犬のがん(癌)・腫瘍 治療と食事

犬のがん・腫瘍、治療と食事

がん(癌)・腫瘍性疾患の犬は、「腫瘍に栄養を奪われる」という特殊なトラブルを抱えています。そのため、がん(癌)・腫瘍の食事療法は、「栄養を奪われずに、犬自身の元気をキープする」という内容になります。

このページでは、犬のがん・腫瘍性疾患の種類、症状、原因、治療法をまとめながら、食事療法について、5つの栄養ポイントをご紹介します。

<目次>

犬のがん(癌)腫瘍、種類・症状・原因・治療法

犬のがん・腫瘍性疾患には、様々な種類があります。人間ではあまり見られない犬特有の病種もあります。

乳腺腫瘍・乳がん

乳腺腫瘍・乳癌(乳がん)は、犬のがん・腫瘍性疾患の中でも、最もよくみられる病種の一つです。腫瘍が認められること以外にも、乳頭近くの腫れ・胸をさわると嫌がる素振り、などは乳腺腫瘍・乳がんの症状として挙げられます。

乳腺腫瘍・乳がんの治療方法

乳腺腫瘍・乳がんの原因の一つとして、ホルモンバランスの関与が示唆されています。発情前に避妊手術を行うと、犬の乳腺腫瘍の発症率が下がるという報告もあります。

犬の乳腺腫瘍では、治療前に良性腫瘍・悪性腫瘍のいずれなのか、見きわめることも大切です。もし、悪性の乳腺腫瘍であれば、転移などの進行状態をチェックしながら、治療を行うことになります。(良性の乳腺腫瘍であっても、手術切除などが望まれます。)

転移がみられない乳腺腫瘍であれば、まず考えられる治療方法は手術になります。転移があった場合、手術による乳腺治療の完治は難しくなります。転移があれば、抗がん剤・放射線治療も多くは期待できないため、犬の状態をみながら、乳腺腫瘍の完治よりも緩和をめざす治療が一般的です。

※犬の乳腺腫瘍について、詳しくは「犬の乳腺腫瘍 治療と食事」でお伝えします。

肥満細胞腫

肥満細胞腫は、犬のがん・腫瘍性疾患の中でも、症例が多い病気です。悪性腫瘍であることが多く、完治が難しい病気です。発症原因もはっきりわかっていません。

肥満細胞腫の治療方法

犬の肥満細胞腫は、グレード1~3に進行度が分かれており、できるだけ初期症状での治療が望まれます。治療方法として、手術による切除、抗がん剤治療などがあります。また、分子標的治療として、新薬であるイマチニブが使用されることもあります。

※犬の肥満細胞腫について、詳細は「犬の肥満細胞腫 治療と食事」でご紹介しています。

リンパ腫

犬のリンパ腫は、血液がんの一種であり、「リンパ球」が癌(がん)化した病気です。犬のリンパ腫では、全てが悪性腫瘍であり、見つかったときには末期症状ということも多いです。はっきりとした原因もわかっていません。

犬のリンパ腫の治療方法

完治が難しいことを前提に、治療が行われます。犬のリンパ腫では、抗がん剤・ステロイド・抗生物質などの薬剤により、症状を緩和する治療がメインです。また、リンパ腫進行の目安として、5段階のステージ分けがなされており、ステージごとのプロトコール(複数の抗がん剤の治療方法)に沿った治療が検討されます。

※「犬のリンパ腫」の詳しい治療方法や食事対策については、「犬のリンパ腫 治療と食事」をご覧ください。

メラノーマ

皮膚・口・爪など、身体の各所に黒色の腫瘍ができる犬のメラノーマ(黒色腫)。犬のメラノーマには良性腫瘍と悪性腫瘍があり、悪性の場合、余命が告げられることがあるほど、難治性のがんです。

犬のメラノーマでは、ホクロのような黒い腫瘍ができる初期症状があります。原因は不明ですが、肺やリンパへ転移しやすく、進行が早いタイプのがんです。

犬のメラノーマ 治療方法

メラノーマの状態や犬の体力などにより、手術が検討されます。切除が難しい場合は、抗がん剤・放射線治療も選択されます。

※犬のメラノーマについて、さらに詳しくは「犬のメラノーマ 治療と食事」をご覧ください。

脳腫瘍

脳腫瘍の犬では、痙攣などの発作や失神、反応の鈍さなどの症状が見られるようになります。そのため、てんかん・脳梗塞などと間違われることも多いです。原因がはっきりしておらず、治療も難しい病気です。

