動物病院への犬の来院理由として、最も多いものが下痢・嘔吐をはじめとする「消化器トラブル」です。
犬の消化器トラブルでは、下痢・嘔吐など、目に見えるケースが多いですが、病気なのかどうかはっきりしないこともしばしばです。
このページでは、下痢・嘔吐・血便などにみられる犬の消化器トラブルや病気について、食事対策などをご案内します。
<目次>
下痢・嘔吐・血便など、消化器トラブルの症状
犬の消化器トラブルとして、下記のような症状があります。
下痢
下痢は、犬の消化器トラブルの中でも最も多くみられる症状です。やや柔らかめの軟便ならまだしも、水のような液状の下痢、ゼリー状の便、ドロッとした脂肪便、など心配な症状もあります。
犬の下痢が慢性的に続く場合、何らかの病気が関係していることも考えられます。消化器疾患はもちろん、食物アレルギーや癌(がん)などが潜んでいることもあります。
嘔吐
嘔吐も、犬によくみられる消化器トラブルです。下痢と嘔吐の両方があらわれるケースも多く、注意が必要です。
犬の嘔吐の場合、下痢と比べると消化器の中でも上の方(口寄り)でトラブルが起こっている可能性が高いです。例えば、「胃」や消化酵素の分泌器官「膵臓」などでトラブル・病気が生じると、嘔吐がみられるようになります。
なお、犬が吐く際には、「嘔吐」と「吐出」に違いがあります。
犬の「嘔吐」は、胃の中の食べ物が吐き出される症状です。そのため、ある程度消化された食事を吐いてしまいます。対して、犬の「吐出」は、胃の中に食品が入る前に吐く症状です。そのため、ほとんど未消化なまま吐き出てしまいます。
犬の「吐出」に関しては、大きな心配はいらないケースが多いですが、「嘔吐」は消化器疾患などが潜んでいることもあり、慢性的に掃くようであれば要注意です。
(※下痢や嘔吐をともなう犬の病気について、治療や食事療法は「犬の下痢・嘔吐 治療と食事」をご参照ください。)
血便
犬の血便は、下痢とともに生じることが多いですが、正常便に血が混ざっていたり、血液便が出てくることもあります。
犬の血便の中には、いわゆる「痔」のような症状もあり、例えば鮮血が微量に便に混ざっている場合など、大きな心配はいりません。
多量の血便・血液便、もしくは黒色便などは、犬が消化器疾患を可能性があり、きちんとした診察が望まれます。
吐血
犬の吐血は、胃や小腸などにトラブルを抱えている可能性が考えられます。また、消化器だけではなく、肺などの器官に問題を抱え、血を吐くワンちゃんもいます。
重大な病気が潜んでいる可能性もあるため、犬に吐血がみられたら、すぐに動物病院で診てもらいましょう。
食欲不振
消化器トラブルにより、犬が食欲不振になることもあります。
食欲不振が続くようであれば、風邪などを含めて病気の恐れがあるため、診察してもらいましょう。
消化不良
下痢や嘔吐などと合わせて、犬が食事を消化しきれず、便などに出てくることがあります。
犬の消化不良は、内因性のトラブル・病気とともに、ドッグフードや食事が合っていないケースもあります。
いずれにしても、犬の消化不良がみられた際は、診察・治療とともに、ドッグフードや食事を見直すことも検討しましょう。
異常なおなら、異常なげっぷ、腹鳴
人と同じく、犬にも「おなら」「げっぷ」「お腹が鳴る(腹鳴)」といった現象がみられます。ちょっとした犬のおなら・げっぷ・腹鳴であれば、生理現象なので問題ありあません。ただし、おなら・げっぷ・腹鳴が異常なレベルでみられるのであれば、その犬は何らかの消化器トラブルを抱えている可能性があります。
便秘
犬が便秘気味になることもあります。便秘が長く続くということは、何らかの原因で腸が閉塞をおこしていることも考えられ、注意が必要です。そして、排便できない犬は、老廃物をため込むことにもなるため、対処が必要となります。
消化器トラブルに潜む犬の病気
犬の消化器疾患には、数多くのタイプがあり、特定することが困難です。それでも、消化器疾患の病名が判明すれば、治療や食事対策を進めやすくなります。
こちらでは、主な犬の消化器の病気をご案内します。
胃炎・胃十二指腸潰瘍
嘔吐がみられる犬の中で、最も多い原因として「胃炎」が挙げられます。犬の慢性嘔吐の約30%が胃炎によるもの、という統計もあります。(※Ref.Small animal clinical nutrition)
胃炎とともに、犬の胃十二指腸潰瘍もこのところ増えている病気です。診断技術の進展により、今まで見落とされていた犬の胃十二指腸潰瘍の発見率が高まってきたと考えられます。
胃炎や胃十二指腸潰瘍の犬は、嘔吐ともに、腹痛をうったえる仕草もしばしばみられます。一方で、何も異常みられず、急に吐血などで病気が発覚することもあります。
胃拡張・胃捻転
