犬の乳腺腫瘍 治療と食事

犬の乳腺腫瘍、治療と食事

乳腺腫瘍は、犬のがんの中で最も症例が多いものの一つで、主にメスに見られる腫瘍です。乳癌(乳がん)と同じ病種としてとらえられることが一般的です。(より悪性な乳腺腫瘍を「乳がん」と呼ぶ傾向にあります。)

<目次>

犬の乳腺腫瘍 症状・原因

犬の乳腺腫瘍・乳がんでよくある症状として、下記が挙げられます。

  • 妊娠していないのに、犬の乳頭付近に腫れがみられる
  • 胸まわりを触られるのを嫌がる
  • 食欲や元気がない(痩せてくる)

乳腺腫瘍の原因

犬の乳腺腫瘍では、原因がはっきりしていません。ただ、ホルモンバランスの関与するケースが多いとされています。発情前に避妊手術を行った犬では、乳腺腫瘍の発症率がかなり低くなるため、女性ホルモンのバランスが発症原因に関わっていることは間違いないと思われます。

治療前の留意点

犬の乳腺腫瘍の治療をはじめる前に、注意すべきポイントをご案内します。

良性・悪性の見極め

犬の乳腺腫瘍では、良性と悪性の両方があります。良性の乳腺腫瘍であれば、手術で切除することもできますし、経過観察でも寿命をまっとうできることもあります。悪性腫瘍では、犬の状態によっては余命宣告を受けることもあり、何らかの対処が必要です。最終的には、手術による乳腺腫瘍の組織検査を行い、良性か悪性かが決まります。ただし、これでは手術前に見極めることができないため、次のような方法により、良性腫瘍・悪性腫瘍を推測します。

1)触診

  • 腫瘍がコリコリしており、触ると動くような感覚がある → 良性腫瘍
  • 腫瘍が他の組織にしっかりとくっついている → 悪性腫瘍

2)腫瘍の大きさ

  • 小さい乳腺腫瘍(1cm以下など) → 良性腫瘍の可能性が高い。
  • 大きい乳腺腫瘍(3cm以上など) → 悪性腫瘍の傾向。ただし、良性腫瘍が時間とともに大きくなっていることもある。

3)大きくなるスピード

悪性の乳腺腫瘍は、スピードが速い。

4)乳腺腫瘍の破裂

悪性腫瘍の表面では、皮膚がやぶれて破裂したような状態になることもある。

5)細胞診

腫瘍の断片をとり、良性・悪性の仮判定を行う。

乳腺腫瘍の転移について

犬の乳腺腫瘍では、リンパ節や肺への転移がみられることがあります。触診・細胞診によりリンパへの転移をチェックし、胸のレントゲン検査により肺転移の有無をみるのが一般的です。ただ、これらの検査のみでは、初期転移を見逃す可能性が高く、乳腺腫瘍の手術の際に、リンパ節を一部カットし、術後に転移がないか病理検査が行われます。

乳腺炎・乳腺肥大との比較

また、乳腺付近に「しこり」があっても、乳腺腫瘍・乳がんとは限りません。犬の「乳腺炎」「乳腺肥大」も考えられます。

  • 乳腺炎 → 主に、細菌感染や乳汁のつまりが原因で、犬の乳腺に炎症がおこります。乳腺が熱っぽくなる、腫れる、乳汁がもれ出たり出血することもある、などの症状が見られます。消炎剤や抗生物質の投薬により、治療することが一般的です。ひどい症状の場合は、手術を行うこともあります。
  • 乳腺肥大 → 発情後など、犬の乳腺が発達する際におこります。ホルモン分泌にともなう、一時的なものであり、発情後数ヶ月以内におさまります。症状に改善がみられない場合は、乳腺腫瘍の可能性もあります。

乳腺腫瘍の治療方法

手術

犬の乳腺腫瘍の治療について、まずは外科手術が考えられます。転移がなければ、手術により根治することが多いです。(手術後に免疫力を維持し、再発しないようにケアを心がけましょう。)

リンパなどに腫瘍が転移している場合は、根治が難しくなります。それでも、乳腺腫瘍を放置していると、どんどん大きくなり、痛みなどにつながるため、手術を勧められることが多いです。また、転移がみられれば、放射線治療や抗がん剤を選択されることもあります。ただし、全身への抗がん剤治療については、転移を緩和するような成果がえられておらず、必ずしも有効とはいえない状況です。

それから、手術により乳腺腫瘍を取りきれない際は、再発リスクもあることから、局所的な放射線治療も合わせて行うことがあります。

食事療法5つのポイント

犬の乳腺腫瘍では、手術などの治療と合わせて、「食事療法」の検討も必要です。乳腺腫瘍の犬は、「腫瘍に栄養を奪われる」「犬自身は活力・免疫力が低下する」という代謝トラブルを抱えており、食事・ドッグフードによる管理が望まれます。

乳腺腫瘍の犬に対応した、食事療法を5つのポイントにまとめ、ご案内します。

1)糖質制限

腫瘍は、糖質が大好物。犬から血糖を奪い、進行・転移がおこる原因ともなります。逆に、糖質を制限してやれば、腫瘍はエネルギー不足となります。

そのため、食事・ドッグフードから糖質を減らし、乳腺腫瘍のエネルギー源を断つことが1つめのポイントとなります。

2)良質な高脂肪

糖質・炭水化物を制限すると、腫瘍だけではなく、犬自身もエネルギー不足になってしまいます。そこで、「脂肪」をエネルギー源としてたっぷり与えることが大切です。脂肪は、犬のエネルギー源となるだけではなく、腫瘍は利用することができません。