犬の脳腫瘍の治療方法

脳腫瘍を切除できる場合、手術が検討されます。ただし、犬への後遺症や、再発・転移がみられることもあります。

犬の症状や状態により、放射線療法や抗がん剤治療が行われることもあります。これらは、完治よりも脳腫瘍を緩和するための治療です。ただ、脳への副作用リスクもあるため、治療を慎重に進めなければなりません。

犬の脳腫瘍は治療がとても難しく、漢方・サプリメント・食事療法などにより、内側からケアすることも選択肢です。

※犬の脳腫瘍の治療・食事対策について、詳細を「犬の脳腫瘍 治療と食事」でお伝えしています。

肝臓がん

犬の肝臓がんは、原発性のものもありますが、他からの転移により発症することがより一般的です。症状があらわれにくく、腫瘍がみつかったときには末期症状ということもよくあります。

肝臓は、血液やリンパが流れ込む臓器であるため、がん転移がおこりやすい原因となっています。

犬の肝臓がんの治療方法

原発性の肝臓がんでは、手術が検討されます。切除により、完治も望めます。手術ができなければ、放射線療法やサプリメント・食事療法などが検討されます。

※犬の肝臓がんの対策について、詳細は「犬の肝臓がん 治療と食事」でご案内しています。

血管肉腫

血管できる癌(がん)として知られる「犬の血管肉腫」。血管のあるところならどこでも発症する悪性腫瘍です。転移がおこりやすく、発見時には末期症状ということもあります。犬の脾臓・皮膚・心臓などにみられることが多いです。犬の血管肉腫は原因がわかっておらず、まだまだ謎の多いがんです。

犬の血管肉腫の治療方法

腫瘍が独立し切除しやすい場合は、手術治療が一つです。手術により完治することもありますが、再発・転移のリスクもあるため、予後も食事などに気を付けなければなりません。

手術が難しければ、抗がん剤治療が検討されます。犬の状態をみながら、なるべく副作用がでないように投薬をコントロールすることが望まれます。

健康的な余命のことを考えると、犬の食事も大切です。免疫力をおとさず、血管肉腫に対抗できるような食事・ドッグフードが望まれます。

※犬の血管肉腫について、さらに詳しい内容を「犬の血管肉腫 治療と食事」でお伝えしています。

皮膚がん

犬の皮膚がんは、様々な病種があり、良性腫瘍・悪性腫瘍の見わけや他の皮膚病との区別も難しいところがあります。原因がはっきりわかっておらず、難治性の病種もあることから、皮膚がんの初期症状で見つけることが望まれます。愛犬の気になる皮膚のしこりや腫物は、早めの検査を心がけましょう。

犬の皮膚がんの治療方法

犬の皮膚がんの治療について、腫瘍が一部位にかたまっている場合は、手術が一つの選択肢です。転移がある場合などは、手術・抗がん剤・放射線治療を幅広く検討することになります。

また、ドッグフード・食事により、皮膚の腫瘍をコントロールし、犬の活力・免疫力を維持することも大切です。

※犬の皮膚がんに関して、「犬の皮膚がん 治療と食事」で詳しくご案内しています。

食事療法5つのポイント

食事のポイント

それでは、いよいよ、犬のがん・腫瘍性疾患の食事療法について、ご案内します。犬のがんには多くの種類があるものの、抱えている栄養トラブルの基本は、ほぼ全ての腫瘍性疾患に共通した3点に集約されます。

◇犬のがん・腫瘍性疾患の3大栄養トラブルとは?