犬の胃拡張とは、食事・液体・空気などの混合物により、胃が膨張してしまう病気です。若いワンちゃんが、過食・暴食により胃拡張を発症するケースが多いです。同様に、犬の胃がねじれるようになる胃捻転と呼ばれる症状も、過食などにより見受けられます。
胃拡張や胃捻転の犬は、嘔吐や吐き気をうったえるなどの症状がみられます。
急性胃腸炎・急性腸炎
犬の急性下痢で一般的な病気として、急性胃腸炎・急性腸炎が挙げられます。
急性胃腸炎・急性腸炎では、犬に合わない食事や生ごみ・腐敗物などを食べてしまったことが原因となるケースが多いようです。サルモネラ菌や大腸菌など細菌感染、寄生虫感染などがみられることもあり、抗生物質や駆虫薬の投与など、原因に応じた治療が必要となります。
炎症性腸疾患(IBD)
犬の慢性下痢で、最も多い原因とされている病気が「炎症性腸疾患(IBD)」です。
犬の炎症性腸疾患(IBD)は、小腸と大腸、場合によっては胃でも見受けられます。症状としては、下痢・嘔吐の他、体重減少がみられることも多いです。
タンパク喪失性腸症・腸リンパ拡張症
犬の下痢嘔吐で、しばしばみられる病気に「腸リンパ拡張症」があります。犬の腸リンパ拡張症は、さほど重度の下痢嘔吐がみられるわけではなく、間をあけて便がゆるくなることを慢性的に繰り返すという特徴があります。下痢や嘔吐がみられず、体重減少がゆるやかにおこるのみというケースもあり、発見が遅れることもあります。
犬の腸のリンパ管が開いてしまうことにより、タンパク質がもれ、「タンパク喪失性腸症」に発展します。そうなると、低アルブミン血症などもみられるようになり、犬はむくみや腹水が生じます。
大腸炎
犬の大腸炎は、粘膜状の下痢や血液を伴う下痢、排便障害などを伴います。大腸炎の犬は、特徴的な大腸性下痢に加えて、食欲不振・元気の喪失がみられることも多いです。
鼓腸症
犬の胃腸内でガスが過剰発生する病気を「鼓腸症」と呼びます。鼓腸症の犬では、異常なおなら・げっぷ・腹鳴(ゴロゴロとお腹がなること)などの症状がみられます。
膵炎・膵外分泌不全(膵臓疾患)
膵炎・膵外分泌不全といった、膵臓のトラブルも犬には多くみられます。膵臓は、消化酵素の分泌器官であり、膵炎・膵外分泌不全の犬は、消化に問題をかかえることになります。
そのため、膵炎・膵外分泌不全のワンちゃんでは、下痢や嘔吐、食欲不振などの症状がみられます。
(※犬の膵炎について、詳しくは次のページをご参照ください。→「犬の膵炎 治療と食事」)
犬の消化器トラブル、2パターンの食事対策
犬の消化器トラブルの食事対策には、大きく分けて2つのパターンがあります。各パターンの食事対策をご紹介します。
パターン1)高消化・高栄養の食事対策
一つめの方法は、「犬にとって消化しやすく、高栄養・高カロリーの食事を与える」という内容です。
消化器トラブルの犬は、胃や腸に問題を抱えています。そのため、犬の胃・腸に負担をかけず、栄養をしっかり補給することが大切です。
そのような観点から、胃腸で容易に消化吸収できるように、食事・ドッグフードの消化性を高め、少ない量でも犬がしっかり栄養をとれるような内容が望まれます。
高消化・高栄養の食事バランスとは?
少ない量でも犬にとって十分な栄養となれば、「高カロリー」「高タンパク質」「高脂肪」の食事内容となります。その上で、消化性をよくするために、タンパク質・脂肪が良質でなければなりません。
さらに、食物繊維をひかえめにし、犬の消化が悪くならない工夫も必要です。食物繊維が多くなれば、犬にとって消化の妨げとなりうるからです。
パターン2)高食物繊維の食事対策
二つめの方法は、「食物繊維をたっぷり与え、犬の胃腸の運動性を高めるとともに毒素を排出する」という食事内容です。パターン1)では、消化性を高めるために食物繊維量を抑える内容でしたが、それとは逆になります。
主に、大腸炎などの大腸トラブルなどで有用とされています。
高食物繊維の食事バランスとは?
高食物繊維といっても、やみくもに繊維量を増やすことはNGです。犬にあった食物繊維の種類を考慮しながら、複数の繊維源をミックスすることが望まれます。
そして、高食物繊維とともに、できる限り消化も良い内容がベターです。食物繊維量を増やすとどうしても犬の消化が悪くなってしまいますが、繊維の種類、タンパク源・脂肪源の正しい選択を行うことで、消化率をできるだけ高く保つことが大切です。
まとめ
- 下痢・嘔吐・血便などをはじめ、犬の消化器トラブルには様々な症状がある。
- 犬の下痢や嘔吐には、消化器疾患が潜んでいることがある。胃・小腸・大腸、それぞれに複雑な犬の消化器疾患がある。
- 犬の消化器トラブルの食事対策について、「高消化・高栄養の食事」「高食物繊維の食事」の2パターンが挙げられる。