犬のリンパ腫 治療と食事

犬のリンパ腫

犬のリンパ腫は、免疫細胞の1種「リンパ球」が癌(がん)化した病気です。血液がんの一種で、「悪性リンパ腫」とも呼ばれます。(リンパ腫は、悪性腫瘍のみで良性はありません。良性リンパ腫と呼ばれている症状もありますが、腫れ方が似た別の病気になります。)

血液・リンパを通して広がっていくため、進行がはやく、気づいたときには末期症状ということもよくあります。犬のリンパ腫は完治が難しい病気ですが、少しでも健康的に余命がおくれるよう、治療法や食事療法について、ご案内できればと思います。

<目次>

犬のリンパ腫 症状・原因

犬のリンパ腫には、下記のような症状があらわれます。該当することがあれば、できるだけ早く獣医師に相談しましょう。

  • リンパ節など、身体の一部に腫れがみられる
  • 「しこり」のようなものがある
  • 息苦しそう
  • 下痢・嘔吐・食欲不振など、消化器トラブル
  • 急なやせ
  • 元気がない

犬のリンパ腫の原因

はっきりとした原因が解明されていません。遺伝要因の指摘もありますが、全ての症例に当てはまるわけではありません。遠因として、他のがん・腫瘍と同じく、食事・ドッグフードの問題、各種のストレス、加齢に伴う要素などが関係していると思われます。

リンパ腫のステージについて

犬のリンパ腫では、症状の進行によって、5段階のステージ分けがなされています。

  • ステージ1 → 1個のリンパ節・単一のリンパ組織のみに腫瘍形成。
  • ステージ2 → 複数のリンパ節に発症。
  • ステージ3 → 全身のリンパ節に波及。
  • ステージ4 → 肝臓・脾臓への浸潤がみられる。
  • ステージ5 → 血液・骨髄、その他臓器への転移がある。

治療しないで放っておくと、ステージ3で余命2ヶ月以内、ステージ4やステージ5なら余命1ヶ月以内、ということもあるほど、犬のリンパ腫は進行が早い病気です。早い段階での適切な治療が望まれます。

リンパ腫の治療方法

治療方法

犬のリンパ腫の治療は、全身に病態がまわる悪性腫瘍であるため、完治が難しいことを考慮して行われます。基本的に、抗がん剤・ステロイド・抗生物質といった薬剤投与により、症状を緩和する治療となります。薬の効果により、一時的には元気を取りもどすこともありますが、また腫瘍が勢いをもりかえし、再発したような状態になります。それに対して、再治療を行う、というようなイメージです。

抗がん剤治療

リンパ腫の抗がん剤治療では、がん細胞が耐性をもってしまうため、複数の薬剤を併用することが一般的です。リンパ腫のような全身性のがんでは、抗がん剤が有効であり、一時的にとても元気になる犬も多くいます。それでも、そのうち元の病態に戻ってしまうため、継続的な治療が必要になります。この治療プロセスにおいて、重要なことが「プロトコール」です。プロトコールとは、複数の抗がん剤の種類・量・順序・期間などの治療実施プランを指します。犬への負担が少なく、リンパ腫に効果的なプロトコールが求められています。

なお、犬のリンパ腫の抗がん剤治療では、国の負担がないため、それなりの費用がかかります。抗がん剤1回あたり数千円~10万円以上、入院費も含め、トータルで100万円以上の治療費用がかかることもあります。

放射線治療

抗がん剤と放射線治療の併用もしばしば行われます。犬のリンパ腫では、放射線治療で高い効果がえられます。ただ、放射線治療は局所でしか行えません。そのため、全身性の抗がん剤治療と併用することにより、相乗効果がえられることもあります。

ステロイド

犬のリンパ腫では、ステロイドも多用されます。ステロイドによる抗炎症効果により、腫れがおさまることも多く、犬の負担が軽減されるためです。ただ、ステロイドの副作用として、免疫力低下などが懸念されるため、感染予防のために抗生物質を併用することが一般的です。また、ステロイドの利点として、食欲が増すことも見逃せません。ただし、ステロイドによりリンパ腫が完治するようなことはありません。あくまで対処的な緩和療法になります。