がん・腫瘍性疾患のワンちゃん達は、深刻な栄養代謝トラブルを抱えています。栄養トラブルの内容は大きく分けて3つ。順番に見ていきましょう。

トラブル1)がん・腫瘍に糖質を奪われる

がん・腫瘍は、糖質をエサに成長を続けます。特に、ブドウ糖や砂糖など、利用しやすい糖が大好物。さらに、糖質を奪われるため、ワンちゃん自身はエネルギー不足になります。

トラブル2)タンパク質の不足

栄養を奪われることに加えて、がん・腫瘍との共存により、代謝異常が生じます。その一つが「タンパク質の不足」です。

タンパク質不足を補うために、ワンちゃん自身の身体のタンパク質をも利用することになります。その結果、身体がやせていき、活力を失うことになります。

トラブル3)免疫力の低下

ワンちゃんの身体の中で、がん・腫瘍に対抗してくれるものが「免疫細胞」です。ワンちゃんが健康な間は、免疫細胞も元気に働いてくれるため、病気に打ち勝つことができます。

一方で、がん・腫瘍性疾患が発症すると、免疫力が弱まってしまいます。そして、免疫力の低下が、がん・腫瘍の勢いをさらに増すことにつながります。

◇犬のがん・腫瘍、5つの食事管理法

犬のがん・腫瘍性疾患の食事療法は、3大栄養トラブルへの対処がポイントとなります。

  • 糖質の制限

がん・腫瘍のエサとなる「糖質」を制限することが、食事管理1つめのポイントです。

ブドウ糖や砂糖など、がん・腫瘍が利用しやすい糖質を除くことはもちろん、消化しやすい炭水化物も控えめにしましょう。ただ、難消化性の炭水化物は、逆に糖質の吸収をブロックする効果があるため、がん・腫瘍対策にプラスとなりえます。

  • 高脂肪

2つめのポイントは、「高脂肪」です。糖質・炭水化物を制限すると、犬自身もエネルギー不足におちいります。そのため、糖質のかわりに脂肪を与えてあげるのです。

元々、肉食性の強いワンちゃんたちは、私たち人間と比べて脂肪代謝が得意。そして、脂肪をエネルギー源として活用することができます。さらに、がん・腫瘍は脂肪を利用することができません。

つまり、糖質制限+高脂肪により、がん・腫瘍をエネルギー不足に追い込みながら、犬自身は活力をキープすることができるのです。

  • 高オメガ3脂肪酸

高脂肪が良いとはいえ、質の悪い脂肪を与えていては、ワンちゃん自身の健康によくありません。そこで、できるだけ多く与えたいものが「オメガ3脂肪酸」と呼ばれる脂肪です。

オメガ3脂肪酸は、犬自身が体内でつくることができず、必ず与えないといけない栄養素。魚や一部の植物に多く含まれています。

実際に、「オメガ3脂肪酸」のがん・腫瘍性疾患への臨床報告は数多くあり、犬だけではなく哺乳動物全般に有用な成分です。

ただし、「オメガ3脂肪酸」にも留意点があります。酸化しやすい、という欠点があるのです。酸化とは、酸素にふれることにより劣化してしまう、金属のサビのような現象です。脂肪の酸化は、ワンちゃんの身体にダメージを与えるため、食事から排除しなければなりません。オメガ3脂肪酸は、高熱下や空気にふれる時間が長くなると、すぐに酸化してしまうため、できるだけ熱をかけず、あまり空気にふれさせずにワンちゃんに与えることが重要です。

  • 高タンパク質、高アルギニン

がん・腫瘍により、タンパク質不足となっている犬のために、しっかりとタンパク質を補給してあげることも大切です。さらに、犬にとって消化しやすいタンパク質を補うことが望ましいです。

そして、タンパク質の構成要素である「アミノ酸」の種類・バランスにも配慮が必要。特に、「アルギニン」と呼ばれるアミノ酸は、がん・腫瘍の食事療法で重視される成分です。

  • 免疫力の維持

免疫力をできるだけ高くキープすることも、重要ポイントです。

そのために、まずは「腸の健康」を意識しましょう。中でも小腸は、免疫細胞の70%が集まり、免疫器官とも呼ばれています。腸の健康により、免疫力を維持することができます。

もう一つは、免疫力をキープする成分を食事に加えることが挙げられます。小腸の表面には、免疫力のスイッチとなる物質が無数にあります。このスイッチに刺激を与える成分を適量取りいれることが大切です。例えば、キノコ類のβグルカンなどは、数多くの科学報告がなされており、犬に与えることによって、免疫力維持が期待できます。

