめにすべきでしょうか。
3) 肉、炭水化物、野菜をそれぞれ3分の1ずつにしていますが、比重を5:3:2程度に変える方が良いのでしょうか。
4) 肉は鶏のササミと鶏の胸肉、魚は白身魚とイワシを与えています。イワシは脂肪が多く含まれますが、ある程度脂肪も必要と思い、1日おきに与えています(6 kgの犬に1日25g)。1日に与えてよい肉の量についての情報も色々異なるので、ある程度の基準みたいなものがあれば教えてください。
犬の食事に関する本やブログなどにも目を通してきましたが、どれも栄養学にきちんと基づいているとは思えないものばかりでしたが、やっとこのサイトに出会えました。お忙しいところ大変恐縮ですがご返答頂ければ幸いです。よろしくお願いします。
お問い合わせいただき、ありがとうございます。
ワンちゃんのことをうかがい、お力になれればと思っています。
門脈シャントの手術後、経過は良好で肝臓値も正常内ということで、小肝症をケアしながらということですね。
下記、回答させていただきます。
1)現状では、それほど肝臓病を意識しなくても大丈夫だと思います。高タンパク質・高脂肪・高塩分をさけることはもちろんですが、代謝に問題がない状況と思われますし、栄養制限を行いすぎても肝臓の劣化につながるため、良質で中程度のタンパク質量の食事で良いと考えられます。
2)犬では、βカロテン→ビタミンAの変換が進みやすいため、ニンジン・カボチャなどの高βカロテン食材には注意が必要です。一方で、トマトのリコピンはそういった問題がありませんし、ブロッコリー・クレソン・小松菜などもさほど心配ないと思います。ただ、これらは「シュウ酸」などの成分が含まれおり、過剰な野菜質の食物繊維は胃腸に負担もかかりますので、少量を茹でこぼして与えることがお勧めです。(茹でこぼすことでシュウ酸などが抜けるとともに、繊維質が柔らかくなるためです。)ビタミンDは、特に制限の必要はないと思います。
3)野菜を多くし過ぎると、犬の食性上、どうしても消化負担につながりやすいと思います。消化負担は肝臓での栄養代謝にも影響を及ぼしますので、野菜の割合は全体の20%くらいが良いと考えています。肉:炭水化物は、肝臓に不安があるワンちゃんでは、1:1程でも良いと思います。
4)手作り食のみをあげられているのであれば、体重からササミ・胸肉・魚などは合計で1日120g~170gほどが目安になるかと思います。そして、お察しのとおり魚の脂などは、ある程度あげてもらっても肝臓に良い影響があります。ただ、魚を多くすると、どうしても塩分が増えるため、その点だけ注意が必要です。
それから、少量の果物をあげることもワンちゃんにはお勧めです。理由として、肝臓トラブルではしばしば「酸化障害」が問題となり、果物のビタミンC・ポリフェノールなどの抗酸化物質が役立ちます。また、果物の食物繊維は、腸内の未消化タンパク質残渣を排出し、肝臓のタンパク質(窒素)代謝をサポートしてくれます。
ご不明な点など、いつでも仰ってくださいませ。