ステロイドは、抗がん剤に比べると安価ですが、それでも相応の治療費用がかかります。犬のリンパ腫の場合、ステロイドによる1ヶ月分の治療費は10万円ほどになるようです。

手術

外科手術について、犬のリンパ腫で行われるケースは稀です。よほど局所的にリンパ腫が限定されている場合のみ、手術が検討されます。リンパ腫が局所に限定されており、転移がみられないようなケースでは、手術切除により完治することもあります。ただし、完治したようにみえても、腫瘍が犬の体内に潜んでいることが考えられるため、経過を注意深くチェックしなければなりません。(※いわゆる良性リンパ腫(別の病気で偽リンパ腫とも呼ばれる)では、切除手術が行われます。もちろん、良性リンパ腫では、手術により完治させることが可能です。)

食事療法5つのポイント

犬の食事対策

今までご案内してきた治療は、リンパ腫瘍を除去する・小さくするなどでは有効です。一方で、副作用や犬の体力・免疫力を奪ってしまうリスクもあります。

それに対して、食事療法は、リンパ腫の犬が抱える栄養代謝トラブルに対応し、食事によりワンちゃんの活力・元気を維持することが目的です。

  • 手術・薬などリンパ腫の治療との併用に
  • 治療が受けられない・抵抗がある犬の余命の健康維持に

リンパ腫対応の食事療法は力となってくれるでしょう。

1)糖質制限

リンパ腫の犬は、腫瘍に糖分を奪われてしまう、という栄養トラブルを抱えています。それにより、腫瘍は成長し、犬自身はエネルギー不足となります。

そのため、糖質・消化しやすい炭水化物を制限することが大切です。

2)脂肪をエネルギー源に

糖質制限のかわりに、「脂肪」を犬のエネルギー源として、たっぷり与えるようにしましょう。

人間と比べて肉食性の強い犬は、脂肪代謝が得意です。そのため、ある程度の高脂肪にも耐えられる身体をもっています。そして、脂肪は糖質にかわるエネルギー源となります。

対して、腫瘍は「脂肪」を利用することがほとんどできません。つまり、糖質をカットし脂肪に変えることで、リンパ腫は栄養不足に、犬自身は十分なエネルギーを得ることができます。

3)高オメガ3脂肪酸

ただ、「高脂肪」であれば何でもOKというわけではありません。質の悪い脂肪は、犬の健康にマイナスとなり、リンパ腫の症状にも悪影響です。

そこで、リンパ腫の犬に推奨される成分が「オメガ3脂肪酸」です。オメガ3脂肪酸は、がん・腫瘍への臨床報告が数多くなされています。魚・一部の植物に含まれる、とても有用な脂肪です。

一方で、オメガ3脂肪酸にも「酸化しやすい」という欠点があります。酸素との接触や加熱によりすぐに酸化し、犬の毒成分へと変わってしまいます。そのため、フレッシュなオメガ3脂肪酸を使用し、加熱と酸素への接触を控えなければなりません。

4)高タンパク質・アルギニン

リンパ腫の犬は、活動的な腫瘍におされ、慢性的なタンパク質不足におちいります。そのため、高タンパク質を補ってあげなければいけません。

また、タンパク質も中身が重要です。具体的には、タンパク質を構成する「アミノ酸」のバランスに注意が必要で、特に「アルギニン」というアミノ酸が大切です。アルギニンをたっぷり含む、ドッグフード・食事を与えるようにしましょう。

5)腸の健康・免疫力維持

犬のリンパ腫・食事療法に大切な5ポイント目は、「免疫力維持」です。そして、免疫力維持を実現するために、「腸の健康」がカギとなります。

腸は、免疫細胞が集まっている器官です。腸を健康にするために、犬にあった食物繊維を与えてあげましょう。食物繊維の量だけでなく、種類・バランスに配慮することが大切です。(犬に合った食物繊維については、別ページで詳しくご案内します。)

もう一つ、「免疫力維持のスイッチ成分」の存在も重要です。キノコ由来βグルカンや菌由来LPSなどの成分は、犬の免疫スイッチをオンにしてくれます。

犬のリンパ腫に対応した食事療法食(ドッグフード)、「犬心 元気キープ」のWebサイトはこちらです。

「犬のリンパ腫」に対応、食事療法食(ドッグフード)