食事療法の実践

がん・腫瘍のワンちゃんには、どんな市販ドッグフード・療法食を選らんであげれば良いのか、そして、手作り食はどのやって実践するのか、ご紹介します。

市販ドッグフード・療法食の選び方

「犬のがん・食事療法5つのポイント」に準じて、ドッグフード・療法食を選んであげましょう。つまり、

  • 低糖質・低炭水化物(血糖値をコントロールできる内容)
  • 良質な高脂肪(特に、酸化していないオメガ3脂肪酸をたっぷり)
  • 良質な高タンパク質(消化によいもの、高含量のアルギニン)
  • 免疫力維持(腸の健康への配慮、βグルカン・LPSなど免疫キープ成分)

といったポイントをチェックすることが重要です。

そして、栄養成分だけではなく、原材料や製造方法にも目を向けるようにしましょう。ナチュラルで納得感のある原料を使用していること、脂肪の酸化防止やタンパク質の変性抑制、消化性への配慮、フレッシュさを保つ工夫などを行っていること、などが検討ポイントです。

犬のがん・腫瘍性疾患に対応した食事療法食(ドッグフード)、「犬心 元気キープ」のWebサイトはこちらです。

「犬のがん・腫瘍」に対応、食事療法食(ドッグフード)

手作り食・実践のコツ

「犬のがん・食事療法」は、栄養条件が極端なところ(特に高脂肪(高オメガ3脂肪酸))があるため、手作り食は飼い主さんにとって難しい面があります。また、食欲不振になる犬も多く、食べさせるだけでも苦労されることも少なくありません。

そのような飼い主さんにとって、実践しやすく、ワンちゃんにも優しい「手作り・食事療法」のコツをご案内できればと思います。

まず、脂身の少ない肉・魚をメインに据えます。「高脂肪」が食事療法のポイントだとはいえ、動物性脂肪を過剰に与えることは好ましくないため、脂身を多量に与えることは避けてください。そして、肉・魚を軽くボイルしてあげましょう。焼いた肉が好きな子には、焦がさないように焼いてあげても構いません。消化しやすいように、細かく切ってあげることも良いでしょう。

次に、玄米・大麦・イモ類などを適量ミックスします。低・炭水化物も食事療法の一つですが、血糖値を高めないことが大事であるため、血糖コントロール可能な穀物・イモ類はOKです。ただし、多量に与えると、血糖値が上がり、がん・腫瘍に栄養をおくることになるため、適量が望まれます。さらにいうと、炊飯した穀類と炊飯していない穀類粉を混ぜることが好ましいです。それにより、血糖コントロール・腸の健康、それぞれを実現することができます。

野菜は、与えなくても構いませんし、与えるとしてもごく少量にとどめましょう。そして、しっかり茹でて茹で汁をすてることをお勧めします。野菜の繊維質は、犬にとっては固めであり腸に負担をかけることになります。そして、野菜には犬が苦手とする成分も含まれているため、あまり多量に与えることは得策ではありません。

キノコや海藻は、細かく刻んで茹で、与えていただくことがお勧めです。キノコ・海藻の繊維は、熱に強く、犬の腸の健康と免疫力キープに貢献してくれます。また、大豆食品を少量のみ与えることもプラスです。

なお、甘いものや白パンなどは、極力与えないようにしてください。これらは、がん・腫瘍の好物であり、犬自身の活力が奪われていまいます。(フルーツであれば、少量与えていただいても構いません。)

おやつを与えるのであれば、茹でた鶏ササミなどが良いでしょう。その他、鹿肉・魚なども、がんのワンちゃんのおやつには適しています。

犬のがん・腫瘍、治療方法や食事療法のまとめ

  • 犬のがん・腫瘍はとても多様で、病種により症状・原因・治療方法が異なる。
  • 多岐にわたる犬のがん・腫瘍だが、共通の栄養トラブルをもっている。
  • 栄養トラブルに対応した、「犬のがん・腫瘍 食事療法」には、「低・糖質」「高・脂肪」「高・オメガ3脂肪酸」「高タンパク質・アルギニン」「免疫力維持」という5つのポイントがある。
  • 犬のがん・食事療法を実践するために、市販ドッグフード選び、手作り食づくり、それぞれを5つの栄養ポイントに応じて行うことが大切。