ただし、脂肪の「質」にも目を向けなければなりません。

脂肪は、高温加熱や酸素接触により、すぐに「酸化(金属でいうサビの状態)」してしまいます。酸化した脂肪は、犬にとって有毒なため、乳腺腫瘍のワンちゃんにもマイナスです。だから、できる限り酸化していない脂肪を与えるようにしましょう。

3)オメガ3脂肪酸

脂肪の「質」に関することで、「オメガ3脂肪酸」と呼ばれる成分をたっぷり与えることも重要です。オメガ3脂肪酸は、魚や一部の植物に含まれており、犬のがん・腫瘍における臨床報告が豊富です。

「高脂肪」の中でも、できるだけ「オメガ3脂肪酸」量の多い食事・ドッグフードがお勧めです。

4)高タンパク質・高アルギニン

乳腺腫瘍の犬は、元気・活力を失う、という症状がみられます。そのため、犬の活力源である「タンパク質」をたっぷり与えなければなりません。そして、できれば消化しやすくアミノ酸バランスのとれたタンパク質を与えるようにしましょう。

あわせて重要な点が、「アルギニン」というアミノ酸です。アルギニンは、オメガ3脂肪酸との相乗効果が報告されるなど、犬のがん・腫瘍の食事療法ではカギとなる成分の一つです。できれば、ドッグフード・食事内のアルギニンは2%以上含まれていることが望まれます。

5)免疫力キープ

犬の乳腺腫瘍では、免疫力を保つドッグフード・食事も大切です。犬の免疫力を保つドッグフード・食事として、次の2点をご紹介します。

  • 「腸の健康」につながる「食物繊維」の適量・種類・バランスにこだわったドッグフード・食事
  • βグルカンやLPSなど、免疫力キープのスイッチとなる成分を含むドッグフード・食事
犬の乳腺腫瘍に対応した食事療法食(ドッグフード)、「犬心 元気キープ」のWebサイトはこちらです。

「犬の乳腺腫瘍」に対応、食事療法食(ドッグフード)

食事療法 実践のコツ

犬の食事対策

市販ドッグフード・療法食の活用

市販のドッグフードから、乳腺腫瘍の犬に適したものを見つけるチェックポイントをお伝えします。

  1. 「低糖質」「質のよい高脂肪」「高タンパク質」すべてに該当しているか?
  2. 「オメガ3脂肪酸(推奨値:5%以上)」「アルギニン(推奨値:2%以上)」を十分に含んでいるか?
  3. 免疫力キープにつながる内容か?(腸内の善玉菌アップにつながるか?免疫キープの成分を含んでいるか?)
  4. 自然な原料(添加物などは最小限)、酸化しない製法・工夫など、安全安心に留意しているか?

これらをおおよそ満たしているドッグフードであれば、犬の乳腺腫瘍の食事療法が期待できるでしょう。

なお、犬のがん・腫瘍に対応した療法食を活用すれば、乳腺腫瘍の食事管理も可能となります。

乳腺腫瘍ケアの療法食1)ヒルズ社 n/d(缶詰タイプ)

犬のがん・腫瘍に対応した療法食で、「低糖質」「高脂肪」「高オメガ3脂肪酸」「高タンパク質」「高アルギニン」を満たしています。やや高額なので、この商品だけでは価格負担が大きくなる点がネックです。

乳腺腫瘍ケアの療法食2)犬心 元気キープ(ドライフード+オメガ3オイル)

私たち自身が開発した、犬のがん・腫瘍ケア療法食です。「犬の乳腺腫瘍・食事療法5ポイント」を満たし、自然原料・自然を活かす製法にもこだわっています。

→ 犬の乳腺腫瘍に対応、ナチュラル療法食「犬心 元気キープ」

手作り食のコツ

犬の乳腺腫瘍の食事管理を「手作り食」で行うことは、知識と工夫がともないます。ここでは、そのエッセンスをご案内します。

  1. メインは生肉・生魚。肉・魚を軽くゆで、食欲・病状などにより細かく刻んで与える。
  2. 玄米・大麦・イモ類などを適量与える。(肉・魚10に対して、穀物・イモ1~3程。)
  3. 緑黄色野菜は控えめ。与えなくても良い。与えるならば、少量をしっかりと茹で、茹で汁を捨てる。
  4. 豆類・大豆食品は、少量与えるならばOK。過剰量はNG。
  5. キノコなどは負担にならない範囲で与えると、免疫力キープにつながる。
  6. 甘いもの・スイーツ類は避ける。白パンもNG。(消化しやすい糖質・炭水化物系の食品は避ける。)
  7. 亜麻仁油など、オメガ3脂肪酸が豊富なオイルを適量トッピングすればなお良い。(食事全体の脂肪量を25%ほどに調整する。)

犬の乳腺腫瘍 まとめ

  • 犬の乳腺腫瘍では、良性腫瘍・悪性腫瘍のみきわめなど、症状チェックや検診を治療前に行うことが大切。
  • 犬の乳腺腫瘍の治療について、切除可能で腫瘍が独立していれば、手術が候補となる。放射線治療や抗がん剤も適宜、検討される。
  • 犬の乳腺腫瘍に対応した食事療法として、「糖質制限」「質のよい高脂肪」「高オメガ3脂肪酸」「高タンパク質・アルギニン」「免疫力キープ」が挙げられる。
  • 食事療法を実践するために、「市販ドッグフード・療法食」「手作り食」のポイントを抑えることが重要。