食事療法 実践のコツ

犬のリンパ腫の食事療法を実践するコツについて、「市販ドッグフード・療法食の活用」と「手作り食」それぞれでご案内します。

市販ドッグフード・療法食の活用

「犬のリンパ腫・食事療法5つのポイント」にもとづいて、ドッグフード・療法食をチェックしましょう。「低糖質・高脂肪(高オメガ3脂肪酸)・高タンパク質」がまず抑えるべきポイントです。

ただし、「高脂肪」については、酸化の問題はどうか(添加物・酸化防止剤の添加でごまかされていないか)、オメガ3脂肪酸の含量はどうか、も併せて留意しなければなりません。そして、「良質な高脂肪」を満たすためには、ドライフードだけでは技術的に難しい面があります。そのため、

  • 缶詰・ウェットフードを与える
  • ドライフードの脂肪含量は15%程までで、そこにプラスで亜麻仁油などオメガ3オイルをトッピングする

いずれかの方法とるが現実的です。さらに、犬のリンパ腫に理想的なドッグフードの条件として、次の要素もチェックしましょう。

  • アルギニン(アミノ酸の1種)を2%以上含んでいる
  • 犬の腸の健康に配慮した内容で、善玉菌アップが実現できる
  • 添加物や悪質な原料をひかえ、安全な製法をとっている

なお、犬のがん・腫瘍に対応した療法食もあり、リンパ腫の食事管理も実現できるため、2商品をご紹介します。

1)ヒルズ社 犬用n/d(缶詰タイプ)

多くの動物病院に流通している、犬のがん・腫瘍対応の療法食です。やや高額な商品ですが、リンパ腫をケアできる内容となっています。

2)犬心 元気キープ(ドライフード+オメガ3オイル)

私たちが開発した、犬のがん・腫瘍対応の療法食です。ドライフードだけでは、技術的に「良質な高脂肪」を実現できないため、トッピング用オメガ3オイルとのセット商品としてお届けしています。

犬のがん・腫瘍をケアする栄養内容であることはもちろん、自然原料・手作り製法にこだわった内容となっています。

→ 犬のリンパ腫対応の食事療法食「犬心 元気キープ」

手作り食による実践

手作り食により、犬のリンパ腫の食事療法を実践することもできますので、そのポイントをご案内します。

  • 肉・魚をメインに与える。(軽く茹でて与える。消化しやすいように、細かく刻んであげるのもOK。)
  • 玄米・大麦・イモ類を適量加える。(これらは、血糖値があがりにくい炭水化物源・食物繊維源であり、適量与えることはメリットが大きい。)
  • 緑黄色野菜は、与えなくてもよい。与えるとすれば、少量をしっかり茹でて茹で汁を捨てるようにする。
  • 大豆食品は、少しであれば与える方が好ましい。与えすぎはNG。
  • キノコ類・海藻などは、消化の負担にならない程度に与えることはプラス。
  • 甘いおやつ・スイーツ類・白パンは与えてはいけない。
  • 亜麻仁油などをトッピングすることもお勧め。
  • がん・腫瘍対応の療法食と手作り食を混ぜるのも良い。

リンパ腫の犬は、食欲をなくしているケースも多く、上記の理想を全て実現することは難しいかもしれません。実践できる範囲で、お試しいただければ幸いです。

犬のリンパ腫 まとめ

  • 犬のリンパ腫は、基本的に全て悪性腫瘍であり、早期症状での治療が望まれる。
  • 犬のリンパ腫は、進行に応じて5段階のステージわけがなされている。ステージや症状をみながら、「抗がん剤」「放射線療法」「ステロイドなどの薬剤治療」「手術」などの治療方法が検討される。
  • 犬のリンパ腫の食事療法には、「糖質制限」「高脂肪」「高オメガ3脂肪酸」「高タンパク質・アルギニン」「腸の健康、免疫力維持」の5ポイントが挙げられる。
  • リンパ腫の食事療法を実践するにあたり、「市販ドッグフード・療法食の活用」「手作り食」それぞれで対応可能である。