犬とイチゴの栄養学

「犬にイチゴを与えても大丈夫?」そのような疑問をもつ飼い主さんは多いのではないでしょうか。

イチゴは犬に良くない、という情報もありますが、実際のところはどうなのか、科学的な視点で検証したいと思います。

<目次>

犬にイチゴ、成分「キシリトール」の誤解と事実

「イチゴは犬にはNG」という情報は、イチゴに含まれる成分「キシリトール」による面が大きいようです。

キシリトールとは、虫歯予防で良く知られる成分で、ガムや歯磨き粉に広く使われていますね。キシリトールは、人間がある程度の量を取り入れても安全性が確認されていますが、犬は多量に摂取すると毒性があると報告されています。

キシリトールの犬への毒性、科学報告

キシリトールの犬への毒性について、報告された論文内容を簡単にご案内します。(※研究論文例→犬のキシリトール摂取によるインスリンの異常分泌

キシリトールを犬に多量に与えると、糖代謝のホルモン「インスリン」が多量に分泌されることが確認されています。インスリンとは、糖質を代謝するホルモンで、血中の糖質をとりこむ作用があります。インスリンが多量に分泌されると、血中の糖質が一挙に少なくなり、「低血糖」状態となってしまいます。極端な「低血糖」は、犬の身体に大きな負担を与えることになります。

まとめると、「キシリトール多量摂取」→「犬の体内でインスリン異常分泌」→「犬の急な低血糖」という流れが、犬の健康ダメージとなるのです。

場合によっては、死にいたることも報告されており、キシリトールを多量に犬に与えることは、極めて危険です。

イチゴに含まれる「キシリトール」

では、「キシリトール」を含むイチゴを犬に与えることは、やはりNGなのでしょうか?

結論をお伝えすると、イチゴは犬に与えても大丈夫です。

理由として、イチゴに含まれるキシリトール含量は100g中に300~350㎎ほどで、100個以上食べなければ全く問題ないことが挙げられます。ワンちゃんに与えるとすれば、おやつ替わりに数個まででしょうから、キシリトール・トラブルが起こることはありえないので、ご安心ください。

イチゴの「ビタミンC」と犬の栄養

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イチゴに含まれる、犬の栄養成分についても見ていきましょう。まずは、「ビタミンC」です。

イチゴは、ビタミンCの宝庫といえるほどで、他の果物と比べても高い含量です。イチゴ1個あたり約10㎎のビタミンCが含まれており、体重10㎏以下の小型犬であれば、イチゴ1個を食べるだけで1日に必要なビタミンCをほぼ補うことができます。

犬にとっての「ビタミンC」

イチゴ1個で犬に必要な1日のビタミンCを補える、とお伝えしましたが、厳密にはイチゴなどを食べなくても問題ありません。実は、ビタミンCは犬が体内で合成できる栄養であり、取り入れなくても生きていける成分です。だから、国際的な動物の栄養評価機組織「AFFCO」においても、犬のビタミンC摂取量は決められていません。

それでも、犬はビタミンCを取り入れることが望ましいと考えられています。理由として、ビタミンCを全く与えない犬では、胃癌・口腔癌・肺癌のリスクが高まる、という研究報告などがあり、欠乏症が散見されるためです(Sauverlich, 1991)。

犬のビタミンC欠乏の研究報告からも、体重10㎏以下の小型犬で1日1個程度のイチゴを食べることは、ビタミンC補給の観点で良いことだと思います。

イチゴの「食物繊維」と犬の腸

イチゴを与えすぎると、犬が下痢をすることもあります。

犬が下痢をする原因として、イチゴに含まれる「食物繊維」があります。イチゴに含まれるメインの食物繊維は、「ペクチン」と呼ばれる成分です。

イチゴの「ペクチン」と犬の下痢の関係

イチゴをジャムにしたとき、独特の粘性がつきますが、その粘性は「ペクチン」によるものです。ペクチンは、犬の腸内細菌により利用されやすく、比較的、犬の腸に優しい食物繊維ということができます。

一方で、犬の腸内でペクチンおよびペクチン分解物が増えてくると、水分量の増加やpHの酸性化が進みます。これらの変化は、犬の整腸作用につながるものですが、ペクチン含量が多すぎるとバランスを崩し、下痢が見られるようになります。

元々、肉食性の強い動物である犬にとって、食物繊維はバランスよく適量を与えることが重要です。多すぎる・アンバランスな食物繊維は、犬の腸に負担をかけ、消化器トラブルを引き起こすことにつながります。

そのような食物繊維の量・バランスの観点から、犬に与えるイチゴ量は、小型犬で1日あたり1個までが好ましいでしょう。

(※ペクチンなどの食物繊維と犬の関係性について、次のページで詳しくお伝えしています。→「犬と食物繊維の相性」)

イチゴの各栄養成分と犬の健康

キシリトール・ビタミンC・食物繊維(ペクチン)以外にも、イチゴには犬の健康に関わる成分が含まれています。幾つかご紹介します。

イチゴのポリフェノール

イチゴには、「アントシアニン」というポリフェノールが豊富に含まれています。イチゴの赤色に関わる成分であり、抗酸化力が知られています。

ビタミンCとも相性がよく、ビタミンCとアントシアニン(ポリフェノール)の両方を豊富に含むイチゴは、犬の体内でも高い抗酸化作用を発揮します。

イチゴの葉酸

イチゴは、葉酸も豊富に含んでいます。犬では、葉酸不足により貧血や免疫力低下がおこる、という報告があります。そして、葉酸は多量にとっても毒性がない成分とされており、安心して与えることができます。

イチゴのミネラル

ミネラルの中で、カリウム・カルシウム・マグネシウムなどの成分がイチゴには含まれています。「食物繊維」の項でお伝えしたとおり、犬に与えるイチゴの量は、小型犬で1日あたり1個までが理想。その程度の量であれば、厳密なミネラル制限が望まれる犬の病気以外、イチゴのミネラルについては、細かいことを気にしなくても良いと思われます。

(※イチゴを含めた果物全般のことについては、「犬と果物の栄養学」にまとめています。)

まとめ

  • イチゴに含まれる成分「キシリトール」は、犬への毒性が知られている。しかし、イチゴを100個以上食べた場合に生じる毒性であり、現実的な危険性はない。
  • イチゴは「ビタミンC」の宝庫。小型犬で1日1個のイチゴを与えれば、十分なビタミンCを補うことができる。
  • イチゴには、ペクチンという「食物繊維」が含まれる。ペクチンは、整腸作用が期待できる食物繊維だが、取りすぎると下痢につながる恐れもある。そのため、犬に与えるイチゴ量は、小型犬で1日1個までが好ましい。
  • その他、イチゴには「ポリフェノール(アントシアニン)」「葉酸」「カリウム・カルシウム・マグネシウム」がしっかり含まれている。特に、アントシアニンというポリフェノールは、ビタミンCとの相性もよく、犬の体内で抗酸化作用を発揮してくれることが期待できる。